医学界新聞

寄稿

2009.10.12

【寄稿特集】

これが私の進む道! 2009
先輩医師の経験談で見えてくる「Dr.ワタシ」の見つけ方


 新臨床研修制度が開始され,はや5年が経ちました。現在,研修中の初期研修医の方々は,さまざまな診療科をローテートするなかで,それぞれの診療科の魅力や苦労を感じていると思います。いざ,進路選択。「でも,1つになんて決められない!」と悩む方も多いことでしょう。

 本紙では,みなさんと同じように初期臨床研修を受けて各科へ進んだ,現在3-6年目の6人の若手医師に,現在の診療科を選んだ理由ややりがいなどを聞いてみました。学生時代の過ごし方や医療に対する考え方など,ご自身と先輩方を重ね合わせてみて,進路選択の参考にしてください。

 読者のみなさんが素敵な「Dr.ワタシ」と出会えることを祈っています!

こんなことを聞いてみました
(1)経歴
(2)診療科の紹介
(3)ここが聞きたい!
 a.この科をめざしたわけ
 b.やりがいと大変さ
(4)この科をめざす後輩へひと言

篠原 こずえ
河野 晶子
吉田 祐志
荒木 章之
浦田 晋
岡野 美々


麻酔科

「仕立て」の職人 オーダーメイドの魅力

篠原 こずえ(奈良県立医科大学 麻酔科学教室)


先輩医師の誕生日パーティー(右が篠原氏)
(1)2004年奈良医大卒。ベルランド総合病院にて初期臨床研修,2年間の後期研修を経て現職。

(2)急性期医療に興味をお持ちの方へ:麻酔科は手術時の麻酔管理,重症症例の全身管理を行う集中治療,救急医療を行えます。慢性期医療に興味をお持ちの方へ:麻酔科は慢性疼痛を治療するペインクリニックや癌性疼痛のケアを行う緩和治療が行えます。男性の先生方へ:麻酔科は早くから重症症例の麻酔管理も担当し,中央部門として責任を担っていくことができます。女性の先生方へ:麻酔科はかっこいい女医をめざす人にぴったりです。

(3)a.学生のときは麻酔科に全く興味がありませんでした。1年目に外科系必修でローテした際も,(手術室が地下で,冬場だったため)ほとんど太陽を見ずに一日が終了し,手術室にこもりっきりであることに閉塞感すら感じ,はじめは少し戸惑いを覚えました。しかし,それぞれの患者さんにおいて幾度とない“手術”というドラマに1日に何例も立ち会うことができ,しかも導入や出血の際は短時間勝負で結果がすぐ出る。長編大作ドラマよりも一話完結のオムニバス形式のドラマが好きな性分の私には,そんな麻酔科の日々があっていたのか,徐々に楽しくなりだしたころに1.5か月の研修期間が終了しました。

 2年目になり進路候補であった産科でお産を見ると,自分が産んでいるわけでもないのにウミガメのように涙が出てしまう自分に気づき,これじゃダメ……と断念。最後までマイナー外科と悩みましたが,3か月間,麻酔科をさらに選択でローテし,この科に決定したのは麻酔科業務の楽しさももちろんですが,当時いらっしゃった先生方の影響が大きいです。

 まず,N先生。その針の先には目がついてるとしか思えない手技の鮮やかさ。硬膜外麻酔は瞬きしている間に穿刺が終わってしまうので,うかつによそ見できません。そしてS先生。生きる医学辞典か? と思うばかりの知識量と教育に対する熱心さ。そしてY先生。女医ってこんなにかっこいいの? 私もこうなれるのか? とスタイルの違いも考慮せずに思いました。手術の予定所要時間を超過しているときには,外科医を励ますのも麻酔科の仕事であることをその背中から教えていただきました。そして,現在大学でご一緒させていただいているA先生。当時3年目でいらっしゃったのですが,心臓外科の麻酔導入を見学させていただき,複数の外科医を手玉にとる女帝の麻酔に魅せられました。

 この麻酔科といういわば“任侠集団”に感銘を受け,「私もこんな麻酔科医になる!」と決心しました。とてもお世話になった方々です。

 b.今週1週間を振り返ってみます。月曜日は血小板数が低く,硬膜外が穿刺不可な食道癌,火曜日は腹壁瘢痕ヘルニア,下垂体腺腫,水曜日は透析患者さんの腹腔鏡下の胃切。木曜日は0歳のNISSEN手術,胸膜腫瘍合併の乳癌の後当直,夜間は平和で前置胎盤の緊急帝王切開のみ。そして金曜日は,術後疼痛ラウンドと術前外来。当直や勉強会などの業務がなければ,週末はフリーです。もちろん週によって担当麻酔の科は異なりますし,ICU業務にも携わります。

