医学界新聞

2008.12.22

医療事故後,患者・家族,医療者の癒しをどう支援していくか

――新葛飾病院院内研修会より


 新葛飾病院(東京都葛飾区)では,医療事故被害者家族を医療安全管理室の職員に迎え,院内ADR(裁判外紛争処理)等の医療者-患者・家族間の対話を重視した取り組みを行っている。また,数か月に1回院内ADR研修会を開催し,他施設の医療者や医療事故被害者等も受け入れ,共に学ぶ場を設けている。同院では11月25日,イリノイ大学および同大病院で患者安全・リスクマネジメントに関するプログラムを統括するTimothy B. McDonald氏による研修会が開催された。テーマは「イリノイ大学の医療安全の取り組みと医療事故後の患者・家族と医療者の双方における癒しとは」。

 McDonald氏らは,2006年に全組織的な患者安全・情報完全開示プログラムを開始した。本プログラムの大きな特徴は,医療者が“正直に話す”ことを全面的に支援するシステムが整備されている点である。氏は,医療者は専門職であるからこそ,自らが招いた医療事故を正直に話すには非常に勇気が要ると述べ,当事者支援の重要性を説いた。同院では,医療事故を起こした職員がすべて同じプロセスをたどるための支援システムを構築したほか,心理面のサポートを目的に24時間対応のカウンセラーを配しているという。さらに,院内で起きた事故やミスの責任はすべて,統括者の自分にあると言及。意図的もしくは無謀な行為によって起きた事故のみ,再発防止の訓練を課していると説明した。

 患者・家族対応については,迅速な対応が重要だと強調。同院では,事故発覚直後に24時間対応の職員を配置し,RCA(根本原因分析)による調査結果と再発防止のためのシステムの提示,賠償対応を可能な限り迅速に行っている。

 医学生や研修医への教育も重要だ。学生は,有害事象が起きた際の患者・家族への情報開示の仕方を学ぶ。実際の患者もしくはモデル患者に間違いを伝える経験を卒業要件に義務づけるほどの徹底ぶりだ。また,研修医にも周囲で起きたヒヤリハットを10例報告させるなど,事故を報告する素地を育んでいる。

 会場からの「成功の鍵は」との質問に対しては,「トップマネジメント」と即答。大学・病院のトップが理解を示し,後押ししたことで,体制の整備が一気に進んだ。それでもなお組織文化の変革には非常に時間がかかったという。現在も,病院全体に浸透させるための研修会等を定期的に開催している。医療職者自身を守るためにも,この取り組みから学ぶものは大きい。

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