MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2010.03.15
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
柴﨑 浩 著
《評 者》田代 邦雄(北大名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)
神経診断学の極意を解き明かす
神経学,神経内科学,神経症候学,神経生理学,神経病理学など,神経に関する書名のある教科書はわが国においても数多く出版されているが,「神経診断学」を冠するものとしては,本書の著者である柴﨑浩先生らがまとめられた『ダイナミック神経診断学』(柴﨑浩,田川皓一,湯浅龍彦 共編,西村書店)の分担執筆のみにとどまっているというのが現状である。
このたび,柴﨑浩先生(著)の単行本が世に出ることとなったことは画期的であり「神経診断学とは何か!」が語りかけられることとなった。本書の意図,特徴はその序に詳しく述べられており,その内のエッセンスの一部をそのまま引用すれば,“少し熟練した神経内科医であれば,典型的な疾患をもつ患者が診察室に入って来た場合,その瞬間にほとんど直感的に診断をつけられることがまれでない”,しかし“症候から種々の可能性を考慮に入れて病歴聴取と診察に当たり,理論的・系統的に考えて正しい診断に到達するのが妥当な方法である”(序より一部引用)という言葉に集約されると思われる。
本書は,膨大な神経学の知識と,米国での神経内科レジデントも修められた臨床経験,さらには現在も臨床神経生理学の世界的権威として誰もが認める存在である柴﨑先生が,神経学の原点とも言える「神経診断学のエッセンス」を明解に説いておられる珠玉の名著と言えよう。
第1章「神経疾患の診断(総論)」から第31章「検査方針の立て方」,そして主要文献一覧と,最後に「神経学をこれから学ぼうという人へ――あとがきに代えて」という締めのメッセージまで実に細やかに神経診断学の極意を解き明かされたことに感動する次第である。
本書の読み方はいろいろあると考える。まず全体を通読し,先生のコンセプトを理解することをお勧めしたい。それは,過去の教科書の引用ではなく,それらを踏まえ,しかし,すべてを自分の目でみるという先生自身による信念が感じられ,実に読んでいて楽しく,先生から直接手を取るように指導をしていただいているような実感がわいてくるからである。
本書は通読も可,しかし興味ある項目ごとにピックアップし,自分の考えと比較してQ & Aを想定し,柴﨑先生との対話,意見の交換,さらに論議する,という楽しさもわき上がってくる。すなわち自分の手技や考え方と比べてお互いの主張を戦わせることも大切である。
神経診断学には流派による違いもあるであろう。しかし,本書ではそれらを理解された上で,ご自身の経験を踏まえ,より理解しやすいように語りかけるという配慮が随所に感じられる内容となっている。
本書が“神経診断学を学ぶ人のために”大きな道標になり続けること,ひいては日本の臨床神経学の向上,さらなる発展への原動力となることを確信してやまない。
先生は1964年九大卒,在日米陸軍病院インターン,九大神経内科,そして米国での神経内科レジデントと臨床神経内科医であるばかりでなく,英国,米国,そして世界の神経学・脳科学のリーダーとともに日本の代表としてのご活躍は周知の事実であり,先生の今後ますますのご発展を心からお祈りする次第である。
B5・頁352 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00799-3
日本神経学会 監修
「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会 編
《評 者》埜中 征哉(国立精神・神経センター病院名誉院長)
安易に行われる遺伝子診断の現状に警笛
遺伝子検査が神経・筋疾患の診断に大きな役割を果たす時代になっている。保険適応になっている疾患もあり,遺伝子検査が安易に行われている事例が後を絶たない。
乳幼児が感冒に罹患したとき,あるいは何らかの理由で採血がなされ,生化学検査を受ける。そのとき,たまたまクレアチンキナーゼ(CK)値が異常高値だったとする。医師は筋ジストロフィーを疑い,確定診断を得るために,まず侵襲が少ない遺伝子検査を行う。デュシェンヌ型や福山型は保険適応になっているので,検査会社に提出することもできる。申込用紙には十分な遺伝カウンセリングを行うこととの記載があり,カウンセリングを行った医師の署名が必要である。ただ,医師が専門医であるかどうかの担保は要らない。また,どこまでカウンセリングしたかの記録も必要ではない。
検査結果が主治医のところに返ってくる。ジストロフィン遺伝子の欠失があるとの結果が記載されているとする。小児科医がすべて筋疾患に十分な知識があるわけではない。「デュシェンヌ型の平均寿命は延びてはいるが,平均30歳に満たない。今のところ治療法はなく,短い命なので,子どもの好きなことをさせてあげるように」と,医師は告知する。
いきなり,筋ジストロフィー,短い命,治療法がない,と告知された親のショックは計り知れないものがある。評者は筋疾患専門外来を行っているので,告知を受けた両親がインターネットで調べたりして,お子さんを連れて受診される。あまりにも安易に行われている遺伝子診断の現状に憤りを感じることがまれでない。
遺伝子診断はそれを行う前に病気について,遺伝子診断の意義について十分な説明をすること,それも病気や遺伝に十分な知識がある医師が行うこと。これらのことは多くの書物や論文で繰り返し述べられている。しかし,現実にはそれが忠実に守られていない。
