MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2009.01.19
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


矢谷 令子 シリーズ監修
小林 夏子 編
《評 者》楜澤 直美(川崎市精神保健福祉センター)
学生や若手作業療法士の力強い味方
作業療法の歴史は,古代ギリシャのヒポクラテス時代からと実に長い。さまざまな変遷を経て現在の日本では4万人強という作業療法士の有資格者が存在する。作業療法士は,その学問体系から,治療対象者についての生物的側面,心理的側面,環境を含む社会的側面をトータルに見立て,日々の生活の営みや生きる力へ付与することのできる職種である。しかしながら,現在,その持てるべき力を医療保健福祉分野で遺憾なく発揮できているかといえば,後続の他職種にもまれ,その輝きがやや薄くなっているようにも感じられる。
そのような現状のなかで,これから学ぶ諸氏へのメッセージとなる新しい教科書の誕生には,その労に対して深く敬意を表したい。本書は,作業療法の基礎理論から,事例に基づく実践までがコンパクトにわかりやすく記述されて,精神科分野の作業療法学を学ぶ諸氏への編者側の熱い期待が感じられる。作業療法士の活躍が今後期待される地域生活支援における具体的な取り組みについての記述は若干物足りないきらいはあるものの,学生はもちろん,臨床現場に出て間もない作業療法士の方々にとっても,力強い味方となる実践的内容である。
学習者の理解促進のための工夫が各所にちりばめられているが,そのいくつかをご紹介したい。まず,本書が作業療法学の学問体系の中でどう位置付けられているかの「学習マップ」や自己学習を促進するための「修得チェックリスト」,各章の「キーワード」の存在が目を引く。これらは,学習し始めの諸氏にとっては指標の提示となるであろうし,「受け身ではない学びの姿勢」への編者の思いが伝わってくる。また,作業療法士が臨床現場で出会う主な疾患・障害理解についても,「作業療法士としてどうかかわるか」の目線が明確に記述されており,基本的な学習が促進される構成となっている。しかし,それだけではない。内容で特筆に価するのは,第2章の「Ⅱ 実践方法と作業療法過程:信頼関係の形成と共同」の項の存在である。この項には,対象者との向き合い方,チーム医療に関する視点,記録への配慮がわかりやすく記述されている。これらは,臨床家として現場仕事を行っていく上で,基本的な事柄ではあるが,ぜひ押さえておきたい内容である。前述のごとく工夫された構成であるので,臨床現場に携わる者にとっては,必要な個所のみを拾い読みしても知識を得ることが可能である。
何をやるにも基礎固めは重要だ。机上での学習を現場で実践し,理論を深めてより確実な学問として,自分の中に構築していく,その基礎固めとして本書の活用が若手作業療法士の成長の一助と...
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