医学界新聞

2010.05.10

臨床能力評価と交流をめざして

第2回研修医Advanced OSCE大会開催


 第2回研修医Advanced OSCE大会が3月20-21日,安井浩樹氏(名古屋大)らの指導のもと,テルモメディカルプラネックス(神奈川県足柄上郡中井町)で開催された。第2回となる今回も,全国各地から参加者が集まり,活気ある研修が展開された。


 研修医Advanced OSCE大会とは,共用試験で医学生に課されるOSCEになぞらえて,臨床現場における研修医の臨床能力をみる試験で,安井氏らにより考案された。研修医が自身の臨床能力を把握すること,指導医の研修医への指導・評価能力の向上,地域を越えた交流の促進がねらいだ。受験者は一年目の初期研修医で,OSCEに比べてより臨床現場に即した内容が多いのが特徴となっている。また,より実践的な試験内容を実現するため,病院同様の設備やシミュレーション機器を備えた施設を利用していることも特徴の一つだ。

研修医と指導医,どちらも真剣

 1日目,オリエンテーションの後にさっそくAdvanced OSCEが実施された。今回の大会の試験項目は外科手技,病状説明,救急画像診断,訪問診療,Reversed C.P.C,救急外傷診療,胸部X線・心電図の7つ()。各試験場は「ステーション」と呼ばれ,試験時間はそれぞれ15分で行われた。

 試験会場では,指導医,研修医が共に全力を尽くしていた。救急外傷診療のステーションでは,人型シミュレータが「苦しいよ!」と叫び,バイタルサインの悪化を知らせる警報音が鳴り響く中で,研修医が冷静に対応しようと奮闘。治療の指示をすべて求められて混乱してしまった研修医は「多くの人が能動的に動くことで医療が成り立っていることをあらためて知った。指示をすべて出せるように把握するのは,たいへん難しいことだと実感した」と振り返った。

 研修医の奮闘は,治療の手技だけに止まらない。病状説明のステーションでは,糖尿病患者への説明中に使った一つひとつの言葉が持つ力の大きさを実感。研修医が発した「おわかりかと思うのですが」という言葉について,指導医は「患者の質問・心配事を発言するチャンスを奪ってしまう言葉」と指摘。研修医は「はっ」とした表情で,指導医の言葉に耳を傾けていた。

 一方の指導医も緊張の連続だ。自分たちで作成したAdvanced OSCEがしっかり機能しているか,問題の不備による混乱は起きていないかなどを確かめながら,解答に詰まる研修医にアドバイスを出す場面も見られた。Advanced OSCEの目的は研修医の評価ではなく,優れた指導法の確立と研修医の成長へのヒントを見いだすことだという姿勢が象徴的に現れた場面であった。

 2日目は,指導医が初日の課題をデモンストレーションした。適切な指導医の手技に研修医が感激する場面もあれば,「段取りが悪くてすみませんでした」と指導医側が苦笑いで告白し,会場が笑いに包まれた場面もあった。続く閉会式では,成績上位の3名などへの表彰が行われた。1位に輝いたのは中川侑子氏(聖マリアンナ医大病院)で,2位に三澤寛子氏(聖マリアンナ医大病院),3位に滝澤知世子氏(川崎市立多摩病院)が続いた。