今回,日本神経学会により監修・編集された本書は総論で多くのページを割いて,遺伝子診断の在り方について解説している。すべての神経内科医,小児神経科医が一読する必要がある内容である。
各論では筋ジストロフィー,脊髄小脳変性症,家族性痙性対麻痺などの主な神経・筋変性疾患の特徴,遺伝子変異について記載されている。遺伝子が次々とクローニングされると病気の数は増え,分類はますます複雑となる。常染色体優性脊髄小脳変性症は約30もの疾患に分類されている。
臨床症状からどのような順序で診断を進め,遺伝子診断に進んでいったら良いのかについて,本書では具体的記載はない。症状から病型の推測をチャート式に記し,どの遺伝子に的を絞っていけば良いのかを示してほしかった。また,遺伝子検査を依頼するとき,どこの誰に連絡したら検査が可能かといった,詳細な遺伝子検査可能施設一覧があれば,読者には大いに役立ったと思う。ただ,現在のような膨大な数の遺伝子変異を調べるのは大変な負担である。保険適応でないものは検査者(研究者)の善意に頼っている。検査可能施設一覧表を作って,検査が殺到したら,とてもでないが研究室の運営は成り立たないであろう。公開の難しさがそこにあると思った。
いずれにしても,本書は優れた遺伝子診断ガイドラインであり,神経内科医,小児神経科医など神経疾患に関与する人の必読の名著であることは間違いない。
B5・頁184 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00945-4
NPO法人 マンモグラフィ検診精度管理中央委員会 編
《評 者》飯沼 武(放医研名誉研究員)
アナログからデジタルへ,待望された品質管理マニュアル
日本の乳癌は罹患数と死亡数とも増加を続けており,適切な一次予防法がないため,マンモグラフィによる乳癌検診による二次予防が必須であることは周知の通りである。
わが国のマンモグラフィはデジタルマンモグラフィが7割を超えるというデジタル大国であり,本書のような品質管理マニュアルが望まれていた。本書は,まさにタイミングよく発刊されたといえる。また,日本の乳癌検診のシステムとして,世界に誇るべきものが「マンモグラフィ検診精度管理中央委員会」であるが,それによる編集も時宜にかなっている。
本書の内容は,主として,受入試験,定期的な管理,日常的な管理の3つの項目が中心を占め,また付録として掲載されている用語の解説などはちょっと疑問を呈したときに確認するのに非常に便利が良い。
特に,受入試験で,乳房X線撮影装置の項に多くのページを割き,X線装置の機能確認,乳房圧迫器,公称焦点寸法,X線照射野と受像器面との整合性,管電圧の表示精度,X線出力,半価層(HVL),AEC作動時の再現性,AEC作動時の平均乳腺線量(AGD),AEC作動時のCNR,アーチファクトの確認,画像歪み,加算的ラグ効果,乗算的ラグ効果,ダイナミックレンジ,システム感度,空間分解能という17の項目にわたって詳しく記述している。それぞれの項目が,わが国で多く利用されている2種のデジタルマンモグラフィ装置であるDR(Digital Radiography)とCR(Computed Rdiography)を利用した場合について書かれている。
評者の予想では,今後の日本の乳癌検診はデジタルマンモグラフィ装置が主体となり,診断はモニターを使ったソフトコピー診断が使われることになると思われるが,フィルムを使うイメージャも今後とも利用されると思われるので,それについても詳しく言及されている。
執筆は,山形大学医学部附属病院の鈴木隆二氏を責任者とする専門家の方々であり,素晴らしい陣容である。また,本書の作成には,2007年に制定された国際規格IEC 61223-3-2(乳房X線撮影装置の受入試験規格)と欧州のガイドライン(European guidelines for quality assurance in breast cancer screening and diagnosis, 4th ed.)を参考にしたとされている。
日本のがん検診はがん対策基本法により,対象人口の50%が受診することを目標に挙げていることはよく知られている。しかし,乳癌をはじめとしてこの数字に近づくのは非常に厳しいと言わざるを得ない。特に欧米先進国における乳癌検診の受診率が70-80%に達しているのを見ると,わが国でもできないはずはないと思うのが,評者の感想である。これからは,精度管理中央委員会には受診率向上に向けた活動をしていただくことにも期待したい。
A4・頁100 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00974-4
樋口 輝彦,小山 司 監修
神庭 重信,大森 哲郎,加藤 忠史 編
《評 者》尾崎 紀夫(名大大学院教授・精神医学)
「生物学的な話は苦手」と言う若手精神科医に
約30年前,評者が医学生であったころ,精神医学講義の主たる内容は精神症候学(精神病理学)であり,「ほかの臨床各科と異なり,精神医学は基礎医学の内容との連続性が乏しい」と感じたことを覚えている。象徴的であったのは,ほとんどすべての疾患を説明する病理学の講義で,認知症を除けば精神疾患が全く触れられなかったことだ。
先日,若い精神科医と雑談をしていたところ,「血液内科をローテートしていたときは,遺伝子など基礎医学的な事柄が臨床と直結していたが,精神科の臨床は基礎医学的な内容とは随分遠いように感じる。そのせいか精神療法や精神病理の話は頭に入るのだが,生物学的な論文はどうもピンとこない」という話を聞いた。生物学的か心理社会的な方向性かという各人の志向性もあるのだろうが,精神科臨床には鑑別診断を除いて検査は有用ではないし,「分子標的薬」が臨床段階ではないのが現状である。
また,EBMは「直感,非系統的観察,病態生理学的機序あるいはエキスパートのオピニオンのみでは臨床判断の十分な基盤とならない」と主張しており,「病態生理」は二の次で,「臨床研究によるエビデンス」だけを重視してしまうきらいがある。特に,精神科治療においては薬物療法の場合であっても検査データではなくハミルトンうつ病評価尺度のような精神症状評価によって臨床効果が判定されることが,この傾向に一層の拍車をかけているように思う。
さらに困ったことに,日本神経精神薬理学会と日本臨床精神神経薬理学会が並存しているという日本の精神医学会固有の問題がある。学会レベルにおいても,精神科薬物療法に関する議論が,基礎薬理と臨床薬理の二つに解離してしまう危険性が高い。この問題の解決を企図して,両学会統合の動きがあるものの,いまだ実現していない。
以上述べたような状況において,本書の編者たちがめざしている「神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の両方の視点から,両者を統合する」ことこそ必要不可欠であり,評者が待望するものであったが,本書は見事な成功を収めている。また,本書は「ハンドブック」と銘打っているが,ハンドブックすなわち“A concise manual or reference book providing specific information or instruction about a subject”(『American Heritage Dictionary』より)とは異なり,精神薬理分野の情報を網羅して,かなりのvolumeがある。しかしながら,文章も体裁も読みやすさに十分な配慮がなされており,実際に読んでみるとvolumeを感じさせない。「生物学的な話は苦手」と言っていた若手精神科医に本書をぜひ推薦してみようと思う。
B5・頁448 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00866-2
相馬 一亥 監修
上條 吉人 執筆
《評 者》廣瀬 保夫(新潟市民病院救命救急・循環器病・脳卒中センター長)
精神科医と救急医双方の視点をもった実戦的な教科書
この本は単著と聞いていたので,初めて手に取ったとき,その重厚さにまず驚きました。その中身も化学を修めてから医学の道に入られ,さらに精神科医から救急医に転身した上條氏でなければ書けない内容で,まさにユニークかつ実戦的な教科書になっています。
本書は,第Ⅰ部が総論として「急性中毒治療の5大原則」,第Ⅱ部が「中毒物質各論」で構成されています。総論は,まず中毒治療の4原則,すなわち「全身管理」「吸収の阻害」「排泄の促進」「解毒薬・拮抗薬」について解説されています。全編を通じてAmerican Academy of Clinical Toxicology (AACT),European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists (EAPCCT)のガイドラインなどEBMを踏まえて記載されていて,引用文献も豊富です。それでいて,EBMを重視する論説にありがちな文献的な議論にとどまらず,著者の豊富な臨床経験を踏まえた“実戦的”な記載が多いことが大きな特徴と思います。語呂合わせも効果的に用いられてわかりやすく整理されています。「合併症の3As」は私も明日から研修医教育に使おうと思いました。
総論の最後に中毒治療の5つ目の原則として「精神科的評価と治療」が述べられています。急性中毒は,自殺企図・自傷行為の結果であることが圧倒的に多い現実があり,精神科的な原則を踏まえて初期診療を行うことが必要です。しかし,救急医の多くは精神科的な面に疎いのが実情です。本書では「急性中毒の3大精神障害」として整理され,対応のポイントがまとめられており,臨床にすぐに役立つ内容となっています。
各論では,救急現場で遭遇するものの95%をカバーする,という観点から選択された101の中毒原因物質が取り上げられています。それぞれの中毒物質の冒頭に,頻度・毒性の強さ,さらに「Minimum requirement」としてポイントがまとめられています。これにより,読者はその中毒の病態の全体像を大まかにつかむことができます。
続いて病態生理,治療法について,実戦的かつ必要十分な情報量が記載されており,初めて遭遇する中毒でも,あまり迷うことなく治療が開始できると思います。また,過去の中毒事件や毒物にかかわる歴史上のエピソードが「ひとことメモ」として紹介されています。これが非常に興味深く,読み物としてもとても面白くなっています。
本書は,中毒診療に必要な情報はほとんど網羅されていると言って過言ではなく,救急外来に備えれば極めて有用でしょう。唯一の心配は,患者を目の前にして「ひとことメモ」などに目を奪われて本書に没頭し過ぎてしまうことです。それくらい面白い本であり,これまでの臨床中毒のテキストとは一線を画する素晴らしい本だと思います。研修医,若手救急医のみならず,ベテランの救急医,その他中毒臨床にかかわるすべての医療職の方にも,お薦めしたいと思います。
B5・頁576 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00882-2
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