医学界新聞


日本初のメダル獲得!

寄稿

2008.02.11



【寄稿】

日本初のメダル獲得!
第2回EBM国際大会奮闘記

西崎 祐史(聖路加国際病院・内科専門研修医)


 2007年11月24-25日に,台湾・台北に位置する国立台湾大学医学部にて,第2回EBM国際大会が開催された。参加国は台湾,日本,韓国から合計12チーム。国際大会というよりはアジア大会の規模ではあるが,強豪ばかりが集まった。

 第1回大会は,2006年に台湾・台北で開催された国際内科学会の一部として行われ,私も参加したのだが,その時は予選リーグにて惜敗し,涙をのんだ。私にとって今回は,一昨年の雪辱を果たすべく,リベンジマッチだった。今大会をともに戦い抜いた勇士は,私が最も信頼している後輩たちであり,聖路加国際病院での内科研修を一緒に歩んできた森信好君,野村征太郎君であった。

EBM国際大会の概要

*大会の概要を説明する。与えられたケースシナリオに対して,検索ツールを駆使し,その場でEBMに基づいた最良の医療を検討し,発表する。
・チーム構成は1チーム3名で,そのうち1名はMD。
・与えられる時間は2時間30分(初めの30分でPICOを作成し提出する)。
・検索ツールは,PubMed,UpToDate,DynaMed,MD Consult,他であり,各チーム,1人1台ずつインターネットに接続されたパソコンが与えられる。
・与えられた2時間でパワーポイントを用いてスライド作成する。
・プレゼンテーションは英語。時間は12分間。
・予選リーグは3グループに分かれ,それぞれのリーグを勝ち抜いた3チームが決勝リーグに進出し,決勝戦を行う。
・賞金は,予選グループの第1位,決勝リーグの優勝チームに各US500ドル。

*審査員は5名で,採点項目は事前に伝えられている。以下が採点項目。
・PICOを正しく挙げているか(20点)
・文献検索の仕方はどうか(10点)
・文献検索の結果(10点)
・論文のエビデンスレベル(10点)
・論文の批判的吟味(20点)
・要約(10点)
・患者へのフィードバック(20点)

奮闘記――メダル獲得に至るまで

大会前夜のミーティング
 普段はなかなか業務が忙しく,3人で集まることのできる時間はなかったが,大会前日夜に台北で宿泊したYMCAの1階にあるロイヤルホストに集合し,ミーティングを行った。

 前回大会を経験していた私は,2人に実際の大会の流れを説明した。本番で使用するスライドは事前に準備し,試合当日の役割分担を決めた。私が全体の統括とスライド作成,森君はプレゼンテーション(彼は英語も流暢であるが,なぜか中国語も得意としている),野村君は文献検索(彼は風貌通り,的確でスピーディーな検索能力を持つ)と,それぞれが得意としている分野を担当とした。

予選グループ,心をつかんだプレゼン
 会場への集合時間は,午前8時。早めにYMCAロビーに集合した3人はやや興奮気味に,またいつもの調子で楽しい雰囲気で会場へ向かった。途中の道で,中華粥を購入しお腹を満たした(暗いのになぜかサングラスをかけている森君が中国語でオーダー)。お腹を満たした3人は,会場に到着し,いよいよ初戦を迎えた。

 初戦のケースシナリオは,“ACSでステント挿入後,抗血小板薬を2剤併用している患者が消化管出血でERに来院した”というシナリオであった。私たちは,持ち前のチームワークのよさを最大限に発揮し,常に3人で議論しながら,一歩一歩前に進んでいった。あっという間の2時間であったが,満足のいくPICO,文献検索,検索した論文の批判的吟味,要約,患者へのフィードバックが完成した。

 患者へのフィードバックでは,前回の経験を生かし,劇を披露すべく準備した(前回優勝したマレーシアのチームは患者へのフィードバックの部分は3人で患者,医者役に分かれて劇をしていた)。実際のプレゼンテーションでは,森君が得意の中国語で挨拶し,会場の人たち(審査員を含む)の心をつかんだ。彼のテンポのよいプレゼンテーションも好印象で,患者,医者の劇も反響を呼んだ。満足のいく発表ができた。

 採点されている時間は非常に長かった。満足のいく発表ができたから余計にそのように感じたのかもしれない。野村君は,晴れやかな顔をして結果を待っていた横で,森君は不安気な表情をして,「他チームの完成度が高いですね。やばいかもしれませんね」と言っていたのが印象深かった。私は手ごたえ十分だったので,非常に冷静に結果を待つことができた。

 そして,結果は断然トップであった。決勝リーグ進出が決定した瞬間は何にも代え難い至福のときであった。興奮醒めないままに,乗りに乗っていた私たちは決勝戦に臨んだ。

そしていよいよ決勝リーグ
 決勝戦のケースシナリオは,図のとおり。違法ドラッグを常習していた24歳男性の初発の痙攣発作に対して,予防するための手段,アドバイスを問う問題であった。救急外来では初発の痙攣はたくさん経験していたが,違法ドラッグ常習者という状況は3人とも経験がなく一瞬怯んだが,またしても持ち前のチームワークで満足のいくスライドを発表することができた。

 結局台湾チームに敗れたものの,決勝リーグ進出,銀メダル獲得の結果を残せた。研修医3人で大会に乗り込み,荒削りながらも普段やっていることをそのまま自然な形で出し切り,このような結果を得たことには大変満足している。そして,大会主催者の1人に,「よい病院で研修しているんだね。僕は君たちの発表が実際の臨床の現場ではいちばん正しい判断だと思い,最高点を与えたんだよ」と言われ,普段の臨床でやっていたことがEBM国際大会という場を通じて認められたことが素直に嬉しかった。

EBMの面白さと今後の抱負

 最後に私たちの発表した実際のスライドや採点結果を紙面に載せたかったのだが,記事の字数制限もあり,残念ながら今回はお見せすることはできない。またの機会があれば,そのときにはぜひ発表したい。

 実際の臨床はスピードも要求されるために,EBMを実践するには,文献検索から批判的吟味まで15-20分程度しかかけられない。台湾内科学会・EBM国際学会の締めくくりの言葉でも,「スライド作成がなければ,20分程度でできるはずであり,臨床現場で実践してほしい」とのコメントがあった。EBMは医療にとって必要なことであり,今回の貴重な経験を生かし,今後も勉強を続けていきたいと思う。個人的な抱負になるが,次回も同じメンバーで参戦し,今度は優勝したい。

 臨床に大切な要素は,(1)病態生理の理解,(2)EBM(文献検索),(3)実践(経験)の3つであると,私なりに考えている。そのバランスが大切であり,バランスを意識したうえで,EBMの技術も磨いていきたい。

 最後に,ともに戦った森君,野村君,そしてご指導賜りました福井次矢先生,徳田安春先生,本当にどうもありがとうございました。

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