医学界新聞

2008.03.17



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


コミュニケーションスキル・トレーニング
患者満足度の向上と効果的な診療のために

松村 真司,箕輪 良行 編

《評 者》江口 成美(日本医師会総合政策研究機構)

患者とのコミュニケーションを今一度,見直す機会に

 日本でコミュニケーションスキル・トレーニングを医学教育に取り入れるようになったのは1990年以降である。それ以前に大学を卒業した医師の大部分は,コミュニケーションに関わる教育を受ける機会がなかった。本書はこうしたベテラン医師を対象に,患者とのコミュニケーションスキルの習得と実践について体系的な学習を可能とする,従来なかった手引書である。前半にコミュニケーションや患者満足度に関する解説があり,後半にスキルアップのための手法やトレーニングの内容,効果が説明されている。ベテラン医師が自身で学べると同時に,トレーニングコースの実践テキストとしても活用することができる。編著者らは,コミュニケーションスキル・トレーニングコース(CSTコース)の開発・運営に実際に携わる専門家で,編者のお一人の松村真司先生は,研究もこなしながら臨床の場で活躍されている先生である。

 病気になれば誰しも不安で心細くなる。医療者と心の通う対話ができれば,患者は緊張や不安が和らぎ,診療を前向きに受けることができ,ひいては病気と積極的に向き合うことができる。一方,よいコミュニケーションは医師自身の達成感も向上させる。

 本書は,診療を進める際に必要とされるコミュニケーションを「オープニング」「共感的コミュニケーション」「傾聴・情報収集」「説明・真実告知・教育」「マネジメント」「診断に必要な情報の授受」「クロージング」という7つの局面に分けて整理している。そして,それぞれの局面で日常の診療に必要な言動や対応の実践例を示している。トレーニングコースで実施した模擬診療場面の例を用いて,専門用語の多用や会話のさえぎりなど好ましくない対応や,その改善法を具体的に解説している点に大きな特徴がある。また,患者の不安に対する共感の表わし方や,患者が必要とする情報の適切な提供法など,目の前にいる患者といかに向き合うかという課題にも応えている。「……たとえ医師がその(患者の)不安を理解できたとしても,理解した旨を表現し患者に伝えられなければ患者の満足度は当然上がらない」という基本的な考え方も記されている。

 いうまでもなく,医師と患者という立場の違いをはじめ,近年の多様な患者層,限られた診療時間など診療の現場を取り巻く環境は厳しく,コミュニケーションの向上は決して容易でないし,その評価も難しい。また,医師側だけでなく,当然,患者側の対応の問題もある。しかし,本書を読むことで,これまで実践してきた患者とのコミュニケーションを,今一度,見直すきわめてよい機会になるであろう。より多くの先生方に一読をお勧めする。

B5・頁184 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00450-3


リハビリテーション医療入門 増補版

武智 秀夫 著

《評 者》土肥 信之(兵庫医療大リハビリテーション学部長・教授)

著者の理念や知識の結晶が散りばめられた一冊

 最近リハビリテーションという言葉はあらゆる分野でよく聞くようになった。スポーツの世界でも盛んに用いられている。もともとリハビリテーションは障害者が社会に参加することを助ける多様な手段であるが,その中でも医療的アプローチはとても大切で,有効である。リハビリテーション医療は医学のみならず,広く医療関係職種がチームを組んで共同し,関わっていくことが大切で,その分野は大変広いものとなっている。

 この『リハビリテーション医療入門』は,障害者が社会に参加するために必要な,これら医療に関連する広い分野を,要領よく解説している点で入門書といえる。しかし実際は著者の深いリハビリテーションとの関わりの中から生まれた理念や知識の結晶が散りばめられており,その内容は洗練され,また高度なものを多く含んでいる。

 初版は2001年であるが,ICF(国際生活機能分類)が用いられるようになり,障害者自立支援法の制定施行や介護保険の普及など,リハビリテーション医療を取り巻く環境の変化に合わせて改訂され,増補版として出版された。

 全体は13の章からなる。障害と医療,ADLの話,心理と障害受容,リハビリテーション専門職,社会資源と職業,就労,介護保険や地域リハビリテーションなども含み,幅広く網羅されている。特に職業リハビリテーションについては入門書といえども,職業に関わる教育訓練施設やセンター,福祉工場などの詳細な情報が載せられており心強い。これらは著者が長年育ててこられた吉備高原医療リハビリテーションセンターの得意分野であり,医療系の本としては異色であり,役に立つ本である。

 本全体としての内容の広がりと多様性は特筆に値するが,これらの多様な領域は分担執筆されるのが通例である。しかし著者が,長い経験と実践を生かして,全体をわかりやすく解説し,問題点も鋭く指摘している。その意味では一貫した考えに貫かれており,読んでいて引き込まれるものがある。最初から少しずつと思い読み始めたが,一気に読んでしまった。

 リハビリテーション医療について,初心者が全体をつかむにはいい本であるが,やや難解な部分もあるかもしれない。それらを少しずつ調べながら読むと知識が整理されるであろう。

 一方リハビリテーションを知っており,現場で働く専門職の人たちには,不得意分野を補いリハビリテーションの知識をバランスよく知り,その中での自分の専門職としての役割を確認し,リハビリテーションチームの一員として効果的な治療を組み立てるのに役立つであろう。なによりもそれほど肩もこらず読み続けることができる点でも勧めたい本である。

A5・頁128 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00542-5


質的研究実践ノート
研究プロセスを進めるclueとポイント

萱間 真美 著

《評 者》安藤 潔(東海大教授/血液・腫瘍内科)

本書をもって「質的研究」に出会えたことの幸せ

 萱間真美先生の『質的研究実践ノート――研究プロセスを進めるclueとポイント』を拝読した。筆者自身は「質的研究」に関してまったくの初学者であり,書評する資格があるのかあやしいところであるが,本書をもって「質的研究」に出会えたことは幸せなことであった。そのような視点から書評を書く意義もあるかと思い紹介させていただく。

 本書は100頁強のスマートな体裁であり,一気に通読が可能である。通常の研究マニュアルをイメージして読み始めたところ,質的研究である所以か,萱間先生ご自身の研究生活と人生が豊かな言葉で開陳されており,読後感はむしろ芳醇な文学に接したような感慨を持った。読書の楽しみは読み手の内側にあるものがそこに明確に言語化されていることを見いだすことであるが,刺激されて私自身の初心を思い返すこととなった。筆者は医療コミュニケーション手法としての「コーチング」について研究し,いくつかの入門書を編纂しているが,その動機は萱間先生と同じく大学卒業直後の臨床経験における「熟練した臨床家が使いこなしている臨床技術の具体的な内容を記述し,人に伝えられる形にすること」,いわば「暗黙知の体系化」への関心であった。

 研究を長年続けていると,「客観的であれ」という生活態度が身に染みついてしまう。各人がそれぞれの臨床体験に根ざして始めた研究も,量的研究の手法で取り扱える問題だけを扱っているうちに,いつしか自分が本来やりたかったこととの間に距離を感じることもあるのではないだろうか。だから「追求したいと強く願うテーマは,時として研究者自身の抱える人生のテーマである」という本文中の記述は,もう一度読者を研究の原点に引き戻す力を持つ。研究者の個人的体験は動機にもなるが,バイアスになることもある。この微妙なバランスを保ちながら説得力のある研究に仕上げていく過程にこそ質的研究の醍醐味があるのであろう。

 質的研究の特色を最もよく表しているのはデータの分析(コーディング)の手法である。第4章では児童虐待をテーマとした母親との具体的なインタビュー内容からコーディングをいかに行うか,実際の手順が紹介される。会話の中から児童虐待という現象の核心を見いだすプロセスには迫力がある。「データを読んだときの印象が,実際に逐語録のデータをスライスし,意味のまとまりや背景要因を解釈した実証的なデータによって裏付けられてはじめて,質的データの分析から得られた分析結果として用いることができる」という質的研究の本質が鮮やかに示されている。