 老若男女,合併症の多少は関係なし。国試以来初めて聞く疾患とも遭遇しながらも,楽しく働いてます。

(4)時々,「麻酔って寝かして起こすだけやろ?」と聞かれますが,最近私は,麻酔科は仕立て屋みたいなものかな?と感じます。服なら何でもいい,とは誰も思わないでしょう。それ同様,既製品ではなく各患者さんにあったオーダーメイドの服を作製し,時に外科医という問屋さんに,「先生の硬麻は効くよね」などとお世辞の言葉をいただき,有頂天になりながら,また次のお客のためにもくもくと服を仕立てていく職人。職人なので,一風変わった人が多少多いことは否めませんが,それもまた一興! あなたも職人になってみませんか?


膠原病内科

急性期から慢性期まで 全身を内科的に診る

吉田 祐志(国立国際医療センター 膠原病内科レジデント)


(1)2007年阪大卒。天理よろづ相談所病院で初期臨床研修後,09年より現病院にて後期研修中。

(2)膠原病というと“難しい病気”というイメージを抱かれている方が多いと思います。私自身も学生時代はそうでした。難しく感じる原因の1つに,膠原病が皮膚,関節,神経,肺,腎臓など多臓器を侵す疾患であるという特徴があります。膠原病内科は,関節リウマチ,SLE(Systemic Lupus Erythematosus;全身性エリテマトーデス)など多様な膠原病疾患を各専門科と協力しながら全身的に診療する科です。膠原病という疾患のスペシャリストであるとともに,全身疾患を診るジェネラリストとしての要素もあります。治療が適切に行われれば,少ない副作用で症状をしっかり抑えることができ,健常者とほとんど変わらない生活を送れるようになるので,大きなやりがいを感じることができます。

(3)a.学生時代から免疫学に興味がありましたが,それは漠然としたものでした。むしろ臨床医学では循環器や救急などの急性期医療に興味がありました。ところが初期研修で実際に各科を回ってみると,急性期医療の現場は慌ただしくて,患者さんとお話しする機会が少なく,入退院の回転も速いため患者さんとの関係が一期一会で,やや機械的な印象を受けました。一方,総合内科の研修中に出会った膠原病の患者さんは入院期間も長めで,いろいろなお話をする時間的余裕を持つことができました。患者さんとかかわることで垣間見た,指導医の先生と患者さんとの深い信頼関係はとても印象的でした。患者さんが出産の報告にみえていたり,「先生には30年もお世話になっていて父親のように思っている」とおっしゃっていたり……。私も診療を通じて患者さんとそういった生涯にわたる信頼関係を築くことができればいいなと思い,膠原病内科に決めました。

 b.私が現在,研修をしている国立国際医療センター膠原病内科は,重症症例を中心に年間400例近くの入院を受け入れ,各科と連携して診療にあたっています。どんな症例もほぼ断ることなく受け入れるため,他の専門施設で手に負えなくなった重症症例を多く抱えることとなり,肉体的にも技術的にも厳しいときもあります。けれど部長をはじめ,指導医の方々はみな親切かつ教育熱心で,カンファレンスなどで診療方針に関して十分な議論ができるので,安心して診療を行えます。「『国際医療センターで治せない疾患はどこにいっても治らない』と言えるような医療でなければならない」という部長の言葉のもと,患者さんに最善の医療を提供できるよう日々努力しています。

(4)最近は手技を身につけることが優先されがちな傾向にありますが,膠原病内科では手技はほとんどありません。内科医ならではの状況把握能力,臨床的判断能力をフル活用して診療を行います。年単位の免疫抑制剤の調整から,急速な呼吸状態の悪化に対する気管挿管,連日の血漿交換などあらゆる病態に対応する能力が要求されます。非常に緻密な論理的思考能力と膨大な知識が必要で,1つの判断で患者さんの予後が大きく変わりうることは,大きなプレッシャーであると同時に,膠原病内科医の醍醐味です。急性期から慢性期,頭から足先まで幅広い病態を内科的に診ることに興味がある方には膠原病内科をぜひお薦めします。


小児科

子どもたちが出す小さなサインから,診断へ

浦田 晋(国立成育医療センター 総合診療部後期研修医)


