麻生飯塚病院の実践に学ぶ漢方ナーシング
対談・座談会
2009.03.23
麻生飯塚病院の実践に学ぶ
漢方ナーシング
新旧の漢方診療科スタッフ。後列左端から三潴忠道医師,田原英一医師,大本倫子皮膚科外来主任,松岡京子内科外来主任,宇都千春氏,蠣屋美紀恵氏,(前列右端より)石原夕希子氏,井原資子2A病棟主任,小池理保漢方診療科外来主任,中島明美2A病棟師長,須藤久美子看護部長 |
2001年,医学教育モデルコアカリキュラムの中に「和漢薬について概説できる」という項目が盛り込まれ,全国の医学部において漢方医学に関する教育が開始されている。漢方特有の一人ひとりに合わせた全人的治療への患者の期待,要望も高まる。現在,全国のほとんどの大学病院に,漢方外来が開設されており,漢方に対する知識を看護師も深める必要がある。
麻生飯塚病院では,「病棟を持つ漢方医」を理念に掲げ,1992年に漢方診療科を開設,外来では月に延べ2200名,入院でも年間150名もの患者に治療を行っている。すべての患者に詳細な診察を行い,個別に煎じ薬を処方し,病棟では1日2回の和漢食(玄米菜食)が提供されるなど,漢方特有の医療を実践している。
この漢方外来・病棟で,ナースはどのように「診療の補助」「療養上の世話」を展開しているのだろうか。同院では多くのナースが漢方に携わってきたが,混合病棟で,西洋・漢方両方の患者ケアを並行して行うナースには今でも戸惑いが少なくないという。1100床を擁する筑豊エリアの拠点病院で,西洋医学と連携しながら多彩な漢方診療を行う専門医と,診療を支えてきたナースたちに,これまでの実践について,課題も含めて座談会形式で語っていただいた。
三潴医師 私は医学部の学生時代に漢方医学と出合いました。当時の漢方は,臨床検査による裏づけはあまりなされておらず,蘭学以来のわが国における西洋医学中心の医療の中でほとんど評価がなされていませんでした。また,本格的な漢方診療を受けられる施設はほとんど開業クリニックでの自費による外来診療に限られ,重症患者や経済的に余裕のない方は漢方の恩恵に浴することができませんでした。
漢方が本来持つ治療効果を発揮し,有効性を立証するためには,総合病院における保険診療の枠組みで,西洋医学とも連携しながら,漢方エキス製剤だけでなく生薬も使って,外来・入院で患者さんを診ていく必要がある。そういう医療をやりたいという夢を医学生のころに抱きました。
卒後,富山医科薬科大学で国立大学初の試みであった,漢方クリニックの立ち上げを経験しました。その後,西洋医学による最先端の現代医学を行いながら,さらに患者さんの満足度を高める医療を追求するなかで,漢方診療科をつくろうという計画が飯塚病院で立ち上がり,縁あって私が赴任し17年が経ちました。
医療は一人ではできません。チーム医療が基本ですから,日ごろ患者さんを診るときのパートナーであるナースをはじめ薬剤師さん,栄養士さんなどと協力しながら今日に至りました。今日はこれまでの経験を皆さんと振り返りながら,今後,全国の病院で漢方外来の立ち上げが続々と予想されるなかで,必要とされていくであろう看護の立場からみた漢方診療,つまり“漢方ナーシング”という視点について考えてみたいと思います。
中島 今,三潴先生の話を聞いていて,発足当時のことを思い出してきました。当初,私は漢方というのは古い,お年寄り向けの薬だという間違った先入観を持っていました(笑)。実際に赴任されたばかりの三潴先生に会ってみると,若々しくさわやか,そしてフレンドリーで「漢方とイメージが合わない」と感じたことを思い出します。
17年間,外来や病棟でたくさんのナースが漢方にかかわってきて,先生のお力はもちろんですが,スタッフの頑張りがあって,今回,座談会が開けるまでになったことが,非常にうれしいです。医療従事者の中にも,漢方を正しく理解していない方がまだまだ多いと思います。
松岡 私は立ち上げスタッフとして漢方診療科にかかわりました。放射線外来に勤務していたのですが,突然,「漢方に行って」と言われたときに,何も知識のない状態でしたから,看護師は何をするんだろうって戸惑いました。西洋医学から離れて,取り残されてしまうのかなという不安もありました。
実際に漢方にかかわってみると,検査もしますし,よい意味でイメージを覆されることの連続でした。物品の調達も経験したのですが,先生が診察してエキス剤を「はい,どうぞ」と出すだけなのかと思いこんでいたので,生薬を煎じるために電気コンロと土瓶が必要だという話を聞いて驚きました。
漢方診療科は“総合診療科”
小池 それから,漢方診療科は総合診療科なんですね。下は0歳から上は90代まであらゆる疾患の患者さんを診ているので,ナースもさまざまな疾患の知識を身につけている必要があります。そして,いろいろな病院にかかって,最終的に当科にたどりついた難病の患者さんも少なくありませんから,外来ナースにも,メンタル面のフォローが求められます。以前,私は精神科病棟を経験しているのですが,その経験は漢方外来でも役立っています。
大本 初診の患者さんは100項目にもわたる問診票に答え,それを参考にしながら先生が,症状や精神状態を丁寧に聞かれます。また漢方には独自の診察方法があり,腹診-お腹の診察,舌診-舌も診る,それから脈診なども行って,全身状態を把握した上で,漢方薬の処方をはじめとする治療が開始されるわけです。
そのときに患者さん自身が,漢方診療になじみが薄い場合も少なくなく,例えば顔面の湿疹を主訴で受診された場合,お腹の診察をされるとは想像していないわけです。なのに,いきなりお腹の診察があると,びっくりされるんですね。ですから,外来ナースは診察前にオリエンテーションをして,こういった診察がありますよ,と十分な説明を行います。患者さんが安心して診察が受けられるように,このオリエンテーションは非常に大事なものです。またオリエンテーションで患者さんについて気づいた点があれば,医師に報告して情報を共有しています。
小池 先生方はナースの体質や日々の体調もよく見ておられますね。初めて三潴先生にお会いしたときに,私の顔を見るなり「甘い物が好きだね」と言われて,なぜわかったんだろうとびっくりしました(笑)。患者さんの診察に立ち合っていても,先生が腹診をしながら「ここ,痛いでしょう」と言うと,患者さんも「はい」っておっしゃるんですよね。他の診療科ではこのような詳細な診察は見たことがありませんでした。漢方ならではですよね。
石原 先生方はとても丁寧に腹診を行い,アセスメントをされています。診察に立ち合うなかで,私自身,病棟で患者さんのお腹を触っても,張っているかどうかぐらいしか見ていなかったことに気づかされました。自分が診断するわけではないのですが,問診と診察で患者さんからさまざまな情報が取れることを学ばせていただきました。
↑脳外科,神経内科,リハビリ科と漢方診療科による脳卒中急性期患者の合同回診。ハイケアユニットのナースも交え,三次救急を担う麻生飯塚病院ならではの光景。 |
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