医学界新聞

2009.03.23

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


周術期の臨床判断を磨く
手術侵襲と生体反応から導く看護

鎌倉 やよい,深田 順子 著

《評 者》市村 久美子(茨城県立医療大教授・成人看護学)

周術期の患者の深い理解に基づいた看護を導く好著

 周術期の看護実習を行っている学生からよく聞かれることは「患者さんの経過が早すぎてついていけない」といったことです。術後数日間,何をどのように看護していくのか? 何のために行われている処置なのか?などなど疑問が頭のなかを渦巻き,混乱の極みに陥っています。このような学生の多くはリアリティショックもありますが,今まで学習してきた内容,特に人体の構造や機能,疾患の知識などが整理整頓されないままにきているのではないかと感じています。周術期看護はさまざまな基礎知識を統合しながら展開していくので,講義を行う自分自身もどのように授業を組み立てていくべきか苦慮していました。そんなときに目に留まったのが,看護学雑誌に連載されていた本書の内容でした。周術期看護の難しさ(面白さ)は,生体に起こっていることへの仮説をどれだけ的確に立てることができ,対応することができるかです。その仮説を立てる上での根拠となる盛りだくさんの内容が整理されており,その生体の変化と看護との関連がきちんと書かれていることに魅力を感じて,早速活用させてもらいました。そして,今回このような著書としてより充実した内容になって再デビューしたことをたいへんうれしく思っています。

 本書は1章ではどのような手術でも起こりうる生体反応の総論,2章から8章は手術により影響を受ける循環器や呼吸器といった主要器官や創傷や痛みなどの術後の症候や心理的反応の項目となり,各章が「A 手術侵襲の影響を知る」と「B 援助を組み立てる」から構成されています。例えば,「呼吸器系への影響と看護」の項では,全身麻酔による影響が大きいため,麻酔の何がどのように呼吸器系に影響するのかを図式化し,なぜ無気肺や気管支肺炎を起こしやすいのか,そのメカニズムを導いています。そして,個別情報として開腹術と開胸術といった手術部位による呼吸器への影響などを図示し,援助の組み立てとしては,事例から年齢や呼吸機能,喫煙歴,肥満といった個人情報や手術内容などから具体的な周術期(術前,術中,術後)の看護計画を立案する流れとなっています。従来の疾患や術式を章立てしているテキストとは切り口が違う点がユニークであり,かつ実践的です。さらに9章では手術中に起こりやすい問題とその援助についてもわかりやすく解説されています。また,各章には,「呼吸に関する記号」,「横隔膜の位置と働き」といった内容の「コラム」があることによりさらに興味関心を駆り立てています。

 急性期看護の臨床経験と長年の教育経験や研究実績のある著者が生み出した本書は,臨床で周術期看護に携わる人々には臨床判断の根拠の再確認となり,これから周術期看護を学ぶ方々には,まさに周術期の患者の深い理解に基づいた看護を導く好著となるはずです。

B5・頁176 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00570-8


スピリチュアルケア
看護のための理論・研究・実践

エリザベス・ジョンストン・テイラー 著
江本 愛子,江本 新 監訳

《評 者》古橋 洋子(前・埼玉医科大学短期大教授)

実践に役立つ具体的な方策,ヒントが得られる

 「スピリチュアルケア」は大切で必要なものと思いながらも,いざ実践となると,どんな方法が考えられるのだろうと思い悩む看護師が多いことと思う。しかし本書は,その疑問を解決する多くの示唆を与えてくれる。

 本書は,スピリチュアルケアを行う際に必要な,実際に役立つ手引書となることを意図している。3部構成の第Ⅰ部は看護におけるスピリチュアリティの問題を探求しながら,第II部の土台となる基本的知識を示している。第II部では,スピリチュアルケアの提供を支援するための看護の実践とその方略が,具体的な事例を含めて述べられている。第Ⅲ部では,クライエントのスピリチュアルヘルスを高めるための介入方法が示されている。

 スピリチュアルケアはクライエントの私的側面にかかわらざるを得ず,看護師には豊かな感受性が求められる。そのため,本当のところは避けて通りたいという思いが看護師の中にあるように思う。そのような看護師に対しても,心のケアや癒しを支えるコミュニケーション,これまで言われている「共にいること」の意味の深さ,思いやりのある態度の示し方など,実践への具体的な対応が示されている。現在ホスピスケアで悩んでいる方には,大いに参考になると思う。

 スピリチュアルアセスメントについては,ガイドラインやその方略が示されており,看護師が苦手としているアセスメントを看護モデルを使いながら解説を深めている。患者には大変デリケートな問題であることを理解して,ナースとクライエント間のラポールと信頼関係が確立してからアプローチをするなど,細かな面の配慮が具体的に提案されている。アセスメントの結果による診断では,NANDAインターナショナルが開発した診断名や診断指標,そして看護介入まで含めてあるので,実践する際に心強い助けとなる。

 患者と直接かかわりを持つなかで,患者から「人生に対しての意味付け」について質問を受けることがよくあるが,これは,看護師がいちばん頭を悩ませることの1つでもある。そのような人生の意味などを問われると,看護師は患者に接することを最小限に抑えようとして,患者の部屋から遠のいてしまうということをよく耳にするが,そのような...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook