医学界新聞

2009.07.13

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床神経生理学

柳澤 信夫,柴﨑 浩 著

《評 者》飛松 省三(九大大学院教授・臨床神経生理学)

基礎から臨床,最新知見まで網羅した新定番書

 臨床神経生理学とは,ヒトの脳神経系の機能を非侵襲的な方法で研究し,神経・精神疾患の診断・治療に役立てる学問であり,近年のこの分野の発展には目覚ましいものがある。このたび出版された柳澤信夫・柴﨑浩著『臨床神経生理学』は,定評ある脳波・誘発電位・筋電図テキスト『神経生理を学ぶ人のために』が全く新しく生まれ変わったものである。中枢神経系・末梢神経系の区分を超えたダイナミックな構成となり,「基本的検査法の理論と実際」に加えて「精神・神経・筋疾患の生理学的アプローチ」も設けたことで,読者は検査法と疾患の双方向から学ぶことができ,統合的な理解が得られる仕組みになっている。

 まず,総論としての神経系の機能検索に関する生理学的検査の意義と限界,将来展望が述べられている。次に,脳波,誘発電位,筋電図,神経伝導検査などの基本的・代表的検査法の基礎的理論と実際の記録法,および正常所見が解説され,それぞれの検査手技で何がわかるかが明快に解説されている。その中でも臨床神経生理学的検査を日常的に実施する者にとって必要な神経生理学の基礎的知識が極めてわかりやすく説明されている。この部はぜひ熟読していただきたい。最後に,代表的な精神・神経疾患における臨床生理学的検索法および臨床的研究への応用が述べられている。

 本書は図が豊富で,読者に見やすいカラー刷りとなっている。各部の始めには200-300字程度の要約があり,基本的事項をすぐに学ぶことができる。また,著者の検査法に関する認識・見解やトピックス枠が「コラム」として設けられ,本文に盛り込めなかった内容を網羅している。これを一読することは初学者のみならず,この分野を研究している者にとって,非常に有益な情報となるであろう。

 著者のお二人は長年この分野を世界的にリードしてこられた臨床神経生理学の泰斗である。お二人の優れた見識・学識がなければこのようなテキストは世に出なかったものと思われる。本書により臨床神経生理学的検査の基礎から臨床までを理解できるし,高次脳機能検査,脳機能イメージングなどの最新知見まで網羅した新定番書となるであろう。医学生,研修医,専門医をめざす医師,さらにはリハビリテーションや神経疾患に興味のある方々にぜひお薦めしたい。

B5・頁448 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00709-2


そこが知りたい
C型肝炎のベスト治療
インターフェロンを中心に

銭谷 幹男,八橋 弘,柴田 実 編

《評 者》山田 剛太郎(川崎医大附属川崎病院肝臓消化器病センター)

C型肝炎治療における日常診療の手引書

 ここ数年,国を挙げてのウイルス肝炎・肝癌の撲滅運動が本格化している。ウイルス肝炎の抗ウイルス療法においても,治療法の研究開発に対する厚労省からの助成金の増額に加えて,2008年4月よりC型肝炎,B型肝炎のインターフェロン療法に対する公的助成制度が始まっている。そこで,肝炎の専門医療機関のみでなく,一般医療機関においてもC型およびB型肝炎患者の治療への関心が急速に高まっている。

 このような時期に,C型肝炎を長年にわたって診療され,精通された3人の先生方が編者となり,C型肝炎の診療ならびに治療に関する実践に即した成書として『そこが知りたい C型肝炎のベスト治療』が企画・出版された。

 前半では患者説明に役立つわかりやすい図譜をはじめとして,C型肝炎の自然経過,各患者の治療効果を予測する因子,インフォームド・コンセント,ガイドラインに基づく標準治療法など,重要なポイントが網羅されている。後半ではインターフェロン療法の実際の進め方,合併症などが詳細に紹介されている。

 本書の特徴は,各エキスパートにお願いして,自分の実際の経験を基に,症例に応じた治療の対応の仕方やさじ加減ともいうべき,通常のテキストにはあまり書かれていない各自の治療における考え方を,非常にわかりやすく解説していただいている点である。

 また,インターフェロンの社会医学として,国や東京都の医療費補助の取り組みや肝炎情報センターについても詳しく紹介されている。さらに付録として現在,保険採用されている各インターフェロンのバイアルをカラー写真で示し,その特徴に加えて,投与上の注意点,報告されている有害事象が詳細にまとめられている。

 まさにC型肝炎治療における日常診療の手引とも言うべき書である。

B5・頁212 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00738-2


言語聴覚士のための基礎知識
音声学・言語学

今泉 敏 編

《評 者》宇野 彰(筑波大大学院准教授・感性認知脳科学)

基礎知識をupdate

 本書は,題名にもあるように言語聴覚士が専門的な仕事を進める上で必要な音声学・言語学に関する基礎的な知識を提供することを目的としている。本書の編者である広島県立保健福祉大学の今泉敏教授は保健福祉学部コミュニケーション障害学科にて言語聴覚士を養成する立場にあるだけでなく,音声言語医学に関する日本での代表的な研究機関であった東京大学医学部附属音声言語医学研究施設にて長年にわたって研究を進め,さらに日本音声学会や認知神経心理学研究会の重鎮でもあることから,まさにこの企画が実現したものと思われる。

 本書の構成としては,第I章では,「学びの手引き」として編者が本書の内容を丁寧に解説している。第II章の音声学,第III章の言語学の領域については,各著者が独自の研究を基に総合的に担当領域を解説している。また,音声学的障害や言語学的障害と想定された音声・構音・流暢性の障害および失語症が,対応する形で記されている。この部分の解説は,分量としては少ない印象だが,それは本書が音声学,言語学を中心とする構成となっているためと思われる。第IV章では,言語発達学について本書では取り入れられ,多くの紙幅が割かれている。言語発達学を音声学,言語学と並列させる試みは斬新であると思われる。第V章では,音声言語と脳について解説されている。一般に,この種の教科書の多くは,古典から始まるが,本書の中ではGeschwindの言語モデルが,伝統的モデルとして位置づけられているように思われる。それほど,近年の研究に基づき,脳機能画像や計算論的アプローチ,言語発達と可塑性など新しい考え方を紹介している。

 本書の中で個人的に最も気に入ったところは,コラム,NOTEというオムニバス的な一口知識編が合計58項目もあることであった。本書を手にして目次の次に思わず開いてしまったほど興味を引かれた。なんとなく理解しているようで,実はよく理解していない用語の定義や用途に関しての解説は特にお薦めできる。例えば,「漢字は表意文字か?」の内容は,言語聴覚士でも知らないことが多いため私も大学の授業で教えている内容である。まだ漢字が表意文字だと思っている諸兄にはぜひ一読をお勧めしたい。

 ただし,残念に思う点が2点あった。第一点は「言語理論と言語聴覚療法」や「基礎理論と臨床」という小項目において,双方ともに言語理論もしくは基礎理論との関連が読み取れなかったことで,期待していただけに残念であった。もしかしたら,目次の誤植である可能性もあると思われた。もう一点は,表記法の一貫性についてである。ページによりディスレキシアもしくは読字障害dyslexiaと表記している内容は,発達性dyslexia(発達性読み書き障害)を示していると思われたが,後天性のdyslexiaが解説されていなかったので,成人の後天性失読の専門家にとっては奇異な感じがするかもしれない。この点は複数の著者がいる場合,調整が難しい点であろう。第二刷もしくは改訂版に期待したい。

 しかし,本書の価値は上述の小さな2点を凌駕し余りある。音声学や言語学を学び直す諸兄にとってはお薦めの書であることは間違いないと思われる。

B5・頁304 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00632-3


続 アメリカ医療の光と影
バースコントロール・終末期医療の倫理と患者の権利

李 啓充 著

《評 者》向井 万起男(慶大准教授・病理学)

読み始めると止まらない,鋭い分析と圧倒的な筆力

 李啓充氏は『週刊文春』で大リーグに関する素晴らしいコラムを6年間連載されていた。その後,見事な大リーグ本も出されている。その影響もあって,世間には,氏のことを稀有な大リーグ通としてしか知らない人が多いようだ……。それが悪いというわけではないけれど。

