医学界新聞

2008.09.15

臨床研究のための統計学ワークショップ開催


 現在提供されている医療の正当性を評価するために欠かせない臨床研究。最近,臨床研究論文数において日本は中国に抜かれたとする調査データが示され,臨床研究力の向上が喫緊の課題となっている。

 このようななか,聖路加国際病院のグループ施設である聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床疫学センターは,臨床研究のさらなる発展を目指し,多忙な臨床家を支える専任スタッフを配置して,国内で実施されるさまざまな研究のサポートを行っている。

 その取り組みの一環として,EBMに基づく研究における基本ツールである統計学に関するセミナーを定期的に企画している。本年はさる8月15-17日の3日間,東京・晴海において「手とり足とり! 臨床研究のための統計学ワークショップ――平均・標準偏差から多変量解析まで」と題して開催された。13回目を迎えた本セミナーは“手とり足とり”の文字どおり,丁寧な指導が好評でリピーターも多い。今回は研修医を含む若手医師や大学院に在籍する看護師などを中心に全国から約50名が参加した。

 開会にあたり主催者を代表して同研究所理事長の日野原重明氏があいさつを行った。このなかで氏はserendipity(思いがけない発見をする能力)という言葉を引用し,「一流の科学者は思いがけない出合いのなかから輝けるものを発見する。臨床のなかにはそうした大切なものが常に隠れている」と述べ,受講者の今後の研究実践に対して期待を表した。

 3日間のプログラムは臨床研究の進め方やExcelを活用した上手なデータの取り扱い方に関する基本的なレクチャーの後,グループワークに入り,統計ソフト「SPSS」「JMP」「R」を用いて,参加者それぞれが持ち寄った研究データを解析する実践的学習を行った。

 最終日にはグループチャンピオン7名によるデータ解析結果のプレゼンテーションが行われ,修了証が福井次矢氏(聖路加国際病院長,聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床疫学センター長)から受講者全員に授与された。福井氏は「貴重な時間をかけて行う研究なので心底取り組みたいと思えるテーマを選定してほしい」と述べるとともに,臨床研究を進める秘訣として定期的かつ頻回にリサーチカンファレンスを開くことを推奨した。

【関連情報】臨床研究に関する倫理指針が改定に

 研究者がより円滑に臨床研究を実施できる環境を整えながら,被験者の尊厳や人権を守る目的で,2003年に制定された「臨床研究に関する倫理指針」は見直しの時期を迎え,厚生科学審議会の専門委員会により検討が進められてきた。このほど,見直し案が了承され来年4月1日より正式に施行される。

 改定にあたっては,臨床研究の倫理性確保のため研究者および研究機関長の責務が厳格に明記され,加えて倫理審査委員会の機能強化が目されている。

 また医薬品・医療機器や手術などの侵襲性を有する介入を行う研究責任者は,あらかじめ一般に登録内容が公開されている日本医師会治験促進センターなどの臨床研究登録データベースに登録しなければならないなど,研究の透明性の担保が求められたほか,被験者に健康被害が生じた場合の補償に関する説明・同意文書の取得や,臨床研究の実施前に研究者が倫理に関する講習などの教育を受けることも求められ,被験者保護にさらに踏み込んだ内容となった。

 指針の強制力に関する論議もなされるなか,臨床研究に携わる医療者には倫理観の自己点検が,今一度求められている。

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