医学界新聞

対談・座談会

2009.10.19

 

【座談会】
6年制時代の臨床薬学教育を考える
松木則夫氏(日本薬学会会頭/東京大学大学院 薬学系研究科薬品作用学教授)=司会
越前宏俊氏(明治薬科大学薬物治療学教授)
山田安彦氏(東京薬科大学薬学部 臨床薬効解析学教授)


 薬剤師養成課程が6年制に移行しはや3年が経過。第1期生は第4学年となり,CBT(Computer-Based Testing)やOSCE(Objective Structured Clinical Examination)などの「薬学共用試験」,そしてその後の「病院・薬局実務実習」など,6年制で新たに導入されたカリキュラムが,いよいよ本格的にスタートする。

 本紙ではこのタイミングに合わせ,「薬学教育モデル・コアカリキュラム」策定で中心的な役割を担った日本薬学会の現会頭である松木則夫氏(東大大学院)と,6年制教育を実際に担当している越前宏俊氏(明治薬科大),山田安彦氏(東京薬科大)を迎え座談会を企画した。いよいよ本格的にスタートする6年制の臨床薬学教育が薬剤師をどう変えるのか,またこれからの医療における薬剤師の在り方や教育の現状について,3氏に幅広く語っていただいた。


松木 薬学部の薬剤師養成課程が2006年から6年制となりました。導入から4年目を迎え,いろいろな課題が見えてきたと思います。これからの臨床薬学教育を考えるにあたり,まず6年制に移行する前の臨床薬学教育がどのような形で行われていたのか,という部分からお聞きしたいと思います。

越前 明治薬科大では,大学院の「臨床薬学専攻」として臨床薬学教育を行ってきました。従来の4年制課程に追加する形で,トータル6年間の教育です。1994年から始まり,入学者は当初の一学年5人から最終的には約40人(うち社会人学生10人)となりました。

 いずれ薬剤師養成課程が6年制になることを見据え,臨床のカリキュラムや指導体制,またゼミの開催方法などを,試行錯誤しながら検討してきました。

山田 東京薬科大の場合も,早くから大学院で臨床薬学教育を進めてきたという経緯があります。具体的には,1981年という早い段階から臨床薬学に特化した「医療薬学専攻」という大学院課程を設立し,病院薬剤部および医局との共同研究を基に臨床薬学教育を推進してきました。このほか,2004年に薬学部を3学科制(現:医療薬学科,医療薬物薬学科, 医療衛生薬学科)に変更し,少人数教育を取り入れた新カリキュラムを導入しました。これは「薬学教育モデル・コアカリキュラム」を先取りし,6年制教育に準じた薬学教育を実施するものです。さらに,従来は選択科目だった病院実習や薬局実習などの実務実習を必修化し,また6年制によって必修となった早期体験実習(1年次)も2004年に導入しました。

松木 6年制に移行することが決まったあと(註:2004年に学校教育法が改正),多くの大学で臨床実習が必修化され,また選択だったときと比べ期間も長くなった印象を持っています。薬剤師国家試験の出題基準や形式が大きく変更され,今までの基礎系に加え臨床系・医療系の設問が増えたことも,非常に大きなインパクトがありました。

着実に進む6年制への移行

松木 次に,現在の臨床薬学の教育現場の状況をお聞きしたいと思います。6年制への移行にあたり,苦労した部分などはありましたか。

越前 明治薬科大の6年制課程の薬学科は1学年300人で教育を行っています。旧課程での臨床研修は1か月のみでしたが,新課程では5年次に病院2.5か月,薬局2.5か月の計5か月間,日本薬学会の「実務実習モデル・コアカリキュラム」に準拠した実務実習を実施することとなります。期間が従来の5倍になるため,実習施設の確保や指導体制を構築する部分で苦労しました。300人が一斉に実習を実施することはできないので,3期に分割することとしたのですが,そういったインフラの整備がいちばん大変だったと感じています。カリキュラムとしては,学生数が多いことから長期実習中の学生のケアや,大学教育として実務実習を行う点を重視しました。

松木 予想外の展開といったものはありませんでしたか。

越前 今のところ概ね想定範囲内ですが,それでもやはり苦労しています。実際の運用は2010年度からですのでまだ実感のできない部分もありますが,実習中の学生のケアを行う方法などが具体化してきましたので,教育に必要な時間やマンパワーも明らかになり本当に大変さを実感しています。

松木 東京薬科大ではいかがですか。

山田 本学では,2004年から6年制を見据えた新カリキュラムを導入しましたので,移行自体はスムーズに行うことができています。ただ,学内で行う実務実習事前学習がかなりのボリュームであるため,新校舎を建設し,全学の協力のもとに現在なんとか実施できているところです。今後,5年生では実務実習が始まりますので,まだまだ整備しなくてはならないことは残っています。

越前 新課程の5,6年生教育の真髄が理解できるようになるのはこれからで,「本当に6年制になったんだな」「カリキュラムにもまったく違うところがあるな」と実感できるのは,少なくとも5年次の実習が終了し6年制課程で最初の卒業生が出るときですね。

実習以外の教育内容は?