 だが,医療界で働く私たちは違う。氏が大リーグ通として広く知られるようになる前に書かれた『市場原理に揺れるアメリカの医療』(1998年,医学書院)を忘れることなどできない。その分析の鋭さ,読む者を引きずり込む圧倒的な筆力,随所に散りばめられた粋な大リーグ関連ネタ。鮮烈なデビューだった。この本を読んで氏のファンになった医療人は多いはずだ。その後も,氏はアメリカ医療の光と影を描きつつ日本の医療に厳しい問題提起をするという本を出し続けてきた……そして,本書。

 氏の鋭い分析,読む者を引きずり込む圧倒的な筆力は相変わらずだ。このテの本に対しては不謹慎な表現かもしれないが,読み物として実に面白いので一気に読み通せてしまう。もっとわかりやすく言うと,数ページ読んだだけで,“や~められない止まらないかっぱえびせん”状態になってしまう。

 さて,本書の中心テーマははっきりしている。「まえがき」の冒頭に氏自身がはっきりと記している通りだ。「患者の権利」,それも「自己決定権」。こうした重いテーマを論じるには,氏のような分析力と筆力を持ち合わせていないと,おそらく読む者を飽きさせずに最後まで読ませるというのは無理だろうと思う。

 氏はアメリカで延命治療中止のルールが確立されるに至った歴史的経緯を記している。延命治療中止にまつわるルールの根幹をなす原則が「患者の自己決定権」だからだ。また,氏はピルの開発とバースコントロール普及運動の歴史を記している。「患者の自己決定権」は「プライバシーの権利」に由来するからだ。こうしたことを記すに当たって,氏は徹底して,歴史に登場した具体的な人物たちを実にきめ細かく語っている。まるで伝記の積み重ねのようにだ。で,読むほうは,一人ひとりの人物が歴史で果たした役割がわかると同時に,登場人物たちのあまりに人間的な側面にうなり,涙することになる。……笑うこともある。

 そういえば,本書には大リーグ関連ネタは登場しない。でも,それに代わるネタがちゃんと用意されているのがうれしい。

四六・頁280 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00768-9


エキスパート外来診療
一般外来で診るcommon diseases & symptoms

五十嵐 正男,福井 次矢 編

《評 者》伴 信太郎(名大附属病院・総合診療医学)

エキスパートとディスカッションしているような書

 世の中に類書は少なくないが,本書は章・項目立てと著者選びに非常に工夫が凝らされた極めて実用的かつ格調の高い外来診療のガイドブックだと言える。

 まず,章・項目立ては「外来で見る症候からの診断学,治療原則」から始まって,感染症,循環器疾患,というように内科学書に似た章立てとなっているが,その項目内容は外来でよく遭遇する疾患に絞り込んだ簡にして要を得て,かつ実践的な記述となっている。さらには,家庭医的な診療にも役立つように,小児科,眼科,耳鼻科のほか,在宅医療,漢方治療も含まれていて幅が広い。

 著者に関しては,24人が執筆しておられるが,誰一人として共著はない。これは十分な臨床能力・経験を持った人が,責任を持って執筆したということを意味している。実際,評者が個人的に知っている著者が何人かおられ,皆さん現場主義の臨床家であり,かつ臨床能力も高い人たちである。

 本書は,章立てからもわかるように,外来診療のテーブルに置いて鑑別診断を考えたり,処方薬を探したり,というタイプの本ではない。このような,とりあえずの対応はほかの診断・治療マニュアルに任せ,診療が終わってから少し時間があるときに該当する項目を読むと,その領域のエキスパートの医師とディスカッションをしているような雰囲気に浸れる。筆者は「原則として大学や大病院で第三次医療を十分に経験し,その後実際に一般外来を担当しておられる方々にお願いした」という編集方針が真価を発揮している。

 本書は五十嵐正男先生と福井次矢先生という聖路加国際病院の師弟コンビによる編集であるが,五十嵐先生は現在開業して診療所にてご活躍しておられ,福井先生は長らく日本家庭医療学会や日本総合診療医学会などにおける活動を通じて実践的なジェネラリストとの交流が広い。こうした編集者であってはじめて格調が高く,かつ実践的でもある本書が生まれたと言えるだろう。外来診療を行うすべての人に薦めたい良書である。

A5・頁564 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00559-3

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