医学界新聞

2008.03.31



健康の不平等の是正に向けて
国際シンポジウム“Global Health as Global Agenda”より


 さる1月15日,国際シンポジウム“Global Health as Global Agenda”が,三田共用会議所(東京都港区)にて開催された(主催:財団法人日本国際交流センター,社団法人国際厚生事業団,後援:外務省,日本医師会)。本シンポジウムは1月16―18日の3日間,神戸で開かれたWHO Social Determinants of Health(SDH:健康の社会的決定要因)委員会にあわせての開催。SDHは「所得,社会的地位,教育,労働環境など,社会的不平等に基づく健康問題を解決する手段」として注目を浴びている。前国家元首などの多彩なシンポジストが講演を行った。その中からSDH委員会の議長を務めるMichel Marmot氏(国際保健社会研究所長/ロンドン大疫学・公衆衛生学教授)の基調講演を紹介する。

 Marmot氏は「健康の社会的決定要因に関する委員会が目指すもの」と題し,健康の不平等問題について講演。国家間における格差が存在する例として,ボツワナの女性と日本の女性の平均寿命には52歳もの違いがあるデータを示し,「このような平均寿命の差があってよい理由はない」と強調した。この問題では,貧しい国々における社会経済状態―特にGDP5000ドル以下―と平均寿命が密接に相関している(図)。

 こうした不平等の是正は絶望的なものではなく,1970―75年と2000―05年の平均寿命を比べると,アラビアの国々やカリブ,南アジアでも10歳以上平均寿命が延びている。またサハラ以南においては3―4か月ほどだった平均寿命の延びも,最新の調査で3.3歳延びていることが報告されている。このように健康に関する不平等は固定的なものではなく,行動により改善することができ,そうした行動をするための基礎を提供することがSDH委員会の課題であると述べた。

 続いて自身が行った,イギリスでの公務員を対象に専門職・事務職・行政官間における25年にわたる比較調査結果から,「豊かな国においても,就いている職業・地位により死亡率が変化する」など,国内における格差が存在していることを示し,「国家間のみでなく,国内における格差についても考えていかなければならない」と指摘した。

 アメリカの報告においては,1996―2002年にかけて医学的な進歩により18万人の死を避けることができた一方で,同じ期間,教育上の不平等を正すことができれば,さらに140万人の命を救えたと考えられている。医療は重要な要素のひとつであることは確かだが,医療の技術進歩が思ったほど人々の健康にインパクトを与えておらず,「教育や所得格差,栄養状態,労働環境,ジェンダー格差,医療サービスへのアクセスの差,といった社会的要因が健康に大きな影響を与えている」と指摘。プライマリ・ヘルスケアや保健システムの強化などに関しても「SDH」を考慮していかないと成功は難しいと述べた。

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