医学界新聞

寄稿

2009.06.29

【Controversial】

コモンディジーズの診療において議論のあるトピックスを,Pros and Cons(賛否)にわけて解説し,実際の診療場面での考え方も提示します。

糖尿病合併高血圧の併用療法(第2薬)として利尿薬は有用か?

土橋卓也(国立病院機構九州医療センター 高血圧内科医長・臨床教育部長)


 高血圧に対する厳格な降圧目標の達成が心血管病の予防に重要であり,そのためには降圧薬の併用療法が不可欠である。わが国における降圧利尿薬の使用は低頻度にとどまっているが,その要因として,耐糖能の悪化など代謝性副作用に対する懸念や,十分な降圧効果と副作用軽減を勘案した適正用量が明確でないことなどが挙げられる。

 しかし,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)/利尿薬合剤が相次いで発売され,少量利尿薬を積極的に使用する機運が高まった。本稿では,糖尿病合併高血圧の併用療法,特に第2薬として利尿薬が有用か否かについて検討する。


糖尿病合併高血圧に対する降圧薬の併用療法――ガイドラインの考え方

 日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2009年版(JSH2009;文献1)では,高血圧患者の降圧目標について若年・中年者で130/85mmHg未満,高齢者・脳血管障害患者で140/90mmHg未満,糖尿病・慢性腎臓病(CKD)合併者・心筋梗塞後患者で130/80mmHg未満と厳格な目標を掲げている。

 しかし,これらの目標の達成率は必ずしも高くないことが報告されている。われわれが高血圧外来患者686名(平均年齢65.4歳)について調査した成績では,合併症のない高齢者の140/90mmHg未満達成率は74.5%であったが,若年・中年者の130/85mmHg未満達成率は42.3%にとどまっている。糖尿病・CKD合併者の130/80mmHg未満達成率にいたっては,26.4%と極めて低率であった。特に糖尿病合併高血圧では,より積極的な併用療法の推進が必要と考えられる。

 JSH2009では糖尿病合併高血圧に対してARBまたはACE阻害薬を第1選択薬として推奨し,第2薬としてCa拮抗薬と利尿薬を併記している(図1)。すなわち,病態を考慮しながら,主治医の裁量で第2薬として両薬剤のどちらを使用してもよいことになる。

図1 糖尿病を合併する高血圧の治療計画(文献1より)

Pros

 降圧薬の併用療法に際しては,(1)異なった作用機序の薬剤を用いることで,降圧効果の増強が得られること,(2)双方の薬剤による副作用に対して相補的に作用する組み合わせを用いること,(3)使用可能なら服薬アドヒアランスの向上が期待できる合剤を用いること,を念頭に置く必要がある。

 ARB/ACE阻害薬と利尿薬の併用は(1)-(3)のすべての条件を満たす。食塩摂取量が依然として多いわが国の高血圧患者では,少量の利尿薬を加えることでARB/ACE阻害薬の降圧効果が増強され,利尿薬による血清カリウム値の低下,インスリン抵抗性への悪影響もARB/ACE阻害薬により相殺されることが期待される。さらにARBと少量利尿薬合剤の使用により服薬数を増やすことなく降圧の増強が得られ,服薬アドヒアランスが向上する。A...

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