 医療面接においてインタビュー技法は最も基本的で大切なものでありながら,通常の教科書では単なる質問事項の列挙にとどまっており,筆者は不満であった。本書の「インタビュー技法のトレーニングとして自分を知ることが重要である」という指摘には強く共感した。より具体的には,自分の会話中の癖にとどまらず,研究テーマとの関わり,動機を知ること,自分の中にある意識,恐れ,などを知ることである。質的研究の実践を通してこのようなレベルにまでインタビュー技法が深められるなら,医療面接も豊かなものとなるであろう。医療従事者にとって,日々の医療における相手との関わりの中にこそ追求したい研究テーマが潜んでいるのではないだろうか? そして「既存の調査票や統計処理を持ち込まなければ研究には結びつかない」という思い込みが,研究への第一歩をためらわせているのではないだろうか?

 質的研究の方法論に多くの医療従事者が関心を持ち,医療の初心者であった頃の体験から一つのゴールを設定して,それに向けて継続して行動し,具体的な達成を得ること。そのような努力は日本の医療を豊かにするために,次代の医療の担い手を育てるために,最も大切なことだと考える。本書は読者に行動を促す一冊である。

B5・頁104 定価2,310円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00464-0


「気になる子ども」へのアプローチ
ADHD・LD・高機能PDDのみかたと対応

宮尾 益知 編

《評 者》原 仁(横浜市中部地域療育センター所長)

発達障害の専門家による診察上の工夫を垣間見る

 編者の宮尾益知博士をはじめ,本書の著者たちのいく人かは,評者にとって,かつて職場や学会活動でご一緒した,懐かしい方々である。同じ領域で同じ仕事に携わる評者にとって,通読を始める際の緊張感は,いわばライバル意識が働いてのことなのかもしれない。今,彼らは何を考えながら,子どもの何を診ているのだろうか,興味津々であった。

 はっきり言って,見かけよりかなり読み応えのある内容である。最近流行の,「誰にでもわかりやすく」でもないし,やたらと漫画が出てくるわけでもない。したがって,ある程度,発達障害に関わる実務を経験した中級レベルの専門職の方々に適しているのが本書だと思う。宮尾博士が冒頭で述べているとおりである。その領域の第一線の専門家に,重複を恐れず,それぞれ一貫した観点からの執筆を依頼したようで,各章が独立した論文といってよい。

 医学的な立場からは,宮尾益知,森優子,笠原麻里博士たちが,発達障害全般に対して,それぞれがご自分の考えに基づいて書き下ろす体裁である。心理学の立場からは五十嵐一枝教授が,作業療法の観点からは福田恵美子教授が,言語発達の観点からは佐藤裕子言語聴覚療法士が,福祉の立場からは伊東ゆたか博士,伊藤くるみ氏,大河内修氏が,そして教育の立場からは月森久江氏が,同じように執筆している。まずは読者自身の立場の章から,あるいは今特に興味のある領域から読み始めていただきたい。

 評者の興味は,実際の診察上の工夫を垣間見ることができる表現である。理論はそれとして,日々の実践でどのように具現化しているのであろうか,である。なるほどと納得いった1歳半の乳児を診察する際の記述を2つ紹介してみよう(19-21頁)。第1は,乳児を抱っこして保護者(母親)から1-2メートル引き離してみる方法である。評者もかつてよくこの方法をつかった。当然期待するのは,「知らないおじさんに母親から引き離された,大変だお母さん!」という行動である。第2は,診察室の小道具として,ぽぽちゃんというミルク飲み人形をつかった見立て遊びをおこなっているようである。評者の場合はわんちゃん人形と積み木をつかっているが。

