医学界新聞

寄稿

2009.01.19

視点
わが国の在宅医療とフランスからの示唆

真野俊樹(多摩大学統合リスクマネジメント研究所教授・医療経済学)


 フランスと日本の医療制度には,極めて多くの共通点がある。医師は自由開業制であり,患者は受診におけるフリーアクセス権を持つ。また,国民皆保険のもと豊富な種類の保険があり,保険会社・医療・被保険者は良好な関係がみられる。このような共通点を持つことから,厚生労働省が範とすることもあるフランスでの在宅医療を眺めてみよう。

 フランスにおける在宅医療の柱はHAD(在宅医療協会)による,高度な在宅医療である。HADのオフィスは病院内に置かれることもある。HAD,“Hospitalisation a Domicile”とはフランス語で「自宅での入院」すなわち在宅入院の意味である。この在宅入院はさまざまな疾患を持つ急性期の患者を,HADの医師等がコーディネートして多職種による最善の医療を受けさせるというもので,入院に数えられている。

 すなわち,フランスでは,在宅入院という概念があるのである。入院で行うことを在宅で行うという概念である。代表的なものは抗がん剤による化学療法である。対象にはその他手術後の管理,リスクの高い妊娠,点滴などがある。その昔,結核患者対応から始まったという在宅入院は,パリでは年に約8000人の患者がおり,ベッド数で換算すると800床になる。2009年にはベッド数換算で1200床にするという目標がある。在宅入院には,退院の日がある。パリでは,入院の平均在院日数は7.3日だが,在宅入院では13.4日である。

 フランスでも在宅死の数はあまり多...

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