MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.05.26
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


伊藤 絵美,向谷地 生良 著
《評 者》池淵 惠美(帝京大教授・精神神経科学)
認知行動療法のすばらしい範例
◆認知行動療法はなぜ支持される?
本書は認知行動療法のすばらしい範例といってよいであろう。
認知行動療法が注目を浴び続けている理由の一部は,多量の効果研究を生み出している点にあると思われる。科学的な根拠=エビデンスに基づいた治療法が求められる時代に,認知行動療法は豊富なエビデンスを提供しているのである。そのためにアカデミズムの世界にサポーターがいる。
それと同時に,理論と技法が明文化されてシンプルであるが故に応用可能性が広く,さまざまな精神障害にそのシンプルな図式を適用して,複雑な症状を読み解いたり,解決策を模索したりすることが可能である。このことも,認知行動療法が流行する理由の1つとなっている。これまでの精神療法からすると,ずっとわかりよいのである。その応用のしやすさから,多彩な技法を次々と編み出す生産的な試みが世界中で行われている。臨床の現場にもサポーターがいるのである。
さらに言えば,専門家と当事者(クライエント)がその図式を共有して,共同作業で障害を乗り越える道具とすることができる。今の時代,こうした姿勢は多くの共感を得ている。したがって,当事者の中にもサポーターがいるのである。
◆同じ技法のはずなのに……
創造性にあふれた楽しめるセッション
このように,認知行動療法が支持される背景はいろいろであるが,本書『認知行動療法、べてる式。』は,実践的な臨床家サポーターと当事者サポーターとのすばらしいコラボレーション作品である。
堅苦しいアカデミズムの世界で語られるのと同じ技法を使っているはずなのに,本書でみる認知行動療法は,生命力と想像力と諧謔の精神にあふれていて,きわめて魅力的である。病院でみる認知行動療法が,少し窮屈だったり,図式的すぎると感じている人にとっては,認知行動療法の本質的な理論や技法をそのまま残しながらも,こうも楽しいセッションができるものか,と驚かれるのではないかと思う。精神障害の中でも,社会生活における重い桎梏(しっこく)となりやすい統合失調症をかかえた人たちが,なんだか言葉で聞くと忌避されそうな幻覚や妄想と生き生きつきあっている様が,DVDと解説書の中にあふれている。
実践家サポーターの伊藤絵美氏の解説は,平易な言葉でありながらも,物事の本質をよくとらえていて,なぜ本書が魅力的であるかを,見事に解き明かしてくれている。これは「べてる式」に伊藤氏が惚れ込んでいる故だと思われる。
◆認知行動療法だけでは語り切れない
「深さ」と「おもしろさ」も
「浦河べてるの家」では,社会福祉法人と有限会社を併せて100人以上の当事者が生活し,活動している。浦河町という過疎の町に密着して,統合失調症,アルコール依存症,人格障害などをもつ人たちが,昆布とともに,「障害とともに生き...
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