医学界新聞

寄稿

2009.08.31

【寄稿】

鹿児島大学におけるトカラ列島皆既日食医療支援

根路銘安仁(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 離島へき地医療人育成センター)


 2009年7月22日,世界各地で皆既日食が観測されました。鹿児島県のトカラ列島では,今世紀最長の皆既日食が観測される見込みでしたが,残念ながら雨のため観測はなりませんでした。しかし,この天体ショーに際し,鹿児島大学はトカラ列島への医療支援を行ったので,本稿にて紹介します。

人口の倍近い訪問客が押し寄せた

 トカラ列島は鹿児島県十島村に属しており,有人島全7島(口之島,中之島,平島,諏訪之瀬島=上4島,悪石島,小宝島,宝島=下3島)に700人弱が居住しています。皆既日食では,そこに約1200人の観測者が訪れることになったのです。ライフライン設備の限られた島嶼に,人口の倍近い訪問客が約1週間にわたって滞在するイベントは,日本で初めての事例でした。

 トカラ列島における普段の医療体制は,中之島に常駐医が1名派遣されており,上4島で巡回診療を行っています。また,下3島はへき地医療拠点病院である鹿児島赤十字病院から月2回医師が派遣され,巡回診療が行われています。医療施設としては,各島に診療所があり(中之島のみX線診療施設がある),看護師が各1名常駐しています。

 このような状況では,皆既日食時の医療体制として不十分と考えられましたが,鹿児島赤十字病院のみでは十分な数の医師を派遣することができませんでした。そこで,鹿児島大病院に相談があり,病院長の決断で医療支援を行うことになりました。同院では各部署を通じて派遣医師の公募を行い,8名の医師を決定しました(口之島=髙松英夫・院長,根路銘安仁・離島へき地医療人育成センター,平島=大脇哲洋・離島へき地医療人育成センター,堂籠博・救急部,諏訪之瀬島=桑畑太作・消化器外科,小宝島=山形仁明・泌尿器科,宝島=村永文学・医療情報部,池田敏郎・産婦人科)。

 2009年5月18日,鹿児島大学において,十島村役場と鹿児島赤十字病院,鹿児島県保健所で準備委員会会議を行いました。この中で,住民,島外からの帰省者,ツアー参加者の数,電気,ガス,水道,食事,居住環境について確認を行うとともに,医師の派遣先,報酬,医療器材,薬品について協議しました。報酬については大学の出張報酬規程を適応し,医療器材は現在の配置を確認しました。また,薬品については大学から貸し出し,使用した分のみ返還する形をとり,十島村へ負担をかけないように支援することになりました。さらに,熱中症,食中毒,新型インフルエンザなどの予想される疾患,救急搬送患者発生時の対応,使用が予想される薬剤について検討しました。

保健医療支援体制全体会議の様子
 6月15日には,準備委員会のメンバーに近畿日本ツーリスト,鹿児島県保健医療福祉課,離島振興課,地域振興局,危機管理防災課,消防保安課,海上保安本部を加え,トカラ皆既日食・保健医療支援体制全体会議が開かれました。状況報告後,医療活動の特徴,救急患者発生時のヘリ搬送について最終確認し,準備を整えました。

 7月17日の皆既日食医療支援派遣当日,先発組4名が“フェリーとしま”で現地に向かい,私は翌朝6時に口之島に到着しました。入島直後に,近畿日本ツーリスト現地スタッフと合流し,ツアー客とともにミーティングに参加しました。この際に,派遣の看護師,鹿児島県警警察官とも顔合わせを行いました。

口之島(左)と中之島(右)を望む
 到着当日は日差し

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