田中和豊氏に聞く
バイタルサイン・検査データからみる救急初期診療
インタビュー
2008.03.10
バイタルサイン・検査データからみる救急初期診療
田中 和豊氏(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)に聞く
救急の現場では,限られた時間の中でいかに無駄なく適切な診察や検査を選択し,得られた検査データを解釈し,マネジメントするかが重要となる。同時に救急外来は研修医にとってプライマリ・ケアを学ぶことのできる貴重な場でもあり,救急で学ぶべきことは多い。しかし,実際には検査それ自体が目的となっていたり,データのみを見て生身の患者を診ないといった問題も多い。
『問題解決型救急初期診療』の姉妹本である『問題解決型救急初期検査』をこのたび上梓した田中和豊氏に救急診療のポイントについて聞いた。
――救急の臨床現場における問題にはどのようなものがあるでしょうか。
田中 日本の医療全体に言える話ですが,医療の人間ドック化です。初期診療でも「とりあえず何でも検査する」という傾向があり,診断や治療,その後のマネジメントを考えてどういう検査が必要かを判断したり,検査の優先度を考慮するという感覚が乏しいのです。
とりあえず検査をして,検査値が異常だったら「異常」,そうでなければ「正常」。実際の医療はそんなに簡単にはいきません。検査値が異常でも正常な人はいますし,その逆もあります。それを見抜くのが医師の仕事なのですが,できていない場面が多いですね。
検査値の異常から原因を探ると同時に,治療も行わなければなりません。鑑別診断を挙げて致死的な疾患は何かを考え,高カリウム血症のような場合は何はともあれ先に治療しなければいけません。そういった判断を含め,現在おろそかにされている診断学に加え,検査学というものを頭に入れてほしい。診断・検査・治療の3つで「リング」をつくることによって,より的確に診断し,より効率いい検査ができ,よりよい治療ができると思います。
――「とりあえず」で検査を行ってしまう理由は何でしょう。
田中 長い間,日本全体でそういう習慣があったためです。何でも検査をするという風潮は,昔は欧米にもありましたが,医療経済や効率を考えて見直されるようになりました。いま,日本でもDPCの導入が進み,医療の効率化が注目されてきています。
現在のEBMに則り,有効な検査を選択する。感度,特異度といった数学的指標で検査を評価し,必要で十分な検査計画を自分で組み立てる。それが医師の仕事だという考え方が今の日本の医療にはまだ足りません。今後,医師一人ひとりが効率的な検査を心がけないと病院は生き残れないと思います。
治すのは「検査値」だけではない
――救急外来では患者さんを帰すか否かの判断が重要です。
田中 これもやはり,検査値に異常がないからといって正常だとは限りません。全部のデータが正常でも,明らかに全身状況が悪い患者さんもいますので,そういう場合は帰してはいけません。これは医師としてあたり前ですが,実際には帰してしまう人がいる。それは検査を絶対視しているからだと思うのです。検査には限界があるので,その限界を知ってほしいですね。限界を知っていれば,検査ではピックアップできない何かが起こっている,と考えることができます。検査値だけを見ている医師は,「はい,検査しました。採血大丈夫です。画像大丈夫です。何もないですよ」と帰してしまい,あとから重い病気がわかったりする。われわれが治すのは検査値という数字だけではなく,患者さん自身なのです。検査を通して人間を診ていることを忘れないでほしいですね。
総合力がカギとなる
――『問題解決型救急初期検査』では身体診察,血液検査から心電図,感染症まで幅広く網羅されていますが,特に力を入れた項目はありますか。
田中 あえて言うなら全部ですね。診断や治療を行う際には,あらゆるデータすべてをもとにします。もちろん,何か1つの検査値が決定的な証拠になることもありますが,最終的な治療を決めたり,入院させるか,帰宅させるかを判断する時には,総合的に判断します。患者さんを治すには,内科と外科の両方がわかる能力をもって,軽症から重症まで全部を診ることができないといけません。患者さんによって,何が決定的な証拠になるかわからないので,全部が大切なのです。
ですから,セッティングは救急外来を前提としていますが,すべての外来,および病棟でも使えると思いますし,集中治療室でも役に立つような内容になっています。基本的な生理学的検査について,どういうときに行うか,異常があったらどう解釈して,どう治療するかについて記しました。
――具体的な項目に沿って,臨床ですぐに使えるポイントをお願いします。
田中 まずはじめに,検査の原理について書きました。なぜ,どういう検査をどういう組み合わせで行うのかを理解してほしいのです。この本では全般的に原理を重視していますが,それは,暗記ではなく理解したこと...
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