(1)2005年浜松医大卒。自治医大病院で初期臨床研修の後,現職。

(2)小児科医は総合診療医という印象が強いと思います。成育医療センターでは,専門性の高い疾患が多いですが,そういった患者さんの多くが,実は開業医や一般病院からの紹介例なのです。やはり小児科医には,あらゆる分野の疾患のFirst touchを行っていくことが求められているのだと実感しています。小児科では,誰もが総合診療医でなければならないのだと考えています。

(3)a.学生時代から小児科へ進むことを考えていました。はっきりとした理由は思い出せませんが,「子ども=元気な存在」と考えていて,病院にいる子どもを一人でも少なくできたらいいな,なんて考えていた気がします。臨床初期研修は「小児科がなるべく大きなところで」と考え,自治医大病院で研修をしましたが,小児科のローテートは3か月だけで,あえて延長はしませんでした。この2年間は,できるだけいろいろな科を経験しておきたいと考えたからです。心疾患(特に心不全)のダイナミズムに間近で接した循環器内科は非常に興味深く,初期臨床研修後の進路については迷った時期もありました。最終的に小児科を選んだ理由は,以前からの子どもに対するイメージ,そして小児科をめざす人が減っているといわれる中で,少しでも自分の存在価値を見つけたいと思ったからでした。

 b.現在所属する国立成育医療センター総合診療部は,初期臨床研修を終えた医師を中心に後期研修医が約40名います。これだけの研修医がそろう病院は全国的にみてもあまりないでしょう。その中で,互いに刺激を受けながら,また,助け合いながら研修を受けられる環境は非常に楽しく,充実しています。全国から患者が集まる小児専門施設でありながら,救急外来にはCommon diseaseが溢れ,肺炎や胃腸炎などの入院も日常茶飯事で,非常に幅広い疾患を学ぶことができることも,この病院の特徴の1つです。

 短期間で退院する子どももいれば,退院のめどが立たない子ども,命を永らえることすら難しい子どももいます。患者さんへの接し方は一人ひとり異なり,それぞれに対する想いもさまざまですが,一人ひとりが大切な存在だという気持ちをもって接することが大事だと思います。子どもは素直に自分の感情を表現します。たとえ一時的な付き合いであっても,僕らも心から接する必要があると思います。それは子どもの親も同じです。子どもやその親との関係づくりに困難さを感じることも多いですが,小児科医の多くは,どんなときも子どもの幸せ,そして家族の幸せを考えながら働いていると思います。そういったことを考えながら働けるのは素晴らしいことで,小児科医のやりがいだと思います。

(4)小児科は,まだ喋ることもできない乳児から,なかなか自分の訴えを表現できない幼児,さまざまな思いを抱えた思春期の子どもたちが対象で,大人に比べて検査は容易ではありません。病歴と身体所見から,生理学的な状態を思い浮かべ,少ない検査で診断につなげていかなければなりません。医療は恣意的なものであってはならず,EBMが重視される現代医療にあっては,常に過去の報告と比較し,根拠に基づいた医療を行うことが重要です。しかし至るところでEvidenceだけでは説明できない部分もあり,知識を超えた感性が求められます。それもまた,小児科医の楽しみだと考えています。


腫瘍内科

適切な癌医療で患者さんを笑顔にする

河野 晶子(国立がんセンター中央 病院 内科レジデント 固形腫瘍コース)


(1)2005年浜松医大卒。自治医大病院にて初期臨床研修および1年間の内科後期研修。08年より栃木県立がんセンターにて腫瘍内科レジデント研修。09年より現職。

(2)悪性腫瘍に対する化学療法は近年めざましい進歩を遂げており,新規抗癌剤や分子標的薬剤の登場によってさらに生存期間の延長が得られています。腫瘍内科はあらゆる癌種において適切な抗癌治療の選択・実施や副作用マネジメント,症状緩和を実施する,癌治療の総合診療科です。

