医学界新聞

2009.03.02

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


IIcがわかる80例
早期胃癌診断のエッセンス

中野 浩 著

《評 者》多田 正大(多田消化器クリニック院長

消化管画像診断学の原点に戻る名著

消化管画像診断の王道
 消化管画像診断学を極めるための近道はない。多くの典型症例を経験・見聞して,頭の中のフィルムライブラリーに記憶しておくことからスタートしなければならない。一朝一夕に完成するものではなく,多くの時間と労力を要する。その上で見せられた画像が自分の経験例とどこが違うのか,どの点に類似点があるのかを考え,診断過程をたどる応用力を養うことが大切である。遠回りしてでもコツコツ,地道に症例を集積して,自らの診断力を磨くことがすべてである。その意味では『胃と腸』誌の「今月の症例」コーナーを熟読することで,素晴らしい画像診断学を身につけることができる。これは提示されるX線・内視鏡写真が卓越した水準にあるからであり,『胃と腸』誌が読者から支持されているゆえんもここにあると思う。

 胃癌の診断においても多くの症例を経験することが画像診断のスタートである。なかでもIIc型早期胃癌の画像を理解することは診断学の基本であり,そこから病変範囲や深達度診断の読影,類似病変との鑑別などに役立てることができる。X線像と内視鏡所見,マクロと組織像を丹念に対比することから胃癌診断学が展開される。地道で苦労が多い作業であるが,これが王道であると私は信じている。

中野診断学の完成
 私が尊敬する中野浩先生は頑なに消化器診断学の王道を追究した学士の一人である。早期胃癌研究会や『胃と腸』編集委員会の場で,中野先生の診断学に対する情熱,篤い精神を拝聴する機会はしばしばあった。中野先生は胃癌診断だけでなく,食道,小腸,大腸,胆膵などのあらゆる臓器,そして腫瘍だけでなく炎症性疾患の画像診断にも長けており,妥協せずに持論の診断学を展開する態度に私たちは感服させられていた。消化管診断学も拡大内視鏡診断,超音波内視鏡,NBI診断など高い水準の読影力が要求される時代になっている。その結果として「大腸は専門分野であるが,胃癌の診断はできない」という困った専門医が増えていることも事実である。これでは学者としては尊敬されても,実際に患者を診療する臨床医としては失格である。このような状況にあっても,中野先生は恩師である中澤三郎先生,熊倉賢二先生,白壁彦夫先生,八尾恒良先生などの先達から学んだ胃診断学をひろげて,いわゆる比較診断学を展開してあらゆる臓器の画像診断に挑んだ素晴らしい精神の持ち主である。消化器病医のあるべき姿,王道を歩んできた数少ない学徒である。

 その中野先生が『IIcがわかる80例』を上梓された。見事なIIc型早期胃癌の画像が列挙されており,きれいな写真を見るだけで圧倒される。近来まれにみる編集方針であり,拡大内視鏡も超音波内視鏡画像もなく,旧来のX線と通常内視鏡写真でIIcの本質に迫ろうとする志の高い内容である。まわりくどい文章は極力少なくして,きれいなX線・内視鏡画像でIIc型早期胃癌や類縁疾患の典型例を提示し,切除標本と病理組織像を対比させて画像診断のエッセンスを問う書籍である。まさに『胃と腸』誌創刊時の伝統とする編集方針を地でゆく構成であり,難解な文章が少ない分,肩が凝らずにIIcを理解することができる。

 特に提示されたX線画像は秀逸である。内視鏡偏向の今の時代にあって,本書に提示されたような質の高いX線像を撮影できる医師や放射線技師が少なくなっているだけに,X線から切除標本まで揃った貴重な80症例を集積した努力に対して頭が下がる。X線写真の焼付けを担当したフォトセンター・田島武志氏の尽力なくして,これだけ素晴らしい画像診断学の書籍の発刊はできなかったであろうが,このあたりの経緯は本書の長い序文に如実に記されている。中野先生の研究歴,人脈が余すところなく記述されており,本書の出版に賭ける篤い思いがうかがえる。

 本書は胃癌診断学を極めようとする初心者からベテラン医まで,さらに放射線技師にとっても,画像診断学の原点に回帰する貴重なバイブルである。おそらくここ当分の間,この書籍の画像,内容を超える名著は出現しないのではないかとも考える。傑出した内容であるからこそ,一人でも多くの消化器病医,放射線技師に愛読され,提示された典型例の画像を記憶してほしい。そこから消化管画像診断学の王道が始まると期待する。

B5・頁212 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00642-2


新 ことばの科学入門
第2版

廣瀬 肇 訳

《評 者》澤島 政行(横浜船員保険病院名誉院長

音声言語病理学を学ぶ人のために

 本書は,2005年に出版された同名の初版本の第2版である。その原本(英語)は,1980年に出版され,1984年にその第2版が今回と同じ訳者で出版されている。通算では本書は第5版となる。本書は,米国の大学学部生を対象に書かれた音声科学の入門書である。著者は米国ハスキンス研究所の研究員で,訳者および評者とは知り合いの仲である。2005年の改訂で従来の著者に加えて,若手のL. J. Raphaelが加わり,内容の整理,補足がなされている。

 今回の第2版は,基本的な内容に変更はないが,章立てにかなりの工夫をこらし,学生に理解しやすく,興味を持たせるような配慮が行われている。本書の構成は,第I部序論(イントロダクション),第II部音響学,第III部音声生成,第IV部音声知覚,第V部音声研究機器となり,それぞれの中で,比較的細かい章立ての下に内容が記述され,全体で13章となっている。全体で7章立ての初版と目次を比べてみると,内容的には大差はないが,第2版のほうが章立てがすっきりして,各章の中身が明瞭でわかりやすくなっている。

 各章に「臨床ノート」が挿入されているが,これは,音声科学と音声言語病理学の接点を示そうという著者たちの意欲を表すものであろう。著者の序文によれば,本書の対象として想定されているのは,主に音声言語病理学を勉ぶ学生である。また,初版から置かれた補章「耳で聞く音のサンプル」も,より完成されたものとなり,医学書院のホームページにアクセスして聴取できるようになっている。

 本書の著者たちは,ハスキンス研究所の,音声生成および知覚研究の中心的スタッフである。同時に大学教官として学生や大学院生の教育指導にも優れた実績を持っている。本書が,1980年の初版以来今回まで,着々と改訂,出版を続けていることは,著者たちの並々ならぬ熱意と多くの読者からの高い評価と信頼を示すものである。わが国においても,言語聴覚士の資格制度制定以来,養成校・学生も増加,それを対象にした図書,教科書なども,数多く出版されるようになった。本書も,その中の優れた入門書として,学生および教官に有用な図書である。

 訳者の廣瀬博士は,1970年から3年間ハスキンス研究所で,著者たちと一緒に研究生活を送っている。したがって本書の日本語訳に際しては,訳者というより,共著者に近い立場で内容を検討されたことと思う。廣瀬博士は,日本における音声言語医学,および言語聴覚士教育の第一人者としてよく知られている。博士はまた,翻訳者としても厳しい見識の持ち主である。原本の内容の正確な理解とともに,的確な日本語の表現と記述が必要である。博士の訳による本書は,その意味でも読者にとって,良い教科書となるであろう。

B5・頁328 定価6,510円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00715-3

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