超音波スクリーニングと技師教育の充実を目指して(竹原靖明,桑島章,川地俊明,岩田好隆)
対談・座談会
2008.09.15
【座談会】
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竹原靖明氏(相和会横浜総合健診センター所長/医師)
桑島章氏(PL東京健康管理センター健診部長/医師)=司会 川地俊明氏(大垣市民病院診療検査科主幹/診療放射線技師) 岩田好隆氏(東京女子医科大学東医療センター検査科主任/臨床検査技師) |
超音波検査(ultrasonography:US)は短時間で効率的に,また非侵襲的に臓器の観察が可能なため,健康診断などのスクリーニング検査から人間ドックや企業での集団検診,最近では乳癌検診にも盛んに用いられるようになった。しかし,そのような優れた超音波検査にも大きな問題がある。それは,「検者依存度が高く,担当者の知識や経験により差が生じる」ことであり,技師をはじめとする検者の力量が問われることになる。
本紙では,このたび刊行された『USスクリーニング』の監修・編集者であり,技師教育に熱い情熱を傾けてきた竹原靖明氏と同書編集の桑島章氏,そして技師の立場からは川地俊明氏と岩田好隆氏をお招きして座談会を企画した。
技師教育の現状
桑島 日本における超音波スクリーニングのほとんどは,臨床検査技師と診療放射線技師が担っています。まず,現在の技師教育,特に超音波検査に関する問題点から伺いたいと思います。
竹原 私たちが行ったアンケート調査(註)では,臨床検査技師の卒前教育において超音波検査に関する講義を20時間以上受けた人は全体の15%ぐらいでした。ましてや,実技指導についてはゼロに等しかったわけです。診療放射線技師の卒前教育も同様の状況です。
川地 確かにそうですね。病院などに就職し,超音波検査の担当になって初めて,それも指導者が少ないなかで勉強を始める技師が多いですね。それに勤務施設によって技師の知識や技術に明らかな差があります。個人のモチベーションもあるでしょうが,指導する技師が不足していることが,いちばん大きな問題点だと思います。
岩田 それに指導する技師がいる院内教育でも,走査技能の修得にはかなりの時間がかかります。仲間をモデルにして練習を積んでから,実践段階では先輩・後輩の検査のダブルチェックという形でさらに経験を積ませるのが一般的でしょうか。また,当院でも扱った症例や所見に対するディスカッションは1例ごとのリアルタイムですが,その裏づけの勉強などは仕事が終わってからになるので,時間と人手の余裕がない現状では,両者に大きな労力がかかります。
これが,指導する技師や先輩が少ない施設では,一人前の技師を育てるのはさらに難しいことだと思います。
桑島 「先輩技師がいない環境では,医師が技師を育てなければならない」というご意見を,以前に竹原先生から伺ったことがあります。
竹原 それもかつてはできていたと思いますが,今は無理ですね。内視鏡や造影などの検査に流れて,医師がプローブを握らなくなりましたから。
そう考えると,ゆくゆくは「技師が技師を教育する」時代になるべきではないでしょうか。それが技師教育全体の底上げ,ひいては検査精度の向上につながると思います。指導者となる技師を育てていくことが大変重要だと思っています。
初学者だけではない!他施設実習の重要性
桑島 大規模病院では先輩が後輩技師を教えることはできるとしても,中小規模の病院ではどうでしょうか。
川地 当院には,年間を通じて多数の技師さんが見学や実習にいらっしゃいます。小規模病院から来られた技師さんに聞いてみると,「自分の病院で質問しても,先輩技師も医師も明確に答えてくれない。よく分かっていない」と言うのです。それゆえ,現在は定期的に研修に来ていただくか,メールや電話で質問などを受けるようにしています。
桑島 なるほど。1回きりの研修ではなく,いつも教育を受けられる環境をつくることが大切なのですね。
川地 「あそこへ行けば詳しく教えてもらえる,相談できる」という拠り所があることが大切なのだと思います。
