医学部でリサーチマインドを育てるには?(狩野光伸)
寄稿
2009.11.16
【寄稿】
医学部でリサーチマインドを育てるには?
――東京大学医学部MD研究者育成プログラムの試み
狩野光伸(東京大学医学部MD研究者育成プログラム室・講師)
医学には診療と研究という2つの側面がある。この2つは疾患の治癒を目的とした医学の両輪だが,「診療」が既存の疾病概念から外れてはいけない一方,「研究」ではいかに「既存概念」を塗り替えるか思いつくことが求められる。教育制度を考える上ではその行動原理が正反対なのが厄介である。
時代の不確実性が研究志望の医学生を減少させた
最近,仕事柄医学生と話す機会が多いが,そのなかで聞こえてくるのは,「研究にも興味はあるが,将来が心配」という声だ。確かに,研究職は特に不確実な職種だが,不確実なのは研究の世界だけではない。日本ではバブル崩壊を境として,社会全体が不確実な状況に変化してきているといえる。
これとほぼ時期を同じくして,全国の医学部の基礎系研究室では,医学部出身者の比率が大きく減少してきている。学会集計の調査では,解剖・生理学の教室のうち54%では2004-08年の5年間に医学部出身の大学院生の在籍がない。本学医学部も例外ではなく,基礎系研究室に来て定着する(就職する)割合は,1990年ごろまでは1学年100人中1-2“割”であったのが,現在では1-2“%”いればまし,という具合である。この理由として,「将来の収入自体が不確実な時代なのに,職が続くのかわからない研究なんて,考えるだけで心配だ」といった感覚が学生の間に見受けられることがある。
医学研究は医学部出身者でないと進められないのか
では,現実に医学部出身研究者の減少には,どう対応したらよいのだろうか。よくある議論の1つに診療と研究の両方をやればよい,というものがある。しかし,現実には医療現場はますます余裕のない状態になってきており,並行して研究活動を行うためには超人的な気力体力が必要となる印象がある。もし研究的素質を持って生まれても,そこまでの体力に恵まれるとは限らない。もはや,診療と研究の責任を一人で背負うのではなく,積極的に役割分担をしていく時代ではないだろうか。
とはいえ,筆者の診療・研究両面の経験を通じて,医学的バックグラウンドがあったほうが医療に還元できる研究結果が生まれやすいと感じている。実際,例えば工学系の研究者と話していると,専門に関しては当然深い知識をお持ちだが,医学の理解は一面的なものにとどまることも多い。その結果,せっかくの研究成果が臨床応用まであと一歩というところまできても,そこで止まってしまうケースもよく見かける。
さらに,教員も務めるとなれば,医学部の学生生活は他の理系学部とは異なる部分があるので,医学部出身者だと医学生の気持ちをより汲み取りやすいと思われる。また,講義で臨床との関連に言及することも,より容易にできるかもしれない。以上のことから,やはり医学部出身の基礎医学研究者は必要なのだと感じている。
医学部出身研究者を増やすために
われわれの「MD研究者育成プログラム室」での取り組みを紹介したい。本学医学部では,これまでも「PhD・MDコース」というカリキュラムがあったが,年間1-2人の入学者しかいなかった経緯がある。これは医学部カリキュラムから一度外れ,大学院に所属するという制度...
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