医学界新聞

2009.09.07

より良い医療人を育てるために

第41回日本医学教育学会開催


 第41回日本医学教育学会が,7月24-25日,大阪国際交流センター(大阪市)にて塩崎均会長(近畿大)のもと開催された。「良き医療人の育成に向けて――その理想と現実の狭間」をテーマに掲げた今回は,教育者と教育を受ける者双方にとってのより良い医学教育をめざし,会場の各所で議論が交わされた。


臨床を実践的に学ぶ場を作る

シンポジウムのようす
 特別講演「わが国の医学教育の現状と問題点」では,高久史麿氏(自治医大)が,現在の日本の医療が直面している問題点を挙げ,その上で医学教育をどう改善すべきか語った。

 氏はまず問題点として,医師不足,病院医療の危機,医療経済の水準の低下,専門医制度の質の低下,医学研究の担い手不足などを提示。このうち医師不足は,診療科や地域での医師数の偏在により深刻度を増しており,現在,地域医療,医学研究のための人員確保といった観点から医学部入学者数の増員,初期臨床研修制度関連の見直しなどが試みられている。また病院医療の危機については,小児救急のコンビニ受診による医師の過重労働や,一次・二次・三次医療の区分がなされておらず,患者が基幹病院にフリーアクセスで殺到することなどを原因として指摘。一次医療としてのかかりつけ医を定着させるため,その質を担保する認定制が検討されていると話した。

 日本の医学教育については,PBL・クリニカルクラークシップの普及や,2001年の国公立私立大学共通のモデルカリキュラムの作成,その評価方法としてのCBTやOSCEの導入などにより大きく改善されたと評価。その上で未だに残る問題点として,基礎と臨床の結びつきの弱さ,臨床推論のトレーニングの欠如,さらには,欧米と比較した場合のクリニカルクラークシップを受け入れる患者の少なさなどを指摘した。ただ最近は大学での総合診療,地域医療関連の講座開設も増加しており,両講座がタイアップすることで,臨床診断を実践的に学び,患者と接する機会を増やして医師患者相互の信頼関係を築くことができると提言した。

医学部定員増への期待と課題

 シンポジウム「医学部定員増をめぐって」(座長=名大・伴信太郎氏,広島大・井内康輝氏)では,今年度は8486名と過去最高となった医学部定員数について,増員の影響と,現場での対処法に関して報告が行われた。

 まず文科省の新木一弘氏より,医学部定員における今後の方針について報告があった。骨太の方針2009の「医師等人材確保対策を講じる」という一文を受け,今年度以降10年間で最大369人,医学部定員を増員するという。地域の医師確保の観点から329名,基礎・社会医学研究医増員の観点から10名,歯学部の入学定員減員の特例として30名が,その内訳とのこと。

 続いて横溝岳彦氏(九大)が,基礎医学研究者の養成について九大の取り組みを語った。全国の大学で,基礎医学系教員・大学院生に占める医学部卒業者の割合が半分以下と大幅に減少し,かつ若年層ほどその傾向が顕著であることから,近い将来には医学部教員の多くを医学部出身者以外が占め,医学生が興味を持てるような基礎医学教育が困難になると指摘。九大の取り組みとして,医学科と同様の教育を4年間行い,その上で大学院に進み基礎研究者の道をめざす生命科学科などを紹介した。氏は,文科省の策定する入学時の研究医枠だけでは不十分であり,入学後に研究の道を志望したときにも対応できる制度や,早い時期から研究の経験を積ませるため,教員の増員や施設の拡充も必要と訴えた。

 岐阜大における定員増への対応については鈴木康之氏が報告。重視しているPBLについては,その質を維持するため,従来のPBLを2年半から2年に減らす一方で,研究室での実習または地域診療所への配属の選択制PBLを12週間導入。そのほか学生ガイダンスの充実,学生チューターの起用などで増員に対応していくという。しかし氏は,教育スタッフの質・数の充実がなければ医学教育の改善は図れないとして,スタッフの増員には国の施策が必要と訴えた。さらに,学生や研修医を含めたすべての医療者が教育マインドを持って,受身にならず共に学んでいく姿勢が大切と強調した。

 和歌山医大では,2007年までの定員60名から2009年の95名へと急激な増員が行われた。羽野卓三氏は,県内の医療を支えるため県民医療枠,地域医療枠などを設定して定員増に踏み切ったこと,それぞれの枠に卒業後も学位や専門医取得コースを設定し,将来の進路も明確にしていることを報告した。臨床実習については,実習生数も実習期間も増えるため,教員の負担増や診られる症例数が限られることが懸念される。そのため氏は,地域にも実習できる施設を増やし,その質も高めることが課題だとした。教員の負担について,同大は今後6年間で50名の増員が認められたものの,初期臨床研修必修化後は診療・教育の占める割合が増し,研究に割ける時間が減っているという。学生と教員双方に資する,地域ぐるみの研修を行うことが重要とした。

 その後の質疑応答では,会場から多数の質問が投げかけられた。「定員増が良い医師を増やすことにつながるのか。学生の質が低下するのでは?」という質問には,羽野氏から「学業成績のみを選考基準にせず,入学選抜の方法も再考すべき」という意見が出された。また「定員増に対応するには,大学のみの教育には限度があるのでは?」という疑問に対し新木氏は「地域の医療機関での卒前教育も考慮し,協力して研修を実施してほしい」と要望。「何をもって今回の医学部定員増を成功とするのか?」との問いには,各氏ともに「地域ごとに医療へのアクセスが改善すれば,一定の成功とみなせる」と回答し,意見の一致をみた。

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