岩田 当院に来られる小規模病院の技師さんも「指導者や先輩がいない」「これから超音波を導入する」といったケースが多いです。守秘義務などの誓約書を書いていただき,ご相談で3-6か月ほどの期間を設定しているのですが,直接患者さんを診ることはなかなか難しくて,見学だけに終わってしまうことがあります。
しかし,「受け入れてもらえる施設がない」ということもしばしば耳にするところで,たとえ直接プローブは持てないにしても,熱意と目的意識を持って来訪される方には,それに応えられる施設でありたいと思っております。
桑島 確かに,他施設を見学する際は自分でプローブを持てないという問題点があって,技術の伝達の上で障害となっていますね。
岩田 学会等で研修施設を認定して,その施設における年間の研修者受け入れ必要数を基準として示すような仕組みができれば,指導者のいない施設の技師も勉強しやすくなるのではないでしょうか。
竹原 日本消化器がん検診学会超音波部会では,関東中央病院を使わせていただいてハンズオンセミナーを行っています。初学者5-6人に対して指導者1人がつき,模擬患者を相手に一人ひとりがプローブを握ります。これはすごく勉強になるので希望者が多いです。
ただし,これはあくまでも初学者対象です。ある程度のレベルに達している人の教育をどうしたらいいか,これは今後の課題ですね。
川地 私たちも研修会で初心者を対象にしたハンズオンセミナーを行っています。ただ受講される方を見ると,1日10件ぐらい超音波検査をやっているような,5-10年の経験者が意外と多いのです。受講の理由を聞くと,「自分の行っている検査方法に不安」とか,「自分が後輩にどう教えたらいいか分からない」というわけです。そういう方は,実技というよりも日ごろの疑問点や指導方法を講師に尋ねる傾向があって,ハンズオンと言いながらも,参加の目的は部下の教え方,そして自分の行っていることが正しいかどうかの検証です。でも,それも大事な教育だと思うのです。
当院での見学・実技研修では,守秘義務などの書類に必ずサインをしてもらうことを前提に,研修生にもなるべくプローブを握ってもらうように努力しています。
一流の技師の条件
桑島 「どうしたら検査に自信が持てるか」というと,検査をこなした数ではなく,確定診断がついた経験の数ではないかと,私はかねがね思っていました。けれども,医師から担当技師へのフィードバックがなければ,自信を持てないのではないでしょうか。
竹原 医師は単に読影をするだけでなく,確定診断を必ず技師に伝える必要があります。そうすれば,技師もそれに基づいて時には反省もするだろうし,自信もついてくる。そういうコミュニケーションを重ねるうちに,お互いの信頼感も出てきます。ところが,そういったフィードバックをする医師が少ないのですね。
岩田 今のお話を伺っていて思ったのですが,検出された所見をもとに次の検査をrecommendするなどの判断ができない技師は,まだ一人前とは言えないですよね。技師としてこの点に関して言えば,臨床の知識が豊富で他の検査にも精通する医師からの指導を受けたいわけです。
『USスクリーニング』には「各種疾患の事後指導基準」という章があります。これは技師にとって非常に参考になると思いました。特に「解説(判定,指導基準の理由)」という項目は便利で実践向きです。
竹原 でもその章はこの本の8ページぐらいしかないから,もっと他のところを褒めてほしい……(笑)。
一同 (笑)
桑島 この本の中では超音波所見の書き方についても触れていますが,これは竹原先生が最初の構想段階からおっしゃっていたことでしたね。
竹原 きちんとしたレポートが書けたら立派な指導者です。医師だって,なかなか書けない人が多いのですから。
桑島 レポートを書くということは,スケッチや病変の解剖学的なマップを描けるということであり,鑑別診断や次の検査のrecommendができるということです。超音波検査士の認定試験(MEMO)においても20症例の抄録が必須となっていますが,受験そのものが勉強になるという印象を持っています。
竹原 いい加減な所見しか書けなくて筆記試験だけできるような人はむしろ落とすべきで,筆記は駄目でも20症例の抄録がきちんと書けている人の方がよほどいいですね。極端なことを言うようだけど(笑)。
「疾患を見逃さない」というモチベーションの維持
