医学界新聞

2009.10.19

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準医療薬学》
薬物治療学

越前 宏俊,鈴木 孝 編

《評 者》木内 祐二(昭和大薬学部教授・病態生理学)

患者志向型の新しいスタイルの教科書

 『薬物治療学』を一読したとき,その内容の豊かさと読みやすさとともに,臨床志向,患者志向を追求した構成に驚かされた。編集者が序文で強調しているように,従来の医療薬学の教科書にはなかったスタイル「ハイブリッド様式」で書かれており,代表的な疾患や薬物治療について,単に「教科書レベル」の知識の学習にとどめず,臨床の場で目の前の患者のために主体的に医療を実践するための「実践知」を効果的に学習できるように工夫されている。

 本書の最大の特徴は,後半部分に24症例にも及ぶ詳細な症例解析が加えられていることであろう。代表的な疾患とその治療をリアルな症例を通して学習することができ,医療薬学の学習の目的が,個々の患者の問題を解決するための根拠のある判断と責任のある実践であることが理解できる。症例の患者の病状が生き生きと伝わるように現病歴,身体所見や検査所見,臨床経過などの多くの患者データが示され,実際的で標準的な薬物治療例が紹介されている。症例の理解のために,薬物治療だけでなく,症例の症状や検査,診断についても丁寧に解説され,医療チームの中でこうした情報を理解,共有して,積極的に処方支援をする薬剤師を育てたいという思いが伝わってくる。

 各症例には確認問題として病態や治療などに関するQ&Aが加えられており,患者志向の問題解決型学習が自然に進むようになっている。また,臨床の場での問題志向型,患者志向型のアプローチに必須な「SOAP形式」の記述法が,実に詳細にわかりやすく例示,解説されており,医療の実践にこだわった本書の特徴の一つといえよう。

 編集者は,「本書の前半は,知識を系統的に記述する従来型のスタイル」と序文に書いているが,この前半部分にも実際の医療に基づく最新かつ標準的な情報が非常にわかりやすく記載されている。総論では薬物動態と薬力学(PK/PD)の基本的な考え方,TDM,現代医療の標準となっているEBM(根拠に基づく医療)や診療ガイドライン,臨床検査値の評価などが明快に解説されている。各論では150以上の代表的疾患について,病態や診断基準・分類,臨床症状(自覚症状,他覚症状,臨床検査,患者面接のポイント)と治療が,最新のガイドラインに基づき,また多くの図表を用いて,よく整理された形で解説され,細部まで理解しやすさにこだわった教科書だと感銘を受けた。「臨床薬剤師の視点」というコラムでは薬剤師が知っておくべき専門性の高く,また興味深い事項が示されている。

 本書はチーム医療で活躍する新時代の薬剤師をめざす6年制の薬学生はもとより,医療現場で活躍する薬剤師のステップアップのためにも,大変有用な教科書になるであろう。このような患者志向型の新しいスタイルの教科書を世に出された編集者と執筆者の努力に心から敬意を示したい。

B5・頁496 定価7,140円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00575-3


《標準医療薬学》
薬理学

辻本 豪三,小池 勝夫 編

《評 者》南 雅文(北大大学院薬学研究院教授・薬理学)

薬物治療の基礎としての薬理学を総論と各論に分け丁寧に説明

総論:受容体理論からゲノム薬理学まで,6年制薬学教育に必須の薬理学
 薬理学とは「“薬”という化合物と標的生体分子との相互作用」を研究する学問であり,リガンドと受容体,阻害薬と酵素の相互作用の理論,とりわけ,多くの治療薬の標的となっている受容体の理論は薬理学の根本である。

 本書では,第2章「薬物の作用機構」,特に「細胞膜シグナリングと薬物治療」の項に,その理論とシルド・プロットやスキャッチャード・プロットなどの実際の解析法について,必要なことがすべて,かつ,驚くほどコンパクトにまとめられている。

