医学界新聞

2008.07.14



豊かなコミュニケーションをめざして
――第9回日本言語聴覚学会の話題から


 第9回日本言語聴覚学会が6月21-22日,藤田郁代会長(国際医療福祉大;写真)のもと,「言語聴覚療法の最前線」をテーマに栃木県総合文化センター(宇都宮市)にて開催された。

 会長講演「言語聴覚療法の最前線――脳とコミュニケーション」では,藤田氏が形式的言語機能と語用論的機能の関係を認知情報処理の観点から解説した。また,言語聴覚療法の目標を「他者を含む環境において言語的・非言語的道具を用い,文脈に沿った意思疎通を実現させること」に設定。そのうえで,音韻,語彙,構文といった形式的な言語機能とともに,語用論的機能や各種の認知機能への働きかけを視野に入れたコミュニケーション訓練の必要性を訴えた。さらに,効果的な治療法の確立にはエビデンスの蓄積が不可欠として,障害の特徴や発生メカニズムに関する知見を深め,その知見に基づく治療仮説を臨床研究において検証していく方向性を打ち出し,協力を求めた。

◆人の心とテクノロジーで切り開く聴覚臨床

 シンポジウム「テクノロジーの進歩と聴覚臨床」(座長=筑波大大学院・廣田栄子氏,国際医療福祉大・城間将江氏)ではさまざまな分野から聴覚臨床に取り組む4名が,聴覚臨床とテクノロジーの共存について議論した。

 福島邦博氏(岡山大大学院)は,今後の医学の進歩は遺伝子診断や聴覚スクリーニングなどのような分子生物学に後押しされるものになると述べ,これからの技術革新は倫理性,経済性および実効性を考慮しながら進めるべきであるとした。高橋信雄氏(愛媛大)は,科学技術の進歩に依存することの危険性を指摘。補聴器を使用し積極的にリハビリに取り組む気持ちになってもらうよう支援することや,補聴器から得た音に意味を見出せるように手助けするのは,機械ではなく人間であると強調した。

 北川可恵氏(北海道立子ども総合医療・療育センター)は,重複障害児の聴覚における臨床現場でのテクノロジーの活用状況を報告。聴力評価では健常者に対する検査とは異なる重複障害児特有の検査値の乱れが生ずること,補聴器の装用には患児一人ひとりの体調・発達遅滞などへの考慮が必要であることなどを述べた。最後に登壇した中村公枝氏(国立身体障害者リハビリテーションセンター)は,補聴器の装着がコミュニケーションの向上に必ずしもつながるわけではないことに言及。真の聴覚補償には,言語聴覚士が,患者の聴覚的な気づきの芽を丁寧に拾い上げ,注目を導き,関係性の発見を促し,意味を与えることが重要であるとした。

 コミュニケーションとは何か。「言語聴覚療法の最前線」では白熱した議論が続いている。

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