医学界新聞

寄稿

2009.04.06

【寄稿】

米国外科臨床研修修了後の可能性
Attendingへの道しるべ

十川 博(マウントサイナイ医科大学 移植外科Assistant Professor)


 私は,1995年に滋賀医科大学医学部を卒業後,在沖縄米海軍病院 (U.S. Naval Hospital Okinawa)インターンを経て,東京女子医科大学消化器病センター外科にて医療錬士を3年間務め,ハーバード大学マサチューセッツ総合病院(Harvard Medical School/Massachusetts General Hospital: MGH)の移植外科に1999年に研究留学した。さらに,ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(State University of New York Stony Brook)の5年間の一般外科レジデンシーを終えた後に,ニューヨークのマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)で移植外科の臨床フェローを終え,現在はAssistant Professorとしてマウントサイナイに残り,指導医として働いている。

 日本人で米国外科レジデンシーを終える人は少なく,また,指導医として残る人はさらに少ないので,本稿ではその際にどのような点が問題になるのか等について解説する。

臨床研修修了後に日本に帰るかどうか

 米国での臨床研修のために海を渡った人々はたいてい,日本の研修システムに満足せずに,もっと上の研修をめざして来たはずである。そこで経験した成果を日本に還元するのは,やはりその人たちの使命であろう。

 しかし一方で,5年間の一般外科の研修,さらにフェローシップの2年間の計7年間も医局を離れていると,なかなか元の医局に帰りづらかったり,あるいは日本でなかなか良いポジションが見つからなかったりするかもしれない。私の場合は,医局の教授も引退されており,かつ移植外科ではフェローシップを終えても本当の意味で一人前にはなっていないので(註1),日本にすぐに戻ることは考えず,米国での指導医職を探そうと思うようになった。

 また,現在の日本の医師を取り巻く状況は,以前よりも悪化しているように見えるので,そういう意味では,米国で臨床研修を終えた医師を日本に戻ってこさせる動機付けは少なくなってきているかもしれない。日本では,大学病院や教育病院を探すのであろうが,大リーガー医師を受け入れる懐の深い医局を探すのも大変だろう。

 いつ帰るか,また,どういうふうに帰るかというのは,難しい問題である。

臨床研修修了後の米国での職探し

 米国でレジデンシーやフェローシップを終えて,先輩・同僚たちを見渡してみると,皆一様にAssistant Professorになったり,開業して数千万の給料を手にしている。自分も,米国で職探しをしてみるかという気分になってくる。

 通常,外科のレジデンシーやフェローシップを卒業すると,大学病院であればAssistant Professorとして雇ってくれる。基本的には,以下に述べるところがクリアできていれば,就職に際して問題ないと考えられる。

A)外科専門医かどうか(Board certifiedあるいはBoard eligible)

 私の場合は,正攻法に外科のレジデンシーから始めてフェローシップへと進んだので,Board certified(外科専門医)であり,他のアメリカ人外科医と同様の扱いを受け,就職活動に臨むことができた。

 Board eligibleは,外科のレジデンシーを修了していても専門医試験に通っていない場合や,通るまでの間を指すが,外科のレジデンシーを修了して何年も経って,まだBoard eligibleなのは問題になる可能性がある。これは健康保険の保険会社からの支払い額が,外科専門医か否かで異なるからである。よって,基本的には専門医を取得している,あるいは専門医試験に受かる見込みである人以外は,病院は雇用してくれない。

 しかしながら,移植外科のように,歴史的に外国人が多い部署の場合は,特別に配慮する病院は多い。実際,日本人で移植外科の指導医になっている方々は,米国での外科専門医を取得せずに指導医になられた場合も多く,近年では,なかなか難しくなってきているものの,移植外科では,米国での外科専門医資格なしでも指導医として採用される可能性がある。

B)州医師免許を持っているかどうか

 レジデンシーやフェローシップのためだけなら,ECFMG(Educational Committee for Foreign Medical Graduates)certificateがあれば問題ないが,指導医として働く場合には,州医師免許が必要になる。

 州によって医師免許の規定は異なるものの,たいていの州では,外国医学部卒業生にはUSMLE(United States Medical Licensing Examination)step 1-3の他に,1-3年間のACGME(Accreditation Committee of Graduate Medical Education)認定のプログラムでレジデンシーあるいはフェローシップを課しているところが多い。例えば,移植外科などのACGME認定外のフェローシップ(註2)を終えただけであれば,州の医師免許を取得することがで...

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