桑島 健(検)診スクリーニングは,基本的には「健康だろう」と思う人の中から疾患を探し出すので,とても大変な作業です。モチベーションが低下すると見落としが多くなるのは事実で,モチベーションをいかに維持するかが大事ですね。指導する立場の技師としてはいかがでしょうか。
川地 毎週のミーティング時に,見逃し・見落とし症例について皆の前で報告しています。担当した技師に個別指導後,私が匿名で報告をすることで,本人含め反省材料を皆で共有しています。それと,研修会への参加や他施設の見学も奨励しています。
岩田 学会や勉強会への参加は,実際の知識の吸収だけでなく,他施設の技師をみるだけでも刺激になりますから,私もできるだけそういった機会を後輩技師に与えるようにしています。また,寝不足などで集中力を欠くと見落としに直結することもあるので,自分自身の健康管理に気をつけるように指導しています。「刺激」と「健康管理」の両方が大切だと思います。
桑島 私自身は指導医の立場にあるので,外来で検査したケースについては動画で記録して,「あなたたちの1人が見つけた所見は,私が追加観察したらこうだった」というように,技師全員にフィードバックしています。
竹原 症例検討で「これは誰が見つけた? すごい症例だ」ということになれば,技師にとって励みになりますね。
桑島 私自身が研修医だったころを思い返してみても,自分が担当したケースが皆の前で披露されるとうれしいものでした。おそらく担当した技師も,自分の確定診断が皆の前で披露されるのはすごく励みになると思います。
竹原 それから,1日に行う検査件数を制限したり,1件あたりの検査時間を確保したりすることも非常に大事です。単に「モチベーションを上げろ」と言っても無理で,きちんとした教育環境も整えて,将来の目標が持てるようにしなければなりません。
■超音波検査士としての誇りを保つために
竹原 2003年の第31回日本総合健診医学会のときに,「プローブを握る人間の喜びと悩み」というテーマでアンケートをとりました。
その中で最も多かったのは,「勉強不足で病変を見逃すことによって,その人の一生を駄目にするのではないかという危機感がある」という意見でした。2番目は,「自分自身の知識・技術・経験が左右する検査なので,本当にやりがいがある」。そして3番目は,「受診者の生命にかかわるような病気を発見できる喜びがある」というものでした。
要するに,若い人は超音波にかける熱意はあって,その熱意が維持されるように計らう必要があるのです。技師の皆さんに伺いたい。超音波検査士という資格に誇りを持つためには,何が大事なのでしょうか。
川地 ひとつは,医師からの信頼を得ることです。もちろん,そのためには技師の努力も大事だとは思いますが,外部では評価が高くても,自分の病院では評価されない技師はたくさんいますよね。その逆もありますが……(笑)。
竹原 それは,医師も一緒です(笑)。
川地 超音波検査の担当者としては,どのような環境下でも共通水準の形で評価されたいと感じるところです。あとは施設での待遇です。
竹原 そうですね。「認定試験に合格した人の給料を上げるように」「認定を持っていない人は上級職にしてはいけない」と,私はいつも言っています。
川地 医師には指導医・専門医制度がありますが,超音波検査士においてもアドバンスの認定資格をつくるのはどうでしょう。技師はまたいっそう頑張るだろうと思います。
岩田 私も同感です。病院スタッフや患者さん・受診者に信頼されるためには,検査士個人だけでは駄目で,施設がチームとして機能できるようなレベルアップを図っていきたいです。アドバンスの認定資格はかなりの勉強と経験を積まなければ合格できないものかもしれませんが,全体のレベルアップを考える人たちの大きな励みになるものと思います。
川地 たとえ資格試験ではなくても,指導歴を評価して,そういう優秀な人たちを認めてあげたりすることが,今後の技師教育においては大事だと思います。
桑島 指導検査士とか指導技師とか,そういう名前になるのでしょうね。
竹原 そして将来的には,超音波検査士の認定を取得しなければプローブを握れないというところまでいかないと,全体のレベルアップはないだろうと思っています。
現在の技師教育は,まだ超音波が臨床的な評価を受けていない時代にできた法律・規則にのっとっています。究極においては,超音波検査士学校があって,そこで一定の教育課程を受けた人が超音波検査に携わるのがいちばんいい方法だと思います。
超音波検査に必要な臨床知識
桑島 超音波検査士認定試験では,2005年から新たに「健診」が対象領域となりました。『USスクリーニング』の中でも,悪性腫瘍の検出頻度や好発年齢についての記述が各所にあります。
竹原 検査から有用な所見を取り出す。その思考過程においては,基礎となる知識が必要です。癌の動向をはじめとする疫学の知識だけではなく,超音波の物理的性質や診断装置の構成も押さえなければなりません。超音波健(検)診の対象臓器に関する臨床的知識も必要です。
私がこの本の出版を思いついてからというもの,現場に密着し,セミナーやアンケートも実施して,超音波スクリーニング担当者に必要な知識を調査しました。癌を見つけることも大切ですが,「癌はない」と言えないような検査はすべきではないと思います。健(検)診の対象となる臓器が何と何なのかをきちんと把握しておいてほしいですね。
川地 私たちの有志が設立した「中部超音波検査フォーラム」という中部地方の勉強会が3年目を迎えるのですが,先日は「医師から技師にぜひ教えたい超音波検査に必要な臨床知識」というテーマで開催したところ,260名以上の受講生が集まりました。
参加者の熱意に驚きましたし,技師が超音波検査の前提となる臨床知識を求めていることも分かりました。まさにこの『USスクリーニング』に書かれているような知識を,技師は必要としているのだと思います。
桑島 編集方針は間違っていなかったということですね(笑)。
竹原 褒められたところで,終わりにしますか(笑)。
桑島 本日はありがとうございました。指導者となる技師をどうやって育成するか。新しい認定制度を考えてもいいのではないか。あるいはモチベーションを維持するための方法・評価など,よいご提案をたくさんいただきました。
註)コメディカルミーティング資料:腹部超音波検査.総合健診,30:179-190,2003.
◆MEMO 超音波検査士認定試験
日本超音波医学会が,超音波検査の優れた技能を有するコメディカルスタッフを専門の検査士として認定する制度。現在,資格保持者は7000人以上(延数)。ただし法的には,認定試験の有無にかかわらず医師・看護師・臨床検査技師・診療放射線技師などに超音波検者としての資格がある。
竹原靖明氏 1957年徳島大医学部卒。関東中央病院画像診断科部長,同院副院長などを経て現職。主研究テーマは医用超音波およびその臨床応用。研究の傍ら,超音波検診の普及や技師教育,超音波検査士認定試験の導入などに精力的に取り組む。編著書に『腹部エコーのABC(日本医師会生涯教育シリーズ)』(医学書院)など。日本超音波医学会,日本消化器がん検診学会,人間ドック学会などの名誉会員。日本乳腺甲状腺超音波診断会議顧問など。 |
桑島 章氏 1974年金沢大医学部卒。金沢大助手(核医学),東邦大大橋病院助教授(放射線医学)などを経て現職。著書に『よくわかる超音波検査入門講座――Ultrasonography』(永井書店)など。日本総合健診医学会制度管理委員(超音波検査担当)および日本総合健診医学会『総合健診』副編集委員長。 |
川地俊明氏 1978年名大医学部附属診療放射線技師学校卒。現在,岐阜大大学院に社会人大学院生として在籍中(疫学予防医学分野)。日本超音波検査学会評議員,日本放射線技術学会評議員,日本消化器がん検診学会超音波部会委員,日本消化器画像診断情報研究会副会長,中部超音波検査フォーラム代表世話人などを務める。日本超音波医学会認定超音波検査士。 |
岩田好隆氏 1978年東洋公衆衛生学院卒。85年東京理科大理学部卒。75年より現施設に勤務し生化学検査,生理機能検査を経て光学診療部・超音波診断部に在籍。日本消化器がん検診学会超音波部会常任世話人として腹部超音波検診走査基準作成などに携わる。日本超音波医学会認定超音波検査士。日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡技師。 |
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