韓国は看護の問題にどう取り組んでいるか(角田由佳)
寄稿
2008.12.15
【寄稿】
韓国は看護の問題にどう取り組んでいるか
角田由佳(韓国漢陽大学校国際学大学院招聘講師)
看護師不足と多数の潜在看護師
看護師不足の問題は,隣の韓国でも深刻だ。2007年10月末現在,総人口約5009万人に対して高齢化率9.8%の韓国では,今後日本以上に急速な高齢化の進行が予測され,医療・介護保障制度の整備が重要課題になっているが,大韓病院協会の調査では,病院の85%が看護師の不足を訴えている。2007年現在,韓国における病院数は,総合病院302,病院945,療養病院593,そして歯科病院や漢方病院を含む他の病院が400で,合計2240である。
一方,大韓看護協会の看護政策研究所が発表した「分野別就業看護師及び潜在看護師現況調査」によると,2006年末現在,韓国における看護師数は22万5385人であり,その3割以上,7万5362人が就業していない状況にある。韓国では,看護に携わる職員が看護師と看護補助者のみで,日本でいう准看護師は存在しない。そのため,上記病院の病床100床当たり看護職員数(韓国の場合には看護師のみ)は42.6人と計算され,日本の66.8人よりも少なくなっている(日本は「OECD Health Data 2008」の2006年数値)。
就業していない潜在看護師のうち1400人にその理由を尋ねたところ,75%が結婚や出産・育児を主な理由として35歳以下で退職し,68%は再就職を希望しているが,32%は育児,不規則な勤務時間帯,過重な業務,そして低賃金等を理由に再就職できないと答えている。
看護師不足への政策対応
看護師不足の問題を受けて,日本の厚生労働省にあたる韓国保健福祉家族部(旧保健福祉部)は,看護師の養成者数を増やすために,養成機関である大学の看護学科を新規に開設したり,定員を増やしたりしている。看護師の養成規模を拡大する政策に対し,韓国の学識者の間では,「看護師不足の解消だけでなく雇用創出を通じた失業の解消にもつながる」といった意見がある一方,「劣悪な雇用環境の現状と看護師の大病院志向のもとでは効果はない。むしろ就業中の看護師の環境をより悪化させるものだ」という意見も出ている。潜在看護師に対する再教育プログラムの活性化も提案されているが,中には,中国など外国人看護師の採用検討に言及する者もいる。
診療報酬点数の改定も,看護師不足を改善する対策のひとつとしてとらえられている。韓国では日本と同様に,医療サービスを提供する保険医療機関に対し,いわゆる出来高払い方式と包括払い方式に基づいて,診療報酬が支払われる仕組みが形成されているが,夜間勤務のできる看護師を確保するべく「夜間看護管理料」の新設や,「入院料」等の診療報酬点数引き上げが議論に上っている。
大韓看護協会の動きと看護教育制度の一元化
養成規模の拡大の対象は4年制大学だ。その背景には,1979年「第1次長期事業計画」における「看護教育一元化」に始まった,大韓看護協会による政府への粘り強い交渉が存在する。
韓国で看護師免許を取得するには高等学校卒業後,主として病院に付属する3年制の教育機関を修了し,国家試験を受験する(diploma nursing program)コースと,4年制大学の学士学位課程を経て国家試験を受験する(bachelor of science in nursing)コースの大きく2つがある。3年制の教育機関...
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