医学界新聞

寄稿

2008.09.08

【寄稿】

麻疹対策を学び活動する学生グループ
M-Zeroの発足

M-Zero(学生による麻しん排除プロジェクト)


 近年,わが国において麻疹(=はしか)の流行が取りざたされる中,M-Zero*1(学生による麻しん排除プロジェクト:エムゼロ)が設立され,その本格始動に向け,第1回M-Zero全国学生会議が2008年6月21-22日に国立感染症研究所で開催された。本稿においては,M-Zeroの発足に至った経緯および今後の活動について触れる。

現在の日本の麻疹状況と対策

 わが国においては,これまでに全国的な麻疹の流行が定期的に確認されており,1999年の感染症発生動向調査開始以来最大の流行であった2001年には,乳幼児を中心に27万8000人の患者発生があったと推計されている。また,この1998年から2001年にかけての流行では,沖縄県で9例,大阪府で10例の死亡が確認された。乳幼児が流行の中心であったことから,1歳児に対する麻しんワクチン接種が徹底されたが,一方で,ワクチンを一度も接種していない者に加えて,一度接種したにもかかわらず,長い経過の中で免疫が減衰した者が10代,20代の間で蓄積していることが推測された。

 2007年,その推測が現実のものとなって現れる。関東を中心に大学生の間で麻疹が流行し,休講する大学が相次ぎ,国内において麻疹は大きな問題として取り上げられることとなった。

 また,南北アメリカ,ヨーロッパ,韓国など多くの国々では,麻疹排除が達成されており,それらの国々に対し日本が麻疹輸出国になっていることが,国際的な問題にもなっている。こうした状況を受け,2008年4月より国を挙げての「麻疹排除計画」が開始される運びとなった。

M-Zeroの設立経緯

 排除計画実施に向けて準備が進められている折,国立感染症研究所の砂川富正先生からの提案がM-Zero設立への契機となった。「実施に先んじて開催される全国8か所での行政担当者向けの麻疹対策ブロック会議に,感染症対策の実地勉強という意味も含め,学生も参加してはどうでしょう?」この提案をきっかけに全国各地で有志の学生が集まり,ブロック会議へ参加した。

 開催された会議では,現在問題となっているのは自分たちを含めた同世代の若者の接種率の低さであることを学んだ。こうした同世代に対し,自分たちにできることがあるのではないか,また地域や国から感染症を排除する過程を学びたいという考えのもと,参加学生が一致団結し,全国組織としてのM-Zeroは産声をあげた。

第1回M-Zero全国学生会議の内容

 会議には,北は北海道から南は沖縄まで全国各地から25名の学生が参加した。

 会議は,(1)麻疹という疾患ならびにその対策について理解を深めること,(2)麻疹対策における学生の立場や役割を認識すること,(3)学生の立場での活動の可能性を模索すること,を目的として行われた。

 会議の開催にあたり,学生のみならず,厚生労働省,国立感染症研究所,地方自治体,開業医という多様な立場から麻疹対策に携わっておられる先生方をお招きし,国家における麻疹対策の基本的指針から現場における取り組みの現状まで,さまざまなレベルでの実情をお伺いした。

 その上で,実情を踏まえ,メンバーが全国各地に存在している利点を活かし,新たに定期接種対象者となった中学1年生,高校3年生,そして大学生に対し,草の根レベルでワクチン接種の必要性を呼び掛け,接種率向上に繋げること,また各大学・地域で麻疹対策に関する情報収集・調査を実施することを,活動の根幹に決定した。

これまでに実施した活動と今後の展望

 今後は活動の柱として,(1)各大学・地域での意識調査や対策の状況調査,(2)メーリングリストやホームページ上での麻疹情報の配信・M-Zeroの活動等の紹介,(3)ワクチン接種に関係する方々を対象とした講演会や勉強会の開催を行っていく予定である。

 既にこれまでにも,所属大学での新入生に対するワクチン接種の呼び掛け・ビラの配布,大学や市町村担当者を訪問しての聞き取りを行った。沖縄では県内の小児科医や行政関係者などで組織された「沖縄県はしか0プロジェクト」の活動の一環として,「はしかに関する学生フォーラム」を開催し,学生が演者として麻疹の病態・現状・今後などについて調べ,発表を行った。

M-Zero参加学生の声

 男性:20歳代 僕自身にとって今回の麻疹排除計画は,国レベルでの医療行政を垣間見るビックチャンスであり,同時に近年麻疹対策のターゲットとなる「20代前半」の当事者として見過ごせない問題であった。SARSや鳥インフルエンザ同様に,国境を容易に越える感染症に対する国を挙げての取り組みは,もはや国際的な信用に関わる問題であるとさえ思う。M-Zeroを通して,一医学生として,一若者として麻疹の予防接種啓発や必要な調査に貢献していきたいと思っている。

 男性:20歳代 2月の行政の麻疹対策会議に同席し,その後,M-zeroの立ち上げにかかわった。学生として麻疹排除に向けて何ができるのかネット上で話し合い,その話し合いの上で,どうしたらよくなるかを議論したり,知らないことを補い合ったりすることで,医学生としての自分が見えてきた。面識のない人と関わることも多かったが,どの人も気さくで,麻疹について熱く考えている人ばかりで,この出会いも貴重なものとなった。M-zeroはこれからさまざまな活動をしていくことになるが,自分もM-zeroからもらったいい影響を周りに拡げていきたいと考えている。

■M-Zeroへのお誘い

 麻疹や麻疹対策,予防接種活動等に興味のある全国の学生の皆さま,麻疹排除に向けて,一緒に学び,取り組んでみませんか? 全国各地の学生が,まずは自身の理解を深め,友人・同級生など身近な人たち,同世代の若者に広げ,そうした各地での活動が全国に広がり,大きな力となることを願っています。

 興味,関心をお持ちいただけた方,M-Zeroのホームページをのぞいてみてください。一緒に活動するサポーターの参加方法も記載されています。M-ZeroサポーターとはM-Zeroの活動理念や目標に賛同していただける方を指します。なお現在,M-Zeroは学生ばかりですが,学生から社会人になってもかかわれる活動でありたいと考えています。卒業を控えた皆さまも,ぜひ活動にご参加いただければ幸いです。またわれわれM-Zeroは,広く全国の医療・公衆衛生・保健教育などに関係する先輩方から麻疹対策へのご指導をいただき,学んでいきたいと思っています。麻疹対策や予防接種に関する現場での機会の折,特に,地元のM-Zero学生にお声を掛けていただければと思います。どうぞ,よろしくお願いします。

*1:M-Zeroの「M」は,Measles(麻疹)のMを表し,麻しんフリーの日本を願ってM-Zeroという名称がつけられた。


執筆:錦信吾(鳥取大医学部6年),外山由貴(佐賀大医学部6年),長嶺由衣子(長崎大医学部6年),表真由子(滋賀医大5年),園田梨絵(琉球大医学部5年),朴大昊(鳥取大医学部5年),谷川朋幸(滋賀医大4年)
編集助言:砂川富正,山本久美(共に国立感染症研究所感染症情報センター)

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