 それに続く第3章では,薬物動態学と薬物代謝学について,非常にわかりやすい図表とともに丁寧に解説されている。これらは,個々の患者に至適な薬物治療をめざすこれからの医療にとって非常に重要な分野であり,その内容の充実は,医療薬学を学ぶ学生のための教科書にふさわしい。また,医療薬学において,ますます重要となるゲノム薬理学やトキシコゲノミクスについても,わが国における第一人者が,初習者にも理解できるよう適切な図を織り交ぜながら解説している。薬学6年制教育では,問題解決能力のある薬剤師の養成が求められているが,「総論」には,そのために必要な薬理学の基礎と応用,すなわち基盤となる受容体理論から,これからの臨床薬理学において重要な位置を占めるゲノム薬理学まで,6年制薬学教育に必須となる内容が盛り込まれている。

各論:標準的な治療薬について詳しく解説し,CBT対策にも最適
 各論では,代表的・標準的な治療薬に関して,関連臓器・器官の生理や各疾患の病態をまず解説することにより,その後に続く,薬物の薬理作用・作用機序,適応,副作用が理解しやすいよう工夫されており,最新の研究成果を反映した記述も随所にみられる。CBTでの出題も予想される薬物の化学構造についても非常に見やすい図で示されている。また,学習内容を定着させるための「付録:演習問題」が豊富であり,わかりやすい解説とともに参照すべきページが記されているのも親切である。

 巻末には欧文・和文索引に加え,薬剤の商品名と一般名の対照表が添付されており,病院や薬局での実務実習や,将来,薬剤師として現場に出た際に有用である。各論は,それぞれの分野における一線級の研究者によって分担執筆されているが,編集者の配慮が細かいところまで行き届き,全体として非常によく統一されており,学習者にとって読み進めやすいものとなっている。

学習意欲と習熟度を高める
 良い教科書との出合いは,学ぶ意欲と習熟度を著しく向上させる。本書は,そのような一冊であり,医療現場で活躍する薬剤師の養成のみならず,創薬研究者としてアカデミックな分野や企業での活躍をめざす薬学生にとっても最適の教科書である。

B5・頁584 定価7,875円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00704-7


《標準医療薬学》
医薬情報評価学

山田 安彦 編
土橋 朗 編集協力

《評 者》入江 徹美(熊本大薬学部教授・薬剤情報分析学)

膨大な情報の大海の中で,いかに情報を調理するか

 「臨床にかかわる実践的な能力を培うこと」を主たる目的とする6年制薬学教育が2006(平成18)年度からスタートした。新しい薬学教育では,国民の医療に対する安心と信頼を確保するため,医薬品を取り巻く環境の変化に柔軟に対応し,目の前で苦しんでいる患者に対する理解と優しさに裏打ちされた責任ある行動力を持つ薬剤師の養成が求められている。

 本書は,薬剤師が自らの専門性を生かして薬物療法の質的向上に貢献するために必要不可欠な「医薬品情報」および「患者情報」を合わせた「医薬情報」に関する基礎から応用に至る広範な内容を,系統的に平易に解説した良書である。

 ユビキタスな情報社会において,「医薬情報」へのアクセスは比較的容易であるが,膨大な情報の大海から真に必要な情報を選択し,評価・再構築し,意味のある情報として適切に提供することは,それほど容易ではない。本書は,情報の大海の中から,良い「食材」を選び,どのように上手に「調理」し,「ご馳走」に仕上げるかを記載した最高のレシピを提供している。

 世の中に類書は少なくないが,本書は章・項目立てに格段の工夫が凝らされた,実践的かつ格調の高い内容を含んでいる。これは,編者である東京薬科大学の山田安彦先生のリーダーシップはさることながら,本書を分担執筆された各分野のエキスパートの先生方が,日ごろから顔を合わせ,記載内容について入念に構想を練り,きめ細やかな協働作業が行われたことを想像させる。

 基礎編では,従来のテキストでは難解であった薬剤疫学的手法を,わかりやすく解説してある。特に,結論を導き出すまでの計算のプロセスや計算結果も記載されていることは,大変ありがたい。一方,応用編は,かなり深い内容も含まれており,学習者のレベルに応じて,さまざまな使い方ができるように工夫されている。さらに,オリジナルの図表はシンプルであるが,非常にわかりやすく,学習者の理解を深める上で効果的に使用されている。

 本書は...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook