第52回日本腎臓学会開催
2009.06.29
第52回日本腎臓学会開催
『基礎と臨床の融合』をテーマに,腎臓病に挑む
第52回日本腎臓学会(会長=東大・藤田敏郎氏)が6月3-5日,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。慢性腎臓病(CKD)患者数は1330万人に達し,今や成人の8人に1人はCKDを発症していることになる。透析の普及に向けた人員確保や誘引される心・血管疾患治療など,早急な対策が必要だ。
「基礎と臨床の融合」をメインテーマとした今回は,基礎研究のデータと臨床のエビデンスがまさに融合し,CKDをはじめとした腎臓疾患に対しさまざまな議論が展開された。本紙ではその一部を報告する。
データ集積,臨床現場からCKD対策最前線を報告
藤田敏郎会長 |
渡辺毅氏(福島医大)は,今後のわが国のCKD対策を中心に語った。最初に目標に挙げたのは臨床研究の推進で,特に日本人に対するCKD治療のエビデンスの確立や早期診断法・治療法の開発などに重点を置くという。さらに,CKD診療ガイドおよびガイドラインを適宜改定していくことも付け加えた。
続いて,「CKD診療ガイドライン」の作成に携わってきた佐々木成氏(東医歯大)が,同ガイドライン作成過程の報告を行った。ガイドラインにおいて蛋白質摂取量の制限値に明確な記載がないことについて,CKD治療において蛋白質摂取制限を重要視する傾向が世界的に少ないことなどを根拠に,学会員の個々の判断に委ねるとしたことなどを明かした。
今田恒夫氏(山形大)は,蛋白尿・アルブミン尿と腎不全および心血管疾患発症のリスクに関する研究成果を発表した。氏によると,蛋白尿は末期腎不全のみならず心血管疾患などさまざまな疾患の指標として新たに期待されている。しかし,極軽度の蛋白尿であるアルブミン尿検査でさえ,異常基準値の不適切さから陰性となってしまう患者がいるという。このことから,アルブミン尿の異常基準値を引き下げるという考え方を提示。実用化に向けては,体格差がある欧米人と同じ基準による検査の妥当性の検討など課題を挙げた一方で,期待も大きいとした。
堀尾勝氏(阪大)は,日本人の正常腎機能の把握をめざして,腎移植ドナー125人のGFR(糸球体濾過量)を測定し,一般人の住民検診時に算出した推算GFR(eGFR)と比較した。その結果,得られたドナーの実測GFRは一般人の推算GFRより高くなった。これについて氏は,一般人の中には疾患を有するものが含まれているためと説明。今後,ドナーの協力者を増やしていき,日本人における腎機能のより正確な把握をめざしていく方針だ。
続いて登壇した菱田明氏(浜松医大)は,日本腎臓学会が行っている日本人のCKDコホート研究(CKD-JAC)のビジョンを紹介。CKD-JACは,腎機能低下速度・心血管疾患発現・死亡の3点につながる要因の解明をめざし,CKDステージ3-5の患者を対象に調査する。6か月ごとの調査を4年間行う方針だ。現在,17施設,3000人余りの患者が登録されている。
横山仁氏(金沢医大)は,日本腎臓学会と日本透析医学会が共同で行っている腎臓病総合レジストリーの構築について報告した。このレジストリーは,腎生検症例登録とともに,ネフローゼ症候群などを含んだ非腎生検例を加えた腎臓病全体のデータベースとして発案された。さらに氏は,このレジストリーが各種研究の臨床・疫学・病理研究の基礎データとして活用されることなどについても期待感を示した。
女性腎臓内科医の活躍の場を広げていくために
シンポジウム「腎臓学の専門性を広げる多彩なモデル――男女共同参画の視点から」(司会=昭和大横浜市北部病院・衣笠えり子氏,聖マリアンナ医大・安田隆氏)では,日本腎臓学会と日本透析医学会の共催のもと,腎臓医療の各分野で活躍する女性医師が女性医師の勤務環境整備の印象・課題を述べた。
柳田素子氏(京大)は,基礎研究に従事する女性医師として口演。「基礎研究は考えることが重要な仕事の一つなので,家事や育児が落ち着いた時間帯に自宅で考えることもできる」と,女性研究者の利点を述べた。また,女性研究者が多い氏の研究室では,10-17時は大学院生の研究,17時以降は研究体験を希望する大学生の研究に充て,家事や子育てのある研究者は帰宅することができる環境が整っていることも紹介。勤務環境整備の重要性を印象づけた。
宮崎真理子氏(仙台社会保険病院)は,東北地方で腎臓内科医として勤務してきた経験から,アドバイスを述べた。ただでさえ人数の少ない腎臓内科医のなかで女性はさらに少数となってしまうが,「目標を見失わずに,同じ目標を持つ仲間と努力していれば,その仲間の中では性別など関係ない」と,女性医師に力強いエールを送った。
濱田千江子氏(順大)は,日本透析医学会に所属する女性医師に対して行ったアンケートの結果を報告した。氏によると,既婚の女性医師の8割が常勤で,7割が6時間以内の勤務などの支援を受けており,勤務条件に満足している(「少し満足」を含む)女性医師の割合は60%であった。しかし,既婚の女性医師の配偶者は医師であることが多く,子どもの発熱などのときには女性の負担が多いようだ。また,結婚・出産を過剰に意識するあまり,能力を発揮できるような配属や仕事の分担が行われていないという未婚女性医師の回答もあった。
大学病院でも女性医師に対する支援が行われている。丸山彰一氏(名大)は,自身が医局で行っている夜間当直・待機の免除などを紹介。一方,育児等で変則勤務を行う女性医師への報酬のシステム作りのほか,地方病院への派遣における配慮の是非など,大学病院ならではの課題があると指摘した。
原茂子氏(虎の門病院)は,女性医師に対する待遇・勤務環境の変遷を自身の豊富なキャリアに照らし合わせながら振り返った。氏が医師になったころは,女性医師の待遇や勤務評価は男性に比べて悪く,時にはやめたいと思ったこともあったという。それを踏まえて現在の女性医師勤務環境について,「働くことが受け入れられてきた」と述べ,女性がリーダーシップをとっていく時代の到来に期待を示した。
質問コーナーでは,10人以上の女性医師が在籍するなか,勤務環境の整備に取り組む男性上級医師がアドバイスを求め,会場からは男性医師の努力に大きな拍手が沸き起こった。これに対し,「女性は,とても熱心な人ほど弱音を吐かず,知らないうちにバーンアウトしてしまうこともある。大変だと思うが,温かくサポートしてあげてほしい」と激励の言葉が贈られた。
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