医学界新聞


早期から適切な血液培養の実施を

対談・座談会

2008.03.10



【対談】

More Blood Cultures Save More Patients' Lives
早期から適切な血液培養の実施を

岩田 健太郎氏(亀田総合病院/総合診療・感染症科部長)
Michael Towns氏(米国感染症専門医)


 「38℃以上の熱がないと血液培養はやらない」,「広域スペクトラムの抗菌薬を使っているから血液培養は必要ない」,「なぜ1セットじゃ駄目なんですか」……。適切な手順とセット数で行う血液培養は起炎菌の同定に役立ち,敗血症患者の救命につながる。しかし,日本では血液培養(Blood Culture)の標準化が進まず,こういった誤解や無理解も多く見られる。エビデンスに基づいた医療を普及させるのは,研修医に期待される役割だ。

 このたび,CLSI(旧NCCLS)より血液培養のガイドラインが発行された。本ガイドラインを編纂したメンバーのひとりであるMichael Towns氏の来日を機に,岩田健太郎氏(亀田総合病院)との対談を企画した。(提供=日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)


岩田 まずはCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)の組織と,血液培養に関するガイドライン作成の経緯から教えてください。

Towns CLSIは従来NCCLS(National Committee for Clinical Laboratory Standards)として知られていた組織ですが,グローバルな観点から検査の標準化を図るために,2005年に名称を変更しました。

 菌血症の正しい診断のためには血液培養の検査手順を標準化する必要がありますが,従来のNCCLSを含め,CLSIにはこれまで血液培養に関するガイドラインがありませんでした。そこで3年ほど前に各分野の専門家から成る小委員会が組織され,2007年5月にガイドラインを公表しました。このガイドラインを利用して,世界中の施設が標準化された実施手順で血液培養を行うことを願っています。

岩田 ガイドラインを読んで,方法論が明確で,根拠となるエビデンスが詳細に示されていることに深い感銘を受けました。しかし,日本においては,いまだ血液培養が一般的ではありませんし,教育も不十分です。臨床医の多くは血液培養を日常的に行っていません。広域の抗菌薬を何度変更しても発熱が続く場合にだけ,血液培養を行うのです。

Towns そのような検査手順では,すでに抗菌薬が投与されているので血流から菌を検出するチャンスが低くなりますね。さらには,培養に必要な量の血液が採取できず,これが原因で培養結果が陽性にならないことも考えられます。こうして得られた情報は,医師を誤った治療へと導きます。

 米国集中医療学会などによるSurviving Sepsis Campaign,ならびに米国感染症学会の敗血症患者治療に関するガイドラインが提言するように,血液培養はエンピリカルな治療を始める前に行うべきです。血液培養実施後にエンピリカルな治療が開始され,培養の結果を用いて最終的な抗菌薬治療を決定すべきでしょう。

適切な狭域抗菌薬の使用が広域抗菌薬を蘇らせる

岩田 敗血症を起こしている菌を正確に同定するために,血液培養はとても重要だと私も思っています。血液培養の結果に従って抗菌薬を変えることは妥当だとお考えですか?

Towns 私はそう考えています。エンピリカルな治療がいつも正しいとは限りません。米国で行われた研究では,医師の正解率は約70-75%でした。これは,患者の約25-30%が適切な治療を受けていないことを意味します。

岩田 3人に1人の割合ですね。

Towns そうです,実に多くの患者です。しかし,たとえ最初の抗菌薬投与が不適切であったとしても,血液培養の結果を利用して適切な抗菌薬に変更できれば,最初から適切な治療をした場合と比べて患者の死亡率にそれほど大きな違いはありません(表)。逆にそのまま不適切な治療を続ければ,死亡率は倍増します。それに,より特異的な狭域抗菌薬に絞り込めば,病原菌が抗菌薬耐性を生ずる可能性も低くなります。

 治療の違いによる死亡率の差
●たとえ初期のエンピリカルな治療が有効でなくても,早期に血液培養が実施され,血液培養の結果に基づいた適切な治療を行えば患者の死亡率は低下する。
初期治療 血培陽性後 感受性検査後 死亡率 死亡リスク
A A A 10.5 1
I A A 13.3 1.27
I I A 25.8 2.46
I I I 33.3 3.18
A=適切な治療
I=不適切な治療
Clin Infec Dis 24:584-602, 1997

岩田 そうですね,日本は,よりスペクトラムの広い抗菌薬を開発することによって耐性菌に対処してきました。1960年代以降この戦略を採用してきていますが,その結果この戦いに敗れつつあります。

 私は血液培養を,昔から使用されてきた狭域抗菌薬を適切に使用し続けるための戦略として捉えています。それは逆に,広域抗菌薬を有効にすることにもつながります。我々は現在,地球上に存在するいかなる抗菌薬でも治療できない可能性のあるカルバペネム耐性のシュードモナスや,アシネトバクターに直面しています。しかし,カルバペネムの使用を制限すれば,カルバペネムに対する感受性が復活するでしょう。血液培養によって適切な狭域抗菌薬を選び広域抗菌薬の使用を制限すれば,広域抗菌薬の感受性が復活するのです。

Towns その哲学にまったく同感です。それによって広域抗菌薬は市場に長い間存続できるようになり,臨床医が行う患者への治療において,臨床的有用性を持ち続けることができるでしょう。

岩田 つまり,これは広域抗菌薬対狭域抗菌薬という問題ではありません。血液培養の使用が,両者にとってプラスになるということですね。

1セット採取では絶対に駄目

岩田 1エピソードあたりの血液培養セット数についてはどうお考えですか?

Towns この問題は,CLSI血液培養ガイドラインの重要事項のひとつです。敗血症が疑われ...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook