医学界新聞

2009.02.09

病歴から診断に至るための方法

ローレンス・ティアニー氏による金沢大学でのカンファレンス


 カリフォルニア大サンフランシスコ校教授であり,診断学の大家であるローレンス・ティアニー氏によるカンファレンスが2008年11月7日,金沢大学病院において行われた。本カンファレンスは,同大教員でありティアニー氏と親交の深い松村正巳氏主催により,2002年に開始。今回で6年目を迎える。カンファレンスには,全国から医学生・研修医合わせて40名ほどが参加し,立ち見も出るほどの賑わいだった。また,ティアニー氏とは16年来の親交があり,松村氏にティアニー氏を紹介した青木眞氏(サクラ精機)も出席し,参加者やティアニー・松村両氏と軽妙なやりとりが行われた。

 カンファレンスは医学生・研修医が提示するケースについて,ティアニー氏がコメントしながら診断を確定するという流れで行われた。ティアニー氏は,主訴や病歴の中からすばやく診断の鍵となる情報を見つけていく。それに関して,主訴の中で鑑別を行うカギとなるような情報とそうでないものを見分けることが必要と指摘。例えば「めまい」などは後者にあたり,それだけでは除外のための有効な情報とはなりえない。主訴の中にはこれらが混在しており,すべてを等価に扱うと診断の糸口がつかめないと述べた。

 また,「Caseプレゼンテーションを行うとき“自分は何に注目しているか”を考えながら,それを明確にすることが重要」と述べ,発表者に対しても「いいね,これは自分の中で鑑別診断が挙がっていないとできない質問だね」などとフィードバックを行った。さらに,「患者さんは主訴をたくさん言うが,その中でどれが本当に患者さんを病院に来させた理由なのかをはっきりさせることが重要」など,氏の経験に裏打ちされたさまざまなアドバイスがされた。ユーモアあふれる講義に,参加した医学生や研修医らは時折笑い声をあげつつ熱心に聞き入っていた。

医学の楽しさを教えてくれたティアニー先生

ティアニー先生の教育セッションに参加して

柴田綾子(群馬大学医学科5年)


 「君たちは僕のような人間かい?」“Are you like me?” 症例が難しくなってきたときのティアニー先生の決まり文句だ。「これだから医学って本当に面白いよね!」“Isn't that the Medicine interesting?”

 医学がこんなに楽しいものだと生まれて初めて知った。今までは,レベルが高いほど医学は難解になり,大量な知識の理解に努め,覚えるしかないと思っていた。米国の高名な教授と聞き,どんなに気難しくて厳格な人かと緊張していた私は,(失礼なのを許していただき正直に言えば)野球着かアロハシャツでも着ていそうな,あるいは街角のバーにでもいそうな「陽気なおじいさん」がティアニー先生であることを見抜けなかった。初めてのティアニー先生の講義は“衝撃”であった。最高に明るく,楽しく,学びと含蓄に富んだ講義。

 診断学の思考過程に忠実に,もれなく鑑別疾患を挙げ,疾患の基礎にある病態生理や仕組みを基礎科学にまで戻って解説し,病歴や身体所見では「医師としての哲学」を説く。次々と出てくる豊富な経験に基づいた金言,パール“pearls”,コメディアン並みのハイテンションで愉快な講義は,思考過程の基本を忠実に守ること,基礎科学をしっかり学ぶこと,患者の言葉・体から何を学ぶのか,そして経験を積むことの重要性を教えてくれた。

 EBM志向を勘違いし,データと知識が経験に勝るような錯覚を覚えていた私は大いに反省した。「病歴,病歴,病歴,患者さんの言葉と体がすべてを語る! とにかく診て,聴くこと!“History! History! History!”」大リーガーが子供に夢を与えるように,ティアニー先生は私に「医師の仕事の素晴らしさ」を教えてくれた。何よりも「医学は楽しい」ことを教えてくれた。「医師は,自分の仲間たる人間に手助けができる素晴らしい職業の1つなんだよ。僕たちはそのことに毎日感謝しないとね!」“A doctor is one of the most wonderful occupations as we could help our brotherhood human being. We must be thankful for that everyday.”

 ティアニー先生のような素晴らしい先生を日本語の本で紹介してくださり,私のような学生に巡り会うチャンスをつくってくださった松村正巳先生に心から感謝します。

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