 福田教授が担当する,感覚統合療法の第5章がわかりやすい。この領域に関心はあるが,専門外なのでもう少し学んでみたい,そして理解を深めたいと思う読者には適している。第7章の「家族機能障害あるいは社会問題としての発達障害」は,このタイトル自体がショッキングである。しかし,臨床の最前線にいる評者にとって,その事実はまさにそのとおりと同意せざるを得ないのである。

 大いに共感するのは,本書のまとめともいうべき第10章の記載である。宮尾博士の指摘するのは,3点。第1,発達障害児・者への支援のあり方を家族機能の視点から見直すことが必要である。第2,発達障害がある人が人生をまっとうするには,リラクゼーションの方法が重要である。つまり,世の中にあふれるストレスをいかに解消するかである。第3,ライフスタイルの確立がさらに重要である。もっとも,第3の指摘は,発達障害の有無にかかわらず,人間すべてが見つめなければならない人生の課題である。

 なお,本文とは別に,挿入されたコラムが19編ある。こちらもこの続きをもう少し読みたいと思う話題に満ちている。

A5・頁344 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00442-8


SSTはじめて読本
スタッフの悩みを完全フォローアップ

舳松 克代 編

《評 者》西園 昌久(SST普及協会会長/心理社会的精神医学研究所所長)

解決の道を一緒に探してくれる仲間意識が感じられる本

 SSTという言葉は精神科医療関係者を中心に今では,(初等中等)教育や矯正関係の分野にまで広がりをみせている。Social Skills Trainingの略で,わが国では社会生活技能訓練と訳されている。精神障害者の社会復帰には,薬で精神症状を治療するだけでなく,社会生活技能を改善回復せねばならないという発想のもと,アメリカのリバーマン教授,ベラック教授らによって開発された心理社会的アプローチのひとつである。1995年,日本にSST普及協会が創立され,活動をしている。

 本書の執筆者の皆さんはSST普及協会事業に協力し,今やそのリーダーになられたコメディカルの方々である(精神科医は例外的に,診療費のことで執筆に協力された上野武治教授お一人である)。SST実践者たちと同じような立場から執筆されているので,SSTを学び,時に途方にくれている人にとっては,等身大で,同じ目線で,SSTについての課題や疑問を明確にし,解決の道を一緒に探してくれるという仲間意識が感じられるであろう。

 さて,本書の内容であるが,大きく分けると3部からなっている。(1)Q&A,(2)コラム(SSTとは何か,執筆者たちにとってのSST),(3)練習問題・資料編である。

 本書のメインは,計57項目にわたるQ&Aである。SSTをすすめるにあたって,現場のセラピストから実際に出されたさまざまな課題や疑問に,執筆者たちの実体験を通じて得られた解決策や考え方が明快に解答されている。その意味で,「SSTの入門座右の書」といえよう。

 コラムは,そのQ&Aの間をぬう形で展開され,執筆者たち個人の経験と思いにもとづいて語られている。例えばSSTセッションは,ある数のメンバーよりなる集団なので特有の雰囲気があり,それがストレスになることも起こりうる。舳松克代さんはその集団を動かすことこそが大切なのでそれを恐れないでと励ます。評者が気になったのは,「集団を動かす」という言葉の真意である。セラピストが操作的になりすぎるとメンバーは依存的になるか,集団に分裂が起きかねないからである。ここのところがSSTセラピストとしての訓練の重要なところであろう。しかし,そうしたSST集団体験を通じて,佐藤珠江さんは「患者さんの話を聴くこと」の大事さを知り,患者さんの健康な部分に出会えたという。また,河岸光子さんはSSTを通じて職種の違いによって患者理解の多様性を学んだと,チーム医療の本質に触れたことを記している。片柳光昭さんは,SSTセラピストとして認定資格を得るまでの苦労と喜びを述べて後輩の皆さんへ指針を示している。「SSTにマニュアルはない」は,本書の最後に舳松克代さんが主張していることである。

 精神科臨床とリハビリテーションの現場に直結した,ユニークで実践的なSST手引書が現れたことを喜びたい。

A5・頁248  定価2,625円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00585-2

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