精神科医が見た救急の現場から(山田朋樹)
寄稿
2008.12.01
【寄稿】
精神科医が見た救急の現場から
――自殺を防ぐために
山田朋樹(横浜市立大学附属市民総合医療センター 高度救命救急センター・総合診療科)
自殺未遂者と医療者
臨床医学に従事する医療者であれば,特殊なケースを除けば,自傷行為や自殺企図を行う患者に生涯一度は遭遇すると思います。筆者の勤務する救命センターは,三次救急の最重症患者を中心に受け入れる施設ですが,実は全入院患者のうち自傷や自殺に何らかの形で関連している患者が,なんと20%近くに及びます。これが,一次,二次救急施設であれば,その割合はもっと高くなるかもしれません。それくらい,医療者にとって自殺未遂者は身近な存在なのです。
死を希求する患者に対する不安とよくない反応
一般的に,「死」は多くの医療者にとって敗北を意味することが多いようですが,「自ら死に向かう」存在である自殺未遂者は,医療者が内包する潜在的な不安感をあおりたてます。すると,湧き上がる不安感を打ち消そうと医療者は無意識にさまざまな解消方法をとります。それが,医療者・患者双方にとって有益なものならよいのですがたいていはそうではありません。救急の現場では,医療者が自殺未遂者に対して怒りをぶつけている場面によく遭遇します。「死にたいなら,何で救急車なんか呼ぶのか!」などとつい患者に言ってしまいます。これは,「ガッデム・シンドローム」などと呼ばれ,医療者がとる好ましくない不安解消法で,慎むべき行為です。
対応のポイント
それでは,どのようにすればよいのか? 短い紙面では書ききれませんが,一つだけ挙げるとすれば医療者は自殺企図という行為そのものだけではなく,そこに至った理由と過程に思いをめぐらせ,自殺未遂者の声にまず耳を傾けることが大切です。説得したり自分の価値観を押しつけぬよう,まずは傾聴に専念すべきです。
教育の必要性
以上のようなことは,医学部のカリキュラムではまったく教えられてこなかったと思います。わが国で自殺が社会問題化している現状や,医療者として避けては通れない自殺未遂者の対応について指針がないことは非常に憂慮すべき現状です。教習なしに車を運転するようなものなのですから。今後,医学生,医療者を対象とした自殺予防対策に関する教育の場が一層充実することを望んでいます。
山田朋樹氏 1993年横市大医学部卒後,同大附属病院,鷹岡病院を経て,2000年横市大附属市民総合医療センター(精神医療センター)。05年より同センター・高度救命救急センター(本年より総合診療科を兼任)。専門分野は自殺予防学,緩和医療を含むコンサルテーション・リエゾン精神医学,臨床精神薬理学,老年精神医学。 |
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