救急外傷診療(左)と外科手技(右)のようす。

 第2回研修医Advanced OSCE大会 各ステーションの概要
外科手技
症例:左下腿に長さ7cm,深さ1.5cmの創。破傷風予防ワクチン接種歴は不明。
課題:(1)創の縫合手技。(2)縫合前の手指衛生,個人防護服の着方。(3)自己紹介と本人確認。(4)破傷風予防注射の必要性の判断。など。
病状説明
症例:糖尿病と診断された直後の39歳男性会社員。母も糖尿病。会社は休みにくい。
課題:(1)治療方針をわかりやすく説明する。(2)超速効型インスリン注射開始のための5日間の教育入院の必要性を説明する(3日間の短期間入院も可能だと提案できる)。
救急画像診断
症例:59歳女性。1時間前に腹痛で救急搬送。
課題:腹部CTの読影により,疾患を診断し,処置を指示する。
解答:上行結腸腫瘍で緊急手術。感染症対策も必要。
訪問診療
症例:72歳男性。4年前の喉頭癌の手術を機に寝たきり。誤嚥性肺炎を繰り返している。喉頭癌の再発で再入院したが,肺転移が見つかり,在宅療養。余命3か月。往診日には微熱があり,元気がない。72歳の妻と同居。
課題:(1)診察をしつつ,介護をしている奥さんとコミュニケーションをとり,情報を得る。(2)嚥下障害に備え,粘性の低い料理などを食べるよう指導する。(3)お酒を飲みたいという患者の気持ちを察しながら対応する。など。
Reversed C.P.C
症例:皮膚の掻痒感を訴える62歳女性。「知人に目が黄色いと言われた」。
課題:(1)身体診察,病歴から,鑑別に必要な検査項目を答える。(2)あらかじめ用意されていた検査数値を見て,疾患を推測する。(3)確定診断に必要な追加検査項目を答える。
解答:原発性胆汁性肝硬変症。
救急外傷診療
症例:50代男性。飲酒運転による交通事故で救急搬送。頭部に外傷,酩酊による意識障害あり。(所見をとっていくと,緊張性気胸とわかる)
課題:(1)頭部外傷,意識障害等の一見してわかる異常に気をとられずに,交通事故の初期評価を行う(手順はABCDアプローチに従う)。(2)気胸の応急処置としての胸腔穿刺。
胸部X線
課題:気胸,結節影(肺門部),両側肺門リンパ節腫張など10種の所見が,おのおの少なくとも1例はあると事前説明の後,X線写真10枚の読影。疾患を推測する。
心電図
課題:心電図波形5枚の系統的分析。疾患の推測。


臨床能力と横のつながりを持つ医師になろう!

安井浩樹氏(名古屋大学大学院地域医療教育学講座准教授)に聞く


――研修医Advanced OSCE大会の目的を研修医同士,指導医同士,または研修医,指導医の交流と,臨床能力評価方法の確立とされていますね。

安井浩樹氏
安井 交流については,スーパーローテート式臨床研修制度の開始以来,各臨床研修病院が取り組んでいる効果的な研修プログラム・指導法づくりのノウハウを共有し合うことがねらいです。今回の大会では,全国の7府県,20施設以上から研修医,指導医の先生方が参加してくださいました。そして,Advanced OSCE,懇親会等を通じて中身の濃い交流をしていただいたと思っています。

 臨床能力評価については,研修医の臨床能力の評価法を確立することをめざしています。今回の大会でも,さまざまなヒントを得ることができました。ただ現状では,Advanced OSCEは試行錯誤の段階にあると思います。各ステーションでの試験の内容は担当の先生にお任せしていましたが,難易度設定,評価基準などに多少のばらつきがありました。研修医が備えておくべき能力の基準を検討・共有し,研修医の達成状況をいかにして評価するかは,今後の課題です。

――医学生・研修医へのメッセージをお願いいたします。

安井 医師として,臨床能力や手技を磨くことはとても大切なことです。私たち指導医は,医学生・研修医に,どの水準まで,どのようにして実技を教育すべきか,検討し,示していく必要があります。そして,医学生・研修医の皆さんにも臨床能力の向上に向けて努力してほしいと思います。

 しかし,ある一定の基準の臨床能力を身に付けたならば,その後に大事になってくるのは,医療者との横のつながりを持つことだと私は思います。どんな医師も,すべての疾患に万能に対応することはできません。自分で対応できない患者さんを助けるためには,患者さんの疾患分野を判断できる知識と,適切な医療者に紹介できるようなネットワークを持つことが必要です。そのためにも,医療者同士の交流を大切にしてほしいと思います。このネットワーク作りも,研修医Advanced OSCE大会の目的の一つなのです。

 そして,もう一つ大切なことは,患者さんのニーズを汲みとる感受性です。当たり前のことかもしれませんが,都市部と山間部では,そこに暮らす人たちの医療や生活ニーズは異なります。例えば,都市部から山間部へ転勤したとしても,患者さんの健康を支えられる臨床手技と知識,ネットワーク,患者さんのニーズを受け止める感受性を持っている医師こそが,スーパードクターであると私は思います。

(了)

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