医学界新聞

2008.09.22

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


がん医療における
コミュニケーション・スキル DVD付
悪い知らせをどう伝えるか

内富 庸介,藤森 麻衣子 編

《評 者》宇都宮 宏子(京大病院地域ネットワーク医療部)

「バッド・ニュース」を次の「希望」へとつなげるために

 京大病院に「退院調整看護師」として着任し,この7月で7年目に入った。

 病院勤務を経て,在宅で訪問看護・ケアマネジャーを経験し,人は生活の場にいるからこそ,「生きる強さ」「人としての強さ」を発揮できることを実感した。家の力,地域の力,その中で生活者としての力,患者の強さを見て家族もまた力を発揮する。

 24時間体制の安全管理を強く求められる環境から,医療者のいない,家族も常時いない家に帰すとき,「医療提供をマネジメントすること」が当然必要だ。入院医療から在宅医療への移行支援においては,専門的な知識やコミュニケーション・スキルを持つことは当然として,チーム医療内で,患者・家族と,地域事業所との“調整力”も求められる。

 特にがん患者の支援は,依頼される患者数も多く,またほとんどの患者が「治療ができなくなった」「終末期」という,患者にとっては「悪い状態」に直面する時期に私たちは初めて会うことになる。

 私の在宅の経験では,病院に医療提供を望んでくる患者とは違う,「家の主人である利用者」と「“お邪魔します”と訪問する私たち」の関係のなかで,医療・看護を提供するためのコミュニケーション・スキルや,患者の“声なき叫び”に応えるためのスキルが必要であった。その経験を生かして,面談時の注意や配慮,そして何より,患者の感情表現に焦点を当てて共有する聞き方・話し方をこれまで重視してきた。

 そういった経験をしてきたなかで,この本に出会った。「患者が望むコミュニケーション」とはどのようなものか,国立がんセンター東病院での調査結果を踏まえて,「悪い知らせを伝えられる際の患者の意向要素」を,頭文字から“SHARE”として紹介している。

 さらには,米国で「悪い知らせ」を適切に伝えるための段階を踏んだ手順としてまとめられた「SPIKES」の紹介と,わが国での注意点も提示している。病棟の若い看護師やMSWたちに,コミュニケーションのコツを教えることに悩んでいた私にとって,この本は絶好のテキストになった。

 患者にとって悪い知らせを,どのように伝えるか。そこから患者・家族がまた「生きよう」と前を向くための支援が,退院支援だ。最期の瞬間まで,その人らしい時間を,人生を送れるように,残された家族が命を,魂をつなげるような生き方を患者・家族と一緒に考える。このプロセ...

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