(3)a.私の初期研修時代は,外科医が手術の合間を縫って抗癌治療を施行していることが,まだ一般的な状況でした。内科医をめざす研修医として外科をローテートしていたのですが,抗癌剤の副作用で苦しむ患者さんに適切な支持療法が施され,笑顔で退院したときや,痛みで苦しむ患者さんにペインクリニックの医師と協力してオピオイドや鎮痛補助薬を調整し笑顔が戻ったときなど,手術や化学療法だけではない,癌治療における症状緩和,支持療法の重要性を目の当たりにしました。これまでの慣習どおりに外科や婦人科といった科で癌治療をやっていくことも考えましたが,時を同じくして私の研修病院に現在の私の上司である藤井博文先生が「腫瘍内科医」として赴任され,腫瘍内科のこれからの重要性や将来性を確信したことが,腫瘍内科を選択した直接のきっかけです。

 b.国立がんセンター中央病院で固形腫瘍(乳腺,肺,消化管,肝胆膵)・血液腫瘍を含めてローテーションを行います。そのほか,緩和医療や外来通院治療センターでの研修もします。希望に応じて病理や画像診断なども学ぶことができます。

 当院ではたくさんの治験/臨床試験が行われており,その試験の背景を含めて理解することで癌化学療法の進歩や現在の標準治療がどのように確立されてきたのか,今後の展望などを網羅的に学ぶことができます。また,臨床試験を実施するための環境が整っていることと患者数が多いこともあって,レジデントであっても臨床試験のプロトコールを作成し,実施することが可能です。これら貴重な経験を積むことは,他の施設では不可能だと思います。

 志を同じくする仲間が全国から集まっており,刺激を受けることが多いです。また,常に自己学習が求められる環境であり,このことは自分自身にとってはいい緊張感を生み出しています。個々人で求めるものや目標とするものは異なるでしょうが,それぞれに満足できるだけのQualityが当施設にはあると思います。

(4)化学療法や支持療法の進歩により,次第によりよい癌医療が提供できるようになってきました。次に解消すべきは担い手不足です。癌患者さんの希望のため,皆さん一緒に働きませんか?


眼科

失明の不安を抱える患者さんのために

荒木 章之(東京大学大学院 医学系研究科 外科学専攻 眼科学博士課程)


(1)2005年東大卒。東大病院で初期臨床研修の後,同院眼科入局。同院にて1年間の後期研修の後,大学院へ進学。

(2)眼のことなら小児から大人,点眼・内服治療から手術に至るまですべてが守備範囲ですが,眼科の中でも専門が角膜,緑内障,糖尿病,ぶどう膜,網膜硝子体,神経眼科,小児眼科などに細かく分かれており,初期研修の後,自分で選択することになります。私が研修した大学病院ではすべての専門の医師がそろっていましたが,このような病院はあまり多くありません。普通は,緑内障が得意だったり,硝子体手術(網膜剥離などの手術)に特化していたりと,病院ごとに専門分化しています。研修先を選ぶ場合には,事前に見学に行くとよいでしょう。

(3)a.正直に書きます。中学生のころ図書館でたまたま手にした本に,「アメリカでは眼科医が一番人気だ! 給料も高い!」と書いてあり,「これだ!」と思ったのが最初のきっかけです。眼科医が書いていたのでこういう書き方になったのだと思いますが,今思えばよく信じたものだと思います。そのころから,なんとなく眼に興味を持つようになって,医学部に進学してからも眼科以外はあまり考えていませんでした。

 5年生のクリニカル・クラークシップのときに大変お世話になった整形外科にもすごく惹かれましたが,最終的には,眼科の医局長の先生の,「一人前になるのが他の外科系と比べて早く,1年目から白内障の手術も執刀できるようになる」との言葉に魅力を感じて眼科を選びました。初期臨床研修の2年目のうち8か月間は自由選択であったので,すべて眼科で研修しました。

 しかし,患者さんに対する態度や医師としての心構えについて最も影響を受けた先生は,スーパーローテートで一番最初に研修させていただいた外科のチューベン,オーベンの先生です。医師になって一番最初にお世話になった科へ行きたいと思う方も多いのではないでしょうか。

 b.後期研修1年目の大学病院では,病棟,外来,手術室でオーベンの先生と1対1でつきっきりで指導を受けました。そのほか,外来では視力検査その他のお手伝いや,手術室では外回りを行い,角膜移植当番で呼び出しがあれば,ドナー登録していただいていた方のところまで伺い,眼球摘出の処置を行いました。担当患者さんの診察は,平日は朝夕2回,土日は1回となっており,問題があればオーベンの先生に相談するのはほかの科と同じです。2か月に1回ほど,豚の眼で白内障の手術の練習を行う機会があり,そのときはモチベーションが上がったものでした。