山田 5,6年生の教育内容についてですが,東京薬科大では実務実習以外に,卒論研究の充実化を図っています。一方,卒論研究以外に5,6年次で教育すべき内容については,6年制の卒業生を対象とした2011年度以降の薬剤師国家試験や大学院の在り方に関係しますので,現在模索している段階ではありますが,環境の変化に柔軟に対応できるように準備を進めています。

松木 実際の各大学での教育内容は,新しい国家試験がどの程度難しくなるかに左右されると思います。合格率を見てまたフィードバックがかかり,具体的な部分が決まっていくのではないでしょうか。

越前 ただ,残された時間を考えると工程表には遅れが出ていると感じています。カリキュラムはもう6分の4まできていますから,そろそろゴールの形を見せてもらいたいと思います。

松木 明治薬科大での5,6年次の実務実習以外のカリキュラムはどのようなものですか。

越前 本学では,卒業生の就職先として薬局や病院,また医薬品の臨床開発に携わる職種が多いことを考慮して,5年次を思い切って丸1年実習の年としました。これには実務実習を複数期に分けたため,全員参加の講義・演習などの形態の教育を行うことが難しいという理由もあります。1年間のうち5か月間は薬局実習・病院実習に行きますから,残りの期間について次のコースからどれかを選んでもらい実習を行う形です。コースは,病院でそのまま発展的な実習を行う「病院薬学コース」,薬局で実習を行う「地域医療コース」,臨床開発研修を行う「臨床開発コース」,衛生試験所や保健所で実習を行う「健康薬学コース」,漢方や生薬を扱う「伝統薬学コース」,学内で研究を行う「臨床研究コース」,海外の提携校へ短期留学する「海外医療研修コース」の7つです。

山田 本学では,研究能力や問題解決能力を養う目的で卒論研究を強化しているわけですが,3学科ごとに特徴を持たせ,それぞれさらに卒論研究のコースも実験研究を中心としたAコース,調査研究を中心としたBコースに加え,卒業生の進路を踏まえて臨床研究および基礎研究に関する特別課題プログラムを設置しています。すなわち,3学科制で3種類の卒論研究コースを設け,合計9通りの選択肢を学生に提供していることとなります。

 本学では,4年生から卒業研究のため各講座に配属になりますが,明治薬科大ではいかがですか。

越前 本学でも4年生からです。

山田 本学では,5年生のときは,病院および薬局での実務実習以外の期間を卒論研究に充てています。今後,研究室のスペースの問題なども検討していかなくてはなりませんが,研究を通じて問題解決能力などを習得させていきたいと考えています。

越前 講座に所属するのは,もちろん卒業研究を行うためでもありますが,どこかに学生の帰属先がないと,大学側としても教育の責任が持てないということがあります。従来は,3年の後期から各講座に配属し,そこで卒業研究として教育を行ってきました。しかし今度は,5年次の実務実習を行っていない期間も学生ごとにスケジュールが異なります。ですから,そのときの教育をどう継続的に行うかは本当に悩みです。本学では,病院・薬局で行える標準実習には実習のコアカリキュラムがありますから,それにのっとって大学側から教員が実習先に訪問し学生の教育を行う形を,それ以降の独自のカリキュラムによる特別実習では週1回大学でゼミを実施することを考えています。

松木 明治薬科大,東京薬科大ともに検討が進んでいるようですが,5,6年生で実務実習に行かないときのカリキュラムは,まだまだこれからの部分がありますね。なお,東大では6年制でも,4年制学生が修士課程に進んだ場合と遜色ない卒業研究を実施する予定でいます。

■医療の責任を担える薬剤師を養成する

松木 それでは,6年制課程ではどのような臨床薬学教育を行っていけばよいのでしょうか。

越前 医学教育で先行していますが,知識以上に実践的な教育が必要になると思います。旧課程では,実習の期間は1か月程度しか取れず知識中心の教育となっていました。しかし,今度の教育期間は6年間あるわけですから,5,6年次をうまく使い医療薬学のスキル養成の時間を作ることが重要です。外国でも5年課程,6年課程の教育が中心となっていますので,それが世界の潮流なのだと思います。

松木 薬剤師教育が6年制になることで,社会からは...

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