医学界新聞

2010.05.24

第99回日本病理学会開催


 第99回日本病理学会が4月27-29日,京王プラザホテル(東京都新宿区)にて樋野興夫会長(順大)のもと開催された。わが国病理学の1世紀の集大成として,「温故創新」と「未来への懸け橋」となる学術集会をめざした今学会では,1200題を超える演題が並んだ。本紙では,肝細胞癌研究の歴史的背景から最近の進歩までを6人の演者が報告した,シンポジウム「肝細胞癌の基礎的研究と病理診断――歴史と最近の進歩」(座長=慶大・坂元享宇氏,帝京大・福里利夫氏)のもようを紹介する。


肝細胞癌治療の将来を見据えて

樋野興夫会長
 肝細胞癌では,臨床・病理・分子生物学的な研究から,多段階を経て発癌する過程が明らかになってきている。最初に登壇した小川勝洋氏(旭川医大)は,肝発癌研究の歴史を振り返るとともにその展望について発言した。肝発癌研究は,1934年の佐々木隆興氏・吉田富三氏によるラットの肝発癌成功に起源を持つが,この研究が化学物質のリスク評価の礎となるとともに前癌肝細胞や前癌病変における遺伝子発現異常の発見につながり,肝癌の解明に大きく寄与したという。また氏は自身の研究についても触れ,ストレス耐性という特徴を持つ前癌肝細胞が癌の生存・増殖能の亢進を惹起していると説明した。

 続いて,小池和彦氏(東大)がC型肝炎における肝発癌機構について解説した。C型肝炎は,ウイルス量が発癌危険因子となるB型肝炎とは異なり,遺伝性癌のように高頻度かつ多中心性の肝細胞癌を引き起こす。氏はマウスモデルを用いた研究成果を報告,HCV(C型肝炎ウイルス)がミトコンドリア電子伝達系を阻害してATP産生を低下させることを突き止めたという。HCVに感染した状態では,肝炎や肝脂肪化による炎症反応や細胞増殖が起こるため,これらの多段階を経て発癌が達成されると説明した。

 近年注目される,非アルコール性脂肪肝(NASH)由来の肝細胞癌については福里氏が報告した。非ウイルス性肝細胞癌の多くがNASH由来と推測され,わが国では成人の2-3%がNASHを有することから,その早期診断が重要視されている。氏はヒト症例研究について言及し,NASHの5年間の肝細胞癌発生率は7.6%,また男性,高齢,高線維化が発癌のリスクと報告されていることから,NASHの自然史を踏まえて診断・治療にあたることが大切と述べた。

 発生早期の癌については,腫瘍血管新生を示さない状態の癌である「早期肝細胞癌」の概念が近年認められてきている。坂元氏はその病理について説明し,早期肝細胞癌を起点として癌を理解することで,多段階・多中心性発癌という肝発癌の特徴から悪性度に基づく診断・治療や肝内転移との鑑別が可能になるという。

 矢野博久氏(久留米大)は,氏らの施設で樹立した肝細胞株とそれに由来する腫瘍における肝幹細胞/肝前駆細胞のマーカー発現を比較し,さらに癌幹細胞との関連を調べた研究を紹介した。13種類の肝癌細胞株で肝幹細胞・癌幹細胞マーカーの発現に多様性が認められた一方で,肝癌細胞株における癌幹細胞の存在とマーカーとの関係にはさらなる検討が必要と強調した。

 最後に柴田龍弘氏(国立がん研究センター研究所)が,肝癌の全ゲノム解析について報告した。氏らはC型肝炎由来の肝細胞癌を分析し,1万7000個強の変異を発見。変異のなかには,癌の再発に関連したものもあったという。日本人の肝癌の全ゲノム配列の解析を進めることで癌の病態や病理組織を解明し,腫瘍分子病理学の基盤創生をめざしていることを表明した。

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