医学界新聞

2010.08.09

女性医師が,再び現場で活躍するために


 「明日の医療を担う医師養成教育プログラムの開発と展開――女性医師復職支援プログラムの成果を踏まえ」と題されたシンポジウムが7月1日,東京医科歯科大学(東京都文京区)にて開催された。このシンポジウムは文科省の「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」の一環として,同プログラムの委託事業を行う東京医歯大の主催で開かれたもの。シンポジウム第2部(座長=東京医歯大・奈良信雄氏)では,子育てなどで離職した女性医師の復職支援には何が必要か,現状や取り組みが語られた。


女性医師の復帰研修でも使用されている,東京医歯大スキルスラボの見学も行われた。写真は実習中の学生。
 シンポジウムではまず,Kara Gilbert氏(Monash大)がオーストラリアの現状を語った。オーストラリアでは現在,医学生の60%は女性であり,女性医師の占める割合は,2025年には42%に達すると予想されているという。氏は女性医師の継続的な能力開発(Continuing Professional Development:CPD)には,交代要員の確保など組織的サポートと,サポーティブな職場の雰囲気作りが大切だとした。さらにCPDにおいては,女性医師が効率的に学べるよう,非対面式の授業や小グループでの学習を推奨。CPD,職場の雰囲気作り,組織や制度の指針作りという3点において,女性医師への社会的支援の方針が統一されるべきであると結論付けた。

研修で復職への不安を解消

 「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」の委託事業は女子医大においても進められており,同大の川上順子氏による報告がなされた。氏は,「どんなに細くとも臨床との絆を切ってはいけない」と前置きした上で,それでも離職せざるを得なかったときのセーフティネットとして,同大の「女性医師再教育センター」を位置付けた。同センターは,相談者一人ひとりにオーダーメイドの研修プログラムを提供しており,2006年の開設から現在までの相談件数は120件にのぼる。成果としては,相談申請時と現在とで休職中の人数が大きく減り,常勤で働く人が増えているとのこと。なお同大ではe-ラーニングによる学習支援も導入しており,これには約2500人の登録者がいる。氏は最終的な目標を「男女問わずすべての勤務医が良好な環境で理想の医療ができること」と定め,その切り口の一つとして,女性医師の復職支援に取り組みたいと話した。

 主催の東京医歯大からは鈴木利哉氏が,同大の「医師不足,診療科偏在の解消に向けたママさんドクター・リターン支援プログラム」を解説した。氏は,女性医師の復職を阻む要因として,(1)治療手技再開への不安,(2)最新の医学知識獲得への不安,(3)家事・育児の負担を挙げ,そうした不安の解消のため,約2週間で最新の医療についての講義やシミュレーション実習,さらに病院での外来・病棟実習を受けられるプログラムを実施しているという。2008年から現在までで,内科コース15人,小児科コース8人,産婦人科コース4人の参加者があり,その多くが何らかの形で復職しているとのこと。氏は,プログラムの最終年度となる本年度は,全国の潜在的な復職希望女性医師に向け,さらに積極的な発信を行っていきたいと述べた。

 最後に,実際に東京医歯大の復職支援事業に参加した3人の女性医師が体験を語った。そのうちの一人,高橋恵理氏(取手協同病院)は,初期研修修了後18年間専業主婦として過ごしていたが,昨年同大の研修を受け仕事に復帰。焦りや後ろめたさをずっと感じながらも,一人で復帰をめざすのは困難でこれまで復職のタイミングを逸していたが,こうした事業の存在を知り,勇気を出して門を叩いたことで道が開けたという。氏は,「一人でも多くの女性医師がこうしたプログラムに参加し,できる範囲で復帰の準備を続けてほしい。母であることを誇りに思い,その経験を仕事に生かして」と訴えた。

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