医学界新聞

2008.03.10



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


QT間隔の診かた・考えかた

有田 眞 監修
犀川 哲典,小野 克重 編

《評 者》杉本 恒明(関東中央病院名誉院長)

QT間隔の異常を多角的に学ぶ

 QT間隔は心室筋の興奮の始まりから終わりまでの時間である。そこには心筋細胞の興奮・伝導に関わるあらゆる情報が含まれている。間隔の異常は思いがけない突然死を予測させ,あるいは背景にある虚血や心不全などの病態を想定させる。本書はそのようなQT間隔のすべてについて最新の知識を与えてくれる。

 QT間隔と突然死というと,まず思い浮かぶのは,先天性QT延長症候群であり,あるいは,薬剤によるQT延長である。先天性QT延長症候群が報告されたのは,1960年代であった。薬剤性のものは,歴史的な不整脈治療薬であるキニジンが使用されていた当時からキニジン失神として知られていた。1990年,CAST研究が不整脈の薬物治療に疑問を呈したとき,機械的かつ安易な治療薬使用が警告されたと考えたものもあった。

 1991年,Keatingらが先天性QT延長症候群に遺伝子変異があることを発見したとき,それは大きな興奮をもって迎えられた。遺伝子解析の臨床への応用の幕開けであったのである。QT延長症候群の関連遺伝子は以来,つぎつぎと発見されて,今日では,10種類があるという。併せての細胞膜電流系研究の著しい進歩のおかげで,変異遺伝子の心筋細胞膜チャネル・タンパクのコードの仕方も明らかになってきた。他方,薬物によるQT間隔修飾は,不整脈治療薬にとどまらず,向精神薬,抗生物質,抗菌薬,抗アレルギー薬,脂質代謝薬,消化管薬など,広い分野の数多くの薬物にもみられることがわかってきて,新薬はすべて,開発の段階でQT延長のスクリーニングを行うことが義務づけられることになってきた。

 本書は,QT間隔について,評者に実に多くのことを教えてくれた。後天性QT延長症例で遺伝子異常を非顕性化するのは,再分極予備能とよぶ代償性機構であるという。乳幼児突然死症例の中にも高い頻度でみられる遺伝子異常がある。性差にはホルモンのゲノム作用と非ゲノム作用とがある。そして性差には遺伝子変異の浸透率の差ではなく,不整脈トリガーに差がある場合がある。共通した遺伝子変異にもとづくために,Brugada症候群の中には家族性洞不全症候群や房室ブロックなどと重なるものがあり,オーバーラップ症候群とよばれる,といった具合である。

 各章の末尾に「読者と一緒に考えるQ&A」という項がある。ここを拾い読みしても得るところが多かった。この項の索引がほしいと思った。また,QT延長に特異な心室頻拍,torsade de pointes(Tdp)の機序の説明もここに加えてほしかったとも思った。さらに欲をいうならば,章の配列に工夫があってよいのではなかろうか。QTの基礎,計測から始まるのはよいとして,先天性異常,類縁疾患,後天性あるいは薬剤性異常,性差や各種病態のQT異常,という程度の大きな枠の中にそれぞれをまとめてあると読みやすいであろうと思った。

 一読して,イオンチャネル構造の中にみる遺伝子変異,その知識が日常的に生かされつつある今日の診療の現場を改めて認識できた。心電図の時代となって100年余り,90年が経って,チャネルに関わる遺伝子変異が発見されて,心電図の理解は急速に深まりつつある。一人の人の生涯の間といえる程のほんの短い間の医学の巨大な進歩に目を瞠る思いがあった。

B5・頁276 定価6,720円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00508-1


内視鏡所見のよみ方と鑑別診断 上部消化管
第2版

芳野 純治,浜田 勉,川口 実 編

《評 者》飯田 三雄(九大大学院教授・病態機能内科学)

一般的な症例から稀な症例まで内視鏡診断の必須知識が1冊に

 芳野純治,浜田勉,川口実の3氏によって編集された『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断――上部消化管 第2版』がこのたび出版された。破格の売れ行きを示した初版の上梓から早くも6年が経ち,企画の意図は初版のまま,内視鏡写真の変更・追加,新しい項目や症例の追加など内容の充実が図られている。その結果,初版より頁数が約1.3倍に増加したそうであるが,日常臨床の現場で常に手元に置いておくのに適したサイズは維持されており,初版以上に好評を博することは間違いないと考える。

 消化管の形態診断学は,内視鏡,X線,病理,それぞれの所見を厳密に対比検討することによって進歩してきた。毎月第3水曜日の夜に東京で開催される早期胃癌研究会は,毎回5例の消化管疾患症例が提示され,1例1例のX線・内視鏡所見と病理所見との対比が徹底的に討論されており,消化管形態診断学の原点とも言える研究会である。この研究会の運営委員およびその機関誌である雑誌『胃と腸』の編集委員を兼務している本書の編集者3氏は,いずれもわが国を代表する消化管診断学のエキスパートである。本書は,“消化管の形態診断学を実証主義の立場から徹底的に追求していく”という『胃と腸』誌の基本方針に準じて編集されているため,掲載された内視鏡写真はいずれも良質なものが厳選されている。また,内視鏡所見の成り立ちを説明すべく適宜加えられたX線写真や病理写真も美麗かつシャープなものばかりである。

 本書では,第1章から第3章までが「消化管内視鏡検査の基本的事項」,第4章が「所見からみた診断へのアプローチ」,第5章が「生検組織診断の基本的知識と考え方」,第6章が「内視鏡診断と治療に必要な基本的知識」によって構成されており,これから内視鏡検査を始めようとする初学者から,かなりの経験を積んだベテランの内視鏡医まで幅広く役立つ内容となっている。

 特に,全体の約75%の頁数を占める第4章は本書の根幹部分と言える。この章では,咽頭・喉頭,食道,胃,十二指腸の部位別に,各所見ごとに鑑別すべき疾患の頻度,所見のよみ方,基本病変における鑑別診断のポイント,典型写真・シェーマなどが示されており,個々の所見についての全体像がまず把握できるようになっている。そして,次頁からの見開きの左頁は内視鏡写真2-8枚とその右端に所見が記載されている。見開きの右頁には,内視鏡写真のシェーマと,X線,超音波内視鏡,病理肉眼・組織写真など診断の参考・根拠となる写真とともに,診断名,疾患の解説,治療方針が簡潔に記載されている。したがって,最初に左頁の内視鏡写真のみを見て所見のよみ方や診断の正否を確かめることができ,消化器内視鏡学会の認定医試験の受験にも役立つように配慮されている。掲載された症例は,ポピュラーな疾患から比較的まれな疾患まで多種類に及んでおり,日常臨床で診断困難な症例に遭遇した際などにも本書は大変有用であろうと思われる。

 近年,食道癌と胃癌に対する内視鏡的治療が普及するのに伴い,正確な深達度診断の重要性が求められている。そこで,本書では,新たに食道癌と胃癌の深達度診断の項目が加えられた。肉眼型別に内視鏡写真を呈示しつつ,X線所見や病理所見との対比という視点から解説されており,形態診断学の真髄にも触れることができる内容となっている。

 このように,本書はすべての消化器内視鏡医にとって,大変参考になる必携の書と考える。

B5・頁432 定価12,600円(税5%...

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