日本医科大学における医学生を対象にしたパンデミックドリル
2010.02.08
【Report】
日本医科大学における医学生を対象にしたパンデミックドリル
日本医科大学において1月15日と18日の2日間,3年次学生を対象とした演習型のパンデミックドリルが実施された。パンデミックドリルとは,米国ピッツバーグ大学メディカルセンターで4年前から実施されている新型インフルエンザ対策演習のこと。パンデミック下では,多数の患者が病院に押し寄せるだけでなく,医療従事者自身が患者になることも想定される。そのため,学生のうちから危機発生時の対処法を理解させることが目的だ。
日本医大では,医療管理学教室の秋山健一助教を中心に,ピッツバーグ大の事例をもとに日本の災害医療や同大のルールに適した形でプログラムを開発し,今年初めて実施された。プログラムの開発には,同大の救命救急センターや発熱外来の医師,看護師も参加。手洗い,マスクやガウンの着け方などを学ぶ院内感染防御技術と,緊迫した状況下でいかに効率的に適切な患者処置や治療にあたるかを体験する演習型ドリルの2部構成となっている。今回は,後者の演習型ドリルのもようを紹介する。
医師,看護師,看護助手に分かれ,1病棟を管理
ドリルは,医学生が医師役(1名),看護師役(2名),看護助手役(1名)から成るチームに分かれ,1病棟(10床)を管理するという設定で行われる。紙製の患者の左胸ポケットには,必要な処置フラッグ註)が数枚ずつ入れられている。学生は,患者のフラッグと同一のフラッグを病棟に隣接したナースステーションに取りに行き,患者のところに持ち帰る(図)。2枚のフラッグがそろったところでごみ箱に入れると処置が完了する。処置は1回につき,1つしか実施できない決まりだ。
図 演習の配置構成(図中「 」は該当する処置フラッグ) |
また,自身が行う診療行為は役によって規定されている。例えば,「ICU病棟」フラッグで患者をストレッチャー(演習では布を使用)に乗せICUスペースに運ぶ際には,実際の現場と同様,医師を含めた2名での搬送が必要とされる。また,「死亡」フラッグの場合も医師役の学生による“死亡診断”が不可欠だ。演習では,これを15分ずつ2回行い,その間に15分程度の振り返りの時間が設けられた。
刻々と変化する患者や病棟の状況にいかに対応するか
演習の様子。スペースを狭くし,パニックが起こりやすい状況にしている。 |
1回目の演習後の振り返りでは,「優先順位を決めるのが難しい」「仕事の分担が必要」「コーディネーターを設けてみては」など,対策について熱心に語り合う姿が見られた。そのため,2回目の演習では,ナースステーションに看護助手が待機するなど,チームごとに工夫が見られ,無駄な動きが少なくなった。また,互いに声をかけ合うようになり,演習を楽しむ余裕が生まれていた。
医師役として演習に臨んだ学生は「このように大変な状況のなかでは,医師にしかできないことを見極めること,役割分担が核となることを実感した」「最初は戸惑ったが,1回目の演習の後にコミュニケーションと役割分担をきっちりやろうと話し合った。そのため,2回目はスムーズに行えた」と話していた。
本演習は,パンデミック対策だけでなく,チーム医療の重要性を知ることも目的のひとつとしているという。特に緊迫した状況下では,チームの結束が患者の生死をも左右しかねない。2回目終了後の振り返りにおいても,チーム医療には“共通の目標”“役割分担”“コミュニケーション”が不可欠であることが再確認された。また,演習に参加したスタッフは「たとえICUが満床であっても,その状況をただ受け入れるのではなく,患者を助けたいという熱意を持って交渉することも大事」と指摘。これから臨床実習に出る学生にとって,医療従事者として必要な力を学ぶ機会となったようだ。
(1)2枚のフラッグを照合。 (2)「ICUは満床です!」 (3)学習効果を高めるためのグループ単位での振り返り。 (4)「患者になってしまいました……」 (5)紙製の患者。 |
註)「医師の診察」「酸素」「食事・水分」「発熱・咳」「入浴」「呼吸苦」「点滴」「嘔吐・下痢」「ICU病棟」「退院」「死亡」の11種類
*本演習は,厚生科研費「健康安全・危機管理対策総合研究事業」における「感染症危機管理シミュレーション訓練の研究」(研究代表者=秋山健一氏)の一環として実施された。
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