ウガンダでの5Sを用いた病院環境改善の試み(水谷真由美)
寄稿
2009.01.26
【投稿】
ウガンダでの5Sを用いた病院環境改善の試み
水谷 真由美(青年海外協力隊)
ヨガ!(現地語の1つ,ジャパドラ語でこんにちはの意)私は,2007年1月より青年海外協力隊の保健師としてウガンダで活動しています。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)とは職場環境改善,業務改善の手法であり,日本では医療事故防止および病院経営改善を目的に5S活動を展開している病院があります。ウガンダでも私の配属先で初めて試験的に5Sを用いた病院環境改善に取り組み始めたため,ご紹介させていただきます。
有限資源で挑む医療の質向上――そこで,5S
私の配属先であるトロロ病院は,ウガンダ東部,ケニア国境に接するトロロ県で最大の公立県病院で,2次医療を担っています。外来棟,入院病棟,手術棟があり,病床数は計214床です。職員数は医師4名,看護師94名(そのうち正看護師19名)を含む計114名で,充足率は62%(全国平均38%)です。主要疾患は,マラリア,呼吸器感染症,下痢症,寄生虫症,HIV/AIDSと結核,栄養失調,外傷,妊娠出産関連,眼疾患,皮膚疾患です。
アフリカの病院では慢性的な資源(人材,資金)不足にあり,限られた資源の中で医療の質をいかに向上させるかという課題があります。アジアも同様の問題を抱えるなか,スリランカでは5S-CQI(改善)-TQM(総合的品質管理)等の日本の経営手法を医療現場へ導入した取り組みがなされ,医療サービスの質改善の成果を現し始めました。そこで同手法をアフリカの医療の質改善にも役立てるべく,同年3月,JICA(Japan International Cooperation Agency)はアフリカ8か国の8病院を対象に,「きれいな病院」事業を開始しました。同事業の目的は,医療の質向上の第一歩として5Sを用いた病院環境改善です。
保健省とJICAの協力で士気向上
2007年3月に保健省の医師および当院の事務長が日本へ,さらに7月に当院職員3名がスリランカに派遣され,同事業開始と進行のための研修を受けました。その後,同年8月から翌年8月までが実施期間となりました。
ウガンダの人はよく「モティモティ」(現地語でゆっくりの意)と言い,日常生活にせよ仕事にせよ,日本とは異なり物事が本当に緩徐に進みます。例外なく5S活動も当初はモティモティな進行状況でしたが,状況が一転して士気が向上したきっかけは,保健省とJICAの協力が得られたことだと思います。2008年5月ごろより,保健省またはJICAから,月2回程度,院内の視察と指導を受けています。病院職員は,外部からの視察の度に成果を示すことができるようにと,5S活動に積極的に取り組み始めました。
そこでまず院内環境で改善すべき事項の調査を始め,次に院内会議で決定した最優先事項(感染対策およびその他)に予算を配分し,同事項を重点的に活動しています。下の表が5S活動導入前後の変化を示した一部です。
表 院内環境における問題点と5S活動による対策・効果 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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モティモティでも一歩一歩前へ
当院で5S活動を開始後,実質4か月が経過しました。活動上の困難は,前述のウガンダ人のモティモティなペースです。彼らが約束の時間を守らないことは日常茶飯事であり,私は,日本の病院で1分1秒を争って仕事をしていたころを思い出すと,その時間感覚の違いに苛立ちを覚えていました。
ただ,仕事や時間に追われ,精神的に追い詰められる日本人の報道を見るたび,どちらがよいとは言えないと思うようになりました。今の私は,ゆっくりでも前進できればよいと考えて,人々と共に働いています。
活動上でのキーポイントは,2点あります。1点は前述の保健省とJICAの支援です。もう1点は職員の5Sに対する理解と協力が得られたことです。ウガンダ人と生活していると,保守的な考え方の人が多いように感じます。そこで5S活動も人々に受け入れられるかどうか不安でしたが,現在のところ病院長をはじめ職員は,協力的かつ積極的に活動に取り組んでいます。私が各病棟を訪問すると,「前に比べて整然としたでしょ」とか「患者も喜んでいるし,私たちも幸せよ」といった職員の声が聞かれます。5Sは改善の様子が目に見えやすいため,職員に受け入れられやすいのではないかと感じます。また,私も職員の理解と協力を得るべく,病院管理者と頻繁に意見を交換し合ったり,研修参加者である看護部長と協力して講習会を開いたり,職員と一緒に整理整頓を行うなど,日々継続して協働するように努めています。
知識を感染対策につなげるための資源整備へ
さて,同活動の最終目標は「医療の質向上」ですが,私の願いは,まず「病院職員にとって働きやすい職場」の構築です。というのは,ウガンダの病院では資源(資金)が不足しているために,知識はあっても感染対策が実行できないことがあります。
例えば,看護師が使い捨ての手袋を使用せずに患者に注射を実施したり,清掃者が使い捨ての薄い手袋1枚のみを着用して血液汚染した物品を洗浄しているのを見かけます。私としては,患者の前に職員が感染症に罹患しないかと常に心配してしまいます。そこでまずは,現場の人々が安全・安心に働くことができる職場環境を整備するべく,今後も活動を継続したいと考えています。
水谷真由美氏 2004年聖路加看護大看護学部卒。滋賀医大病院脳神経外科病棟にて看護師として2年半勤務。1992年,ソロモン諸島で青年海外協力隊保健師として活動していた知人を訪ね,影響を受ける。2007年1月より青年海外協力隊保健師としてウガンダへ。現在,病院環境改善に最も力を入れて取り組んでいる。 |
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