敗血症性ショックの初期治療はカルバペネム+バンコマイシンで良いか?(柳秀高)
寄稿
2010.07.05
【Controversial】
ココモンディジーズの診療において議論のあるトピックスを,Pros and Cons(賛否)にわけて解説し,実際の診療場面での考え方も提示します。
敗血症性ショックの初期治療はカルバペネム+バンコマイシンで良いか?
柳 秀高(東海大学医学部講師・内科学系総合内科)
敗血症の治療は時間との戦いである。適切な抗菌薬の開始が遅れると生存率は刻一刻と低下する(図)1)。敗血症のガイドラインでは1時間以内に必要な培養を提出した後で,十分広域な抗菌薬を開始することを推奨している2)。
図 有効な抗菌薬が開始されるまでの時間と生存率の関係1) |
しかしながら,中心静脈ラインや動脈圧ラインを挿入し,必要に応じて気管挿管し,適切な輸液,血管収縮薬,輸血,陽性変力作用薬を投与しながら,病歴聴取と身体診察,検査などから感染巣を推定し,可能ならばグラム染色も行った上で,1時間以内に適切な抗菌薬を選択することは至難の業である。さらに,近年ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や緑膿菌,ESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生腸内細菌などによる重症感染症も増加してきており,この作業をさらに困難なものにしている3)。一方で,耐性菌の増加に対しては院内感染コントロールのみならず,抗菌薬の適正使用を推進する必要性も年々大きくなってきている3,4)。
求められる初期治療
敗血症性ショックの初期治療は,広域なカルバペネム+バンコマイシンの組み合わせで開始し,培養結果がわかってからde-escalationすれば良いだろうか。
忙しい救急・集中治療領域では,カルバペネム+バンコマイシンであればとりあえずは臨床的に重要な細菌の大部分をカバーできることから,重症敗血症や敗血症性ショックのほぼ全例で使う,という極論もあるようだ。一方で,感染臓器や起因菌を推定し,グラム染色などでなるべく微生物を詰めてから,必要十分なスペクトラムを持った抗菌薬を選択する,というオーソドックスな意見も認められる。
Pros
敗血症性ショックへの初期抗菌薬投与は生命予後に直結するため,近年の耐性菌の増加を考えると広域にならざるを得ないだろう。ガイドラインも「広域抗菌薬」を推奨している2)。MRSAや耐性グラム陰性桿菌などをカバーするためにカルバペネム+バンコマイシンで始めても,血液培養最低2セット以上を含めて適切な検体を培養に供するので,培養結果に基づいてde-escalationをきちんと行えば問題はない。
救急・集中治療領域では感染症専門医にすぐアクセスできない環境も多く,呼吸循環不全への対処などで抗菌薬の選択について十分な時間が割けないこともあり,患者の安全を考えればなるべく広域なカルバペネム+バンコマイシンが選択されるべきである。
Cons
一口に敗血症といっても,当然感染巣はさまざまである。免疫抑制剤とステロイドを服用中の腎移植後の患者が壊死性筋膜炎で敗血症性ショックになっている場合は,特に過去に耐性グラム陰性桿菌やMRSAの感染歴や定着を認めれば“カルバペネム+バンコマイシン”の組み合わせは適切であろう(クリンダマイシンも蛋白合成阻害の目的で加えるかもしれない)。
しかし一方で,生来健康な高齢者で病院受診歴がない人が尿路感染,敗血症性ショックで搬送され,尿のグラム染色でグラム陰性桿菌が認められる場合も同じ組み合わせで良いだろうか? もしこれに違和感を覚えないならそれこそ異常である。百歩譲って,その医療施設でESBL産生大腸菌が高頻度で認められるので,ショックを離脱するまではカルバペネムを入れておきたい,というのは良いかもしれないが,バンコマイシンを必要とする理由はない。
つまり,病歴(市中感染vs.医療施設関連感染,患者の免疫状態を含む),身体所見,一般検査(過去の培養結果を含む),画像所見から感染臓器,起因菌を推定し,グラム染色でさらに絞り込んだ上で,敗血症性ショックという後がない状況と自施設でのローカルファクターを考慮して,十分なスペクトラムを持った抗菌薬を選択するのが常道である1,2)。これを疑問視するのは,「どうして医療現場では病歴と身体所見を取らなければいけないのですか? その根拠は?」と,問うているのと同レベルである。
!私はこう考える
私はConsを支持する。感染症の専門性があまり高くない救急,集中治療施設では,「カルバペネム+バンコマイシンの組み合わせを基本レジメンとして決めておいたほうが安全では?」という意見も一部あるようだが,これは必ずしも最善とは言えない。
カル...
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