 眼科で治る病気は結膜炎と白内障ぐらいです。緑内障や糖尿病網膜症などほとんどの眼の病気は悪化することはあっても良くなる可能性は少なく,「失明しないでしょうか?」と不安になって外来にいらっしゃる患者さんへの説明は非常につらいものがあります。

 そんなこともあり,もともと研究にはあまり興味がなかったのですが,後期研修2年目からは,大阪バイオサイエンス研究所にて,大学院生としてマウスを用いて網膜の発生の研究をしています。研修医のころとはすべきことや時間の流れなどががらりと変わり,失敗することや落ち込むこともありますが,研究室の親切な先輩方に教わりながら,博士論文投稿をめざしてがんばっています。自分の研究が将来,少しでも患者さんの視力回復の役に立てればこの上ない喜びです。

(4)眼という本当に小さな体の一部分を扱う科ですが,外来,手術,研究ともにやりがいがある科だと思います。ぜひ一緒に盛り上げていきましょう。


消化器外科

恩師の言葉で学びの多い消化器外科へ

岡野 美々(東京女子医科大学病院 消化器病センター外科 医療錬士)


(1)2007年聖マリアンナ医大卒。東女医大病院にて初期臨床研修の後,現職。

(2)当院消化器病センターは設立40年と歴史ある施設です。消化器疾患についてのすべてを網羅し,消化管,肝,胆,膵など各専門医のもと各疾患に対する検査,治療を行っています。検査はレントゲン,内視鏡,超音波など自ら行い,治療では内科的,外科的治療の他,内視鏡下,腹腔鏡下あるいはエコー下の治療,化学療法,免疫療法,放射線治療を行っています。その中で,医療錬士研修制度は,初期臨床研修修了後5年間で本格的専門領域の研修を行うとともに,他科へのローテーションもしながら総合診療能力を身につけ,医療錬士研修終了時に消化器外科専門医を取得できるカリキュラムになっています。

(3)私が消化器外科をめざした一番の理由は「好き」だからです。学生時代,お腹を触れば大抵の状況は想像がつく,画像と場合によっては手術とで反芻できる,との母校の先生の言葉が印象的で消化器の手術に興味を持ちました。その先生の勧めもあり女子医大を見学し,術野での流れるような手の動きと,テンポの良いリズムに引き込まれ,ただただ圧倒されました。それだけでなく,どの先生もスペシャリストとしてジェネラリストとして,さまざまな検査や治療を,一人ひとりの患者さんの状態に合わせて幅広く丁寧に行っていく姿に感銘を受けました。初期研修の際には,目まぐるしさに追われながらも『1日7回診し,微妙な変化に気づくこと』,『誰よりも深く検査を理解し,結果を把握すること』といった患者さんの目線に立った日常業務の術から,消化器外科の最先端技術や濃密で幅広い知識の詰まった議論に身近で触れることができるなど,得ることが想像以上に大きいと実感しました。

 私自身,将来どの専門分野をめざすかまだ決められてはいません。しかし,消化器の医師として一通りの知識と技術を身につけ後輩に指導し,さらに臨床や研究の専門分野への飽くなき追求を積み重ねていく,尊敬すべき先輩医師が多くいらして,自らの5年後10年後のさまざまな姿を思い描けたことが入局の決め手となりました。もちろん女性としての私生活も考えなかったわけではありませんでしたが,今後医師として自分が何をめざしたいか考えたときに迷いはなくなりました。

 b.消化器外科医として一歩を踏み出したばかりですが,初期研修医と決定的に違うことは,自らの成す医療に責任が生まれることです。これは考えていた以上に重く,患者さんやその家族と向き合えば向き合うほど自問自答を繰り返すこととなっています。しかし,さまざまな考えを持った多くの先輩医師の姿を見て,一時一時にたくさんの教えを請うことで学ぶ日々を過ごしています。大学病院であるがゆえに最先端の検査・治療に身近で触れることができる一方,携わる患者さんも必然的に多くなってきます。未熟ながらも私にできることはと,頭を悩ませながらベッドサイドから離れられないこともしばしばですが,そんなときにも元気になった患者さんから,「先生に励まされた言葉でここまで頑張れた」と笑顔で話してくださるときには,本当にこの科を選んでよかったと実感します。

(4)後悔しない道を選ぶこと,そして決めた道は迷わず進むこと,一日一日を大切にすること。どんな環境でも学べることはたくさんあると思っています。好きなことであればなおさら,自分次第で有意義な研修をつくることはできると思います。外科をめざす研修医の先生,いつかどこかでお会いできることを楽しみにしております。

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