医学界新聞

2008.06.02



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


問題解決型救急初期検査

田中 和豊 著

《評 者》上條 吉人(北里大講師・救命救急医学)

現場の視線で,同志のために書かれた一冊

 ただただ,これだけの本を1人で書き上げた著者に脱帽の思いである。私もこれまで単著を上梓してきた自負はあるが,あくまでも救急領域の1分野に限定された内容である。ところが,本書のタイトルには「救急」と冠されてはいるが,内容は救急領域を遥かに超えた幅広い分野に及んでいる。しかも,本書からは,著者の豊富な臨床経験ばかりでなく,広く深く正確な知識をもたらした著者の猛烈な知的欲求がにじみ出ている。

 「いったい何者だ?」という思いで著者の略歴を見て,合点した。物理学を学んだ後に医学を志し,さらに,臨床医として,インターナショナルに切磋琢磨され,著者が「戦場」と譬えた「救急医療現場」に飛び込んだ経歴の持ち主である。著者にお会いしたことはないが,とにかく並外れた「熱い心」と「エネルギー」の持ち主であることは容易に想像がつく。

 「臨床検査」に関する著書は数多い。しかしながら,肩書はあるが,現場からは一線を置いた著者による,必要な情報を網羅しているだけの,似たり寄ったりの凡書ばかりである。視線が現場にないのである。ところが本書は,「この本を日夜戦場で戦う戦士たちに捧げる」と冒頭にあったように,自らが救急医療現場という過酷な「戦場」に身を置きながら,現場の視線で,同志のために書かれている点になによりも惹かれる。おそらく,凡書など一切参考にしていないのではないか。

 いたるところに同志が限られた時間のなかで,理解・活用できるように工夫されたオリジナリティーが感じられる。特に,豊富なフローチャート,「STEP」「POINT」などを用いて,読者がいますぐ現場で必要な情報に理論的,段階的にフォーカスできる工夫は圧巻である。救急医療現場で必要な「初期検査」は,素早く適切な診断,治療に繋がる一助でなくてはならない。しかしながら,あくまでも「一助」であり,大切なことは検査データと患者を相互に「見て(診て)」総合的に判断することである。「鉄則」や感度・特異度や検査の限界についての記載などによって,検査データのみを「見る」だけで判断する短絡思考に釘を刺してくれるところは非常にありがたい。

 単著である本書のよさは,著者の「熱さ」を含めた人間性ばかりでなく,いたるところに著者の「熱い」メッセージが伝わってくるところである。やはり共著とは異なる味わいがあることをつくづく感じた。単に臨床の手助けとなるだけでなく,特に救急医療現場という「戦場」を志す若い医師に,勇気や理想を与えてくれるはずである。ぜひ,薦めたい本である。

 昨今,過酷な「救急医療現場」は若い医師に敬遠されがちである。しかし,ある程度の「自己犠牲」を「美学」として,戦う「戦士(救急医)」がまだまだいてもいいではないかという思いを新たにした。

B6変・頁544 定価5,040円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00463-3


標準整形外科学 第10版

国分 正一,鳥巣 岳彦 監修
中村 利孝,松野 丈夫,内田 淳正 編

《評 者》高橋 和久(千葉大大学院教授・整形外科学)

わが国における「standard textbook標準整形外科学」

 新しい『標準整形外科学 第10版』を手にとった。この本には安心感がある。これは,本書が長年にわたり版を重ね,整形外科を学ぶ多くの人々に広く受け入れられ,高い評価を受けてきたためであろう。本書は1979年,当時の井上駿一千葉大学教授,広畑和志神戸大学教授,寺山和雄信州大学助教授の編集により,本格的な整形外科学の教科書として初めて執筆された。私事ではあるが,この年は私が井上教授の千葉大学整形外科に入局した3年目であり,本書から多くの知識を学ぶことができた。

 初版の刊行以来,本書は医学部の学生から整形外科研修医,さらに理学療法士や作業療法士など,整形外科疾患の研修や診療に携わる多くの人々に名実ともに「標準的な教科書」として使われてきた。近年,医学,特に整形外科学の知識・技術は,量的にも質的にも増え続けている。本書にも数多くの改訂が行われ,第10版が刊行されることとなった。今回はその完成度をさらに高めるため,重複記載を省き,参照頁を適宜示し,用語表記を統一し,略語一覧や索引の充実化を図り,別冊付録をイラスト中心にまとめ直すなどの改訂が行われた。

 21世紀を迎え,コンピュータの進歩は著しく,インターネットなどにより,即座に大量の情報に接することが可能となった。しかし,このようにして提供される大量の情報には十分な吟味を受けずに流布されるものもある。もし,誤った情報が含まれていれば,医療においては重大な結果につながりかねない。教科書の内容はフィクションではない。執筆に当たっては,急速に進歩し,増え続ける情報を精密に吟味し,整理し,記載する必要がある。この作業には多くの時間と労力を必要とする。極端にいえば,一行を記載するにも,何編もの参考文献を調べねばならないこともある。もちろん,各項目に関する,深く広い知識がなければ,このような作業を始めることすらできない。

 本書には安心感があると述べた。この安心感は,すみずみまで内容が吟味され,必要な知識が秩序正しく整理され,網羅されているためである。監修に当たられた,国分正一先生の理路整然とした思考過程にはいつも感銘を受けている。また,鳥巣岳彦先生には日本整形外科学会学術用語委員会にてご一緒させていただき,概念や用語に対する精緻なお考えをご教示いただいた。今回の第10版は,中村利孝産業医科大学教授,松野丈夫旭川医科大学教授,内田淳正三重大学大学院教授が編集に当たられ,29名のわが国屈指の専門家が執筆に携わった。まさにわが国における「standard textbook標準整形外科学」である。医学部の学生諸子には,多少内容が詳細にわたる感があるかもしれない。しかし,本書を読み進めるうちに整形外科学の面白さに引き込まれるに違いない。本書には整形外科研修医あるいは専門医にも必要な内容が記載されている。本書を是非座右に置き,皆様の日常診療に役立てていただきたい。

B5・頁956 定価9,660円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00453-4


まんが 医学の歴史

茨木 保 著

《評 者》山田 貴敏(『Dr.コトー診療所』作者・漫画家)

医学の「入り口」に読者の心をつかむ珠玉の1冊

 天は二物を与えずとはよく言いますが,この『まんが 医学の歴史』の著者茨木保という人,その範疇にはないようです。

 そもそも医者になる人間は,私が考えるにそれだけで選ばれた人間だと思うのですが,この人,漫画まで描いちゃう。

 私の著書『Dr.コトー診療所』でも監修をしていただき,それも家庭の事情などまったく考えない理不尽な漫画家による,午前1時の「この場面,医学的に間違ってませんか?」などという電話にも,快く答えてくださる。

 ついでに「この先の展開の医学用語,朝までにメールしてもらえますか?」とずーずーしくお願いしても,「わかりました」と二つ返事で承諾してくださる。つまり,まれにみる“いいひと”なのです。それにつけこんではや8年。たぶんこれからも,頼り続けることになると思います。

 さて『まんが 医学の歴史』,ご本人曰く,医学書(参考文献)を読む「入り口」になれば幸い,とあとがきに書いておられる。

 私も医学漫画(?)を描いている手前,医学書を読んだことが(ページをめくったことが)あります。中にはすこぶる面白いサスペンス(推理)小説のような医学書もあるのかもしれません。しかし,この「入...

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