医学界新聞

2008.01.28



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


精神障害のある救急患者対応マニュアル
必須薬10と治療パターン40

宮岡 等 監修
上條 吉人 執筆

《評 者》横井 志保(東京武蔵野病院・精神科専門看護師)

精神障害を有する患者に関わる医療スタッフに薦める良書

 精神障害のある患者が身体合併症を併発すると,精神機能やコミュニケーションの障害のために,医療者が介入する場面(必要な検査,治療の受け入れ,日常生活行動の援助など)で困難を感じることは少なくない。また,精神症状の悪化や向精神薬の副作用による状態変化が身体状態の悪化と判断されたり,その反対に何らかの身体状態の変化が精神症状の悪化と判断されて必要な援助や治療が提供されなかったり遅れたりする場合もある。そのため,精神障害のある患者に介入する際には,通常のフィジカルアセスメントに加えて,精神疾患や精神科治療薬の薬理作用などの幅広い知識に基づき,精神症状と身体症状を適切に見極めることのできる高度なアセスメント能力が重要になってくる。

 本書は精神障害のある患者に対し,身体治療とその援助に一刻を争う救急医療の場面における診断・治療・対応について,救急と精神の両科に精通する医師によって記されたきわめて実践的なポケットサイズの治療マニュアルである。

 まず「救急医療における精神科必須薬10」では,救急医療の場面での精神科的問題におおむね対応できる代表的な精神科治療薬を取り上げ,各薬剤の特徴や薬理について理解することができる。この後に控える「救急外来編」と「救急病棟編」の内容とも併せて,幅広い視点からの患者の適切なアセスメントや治療・対応の理解・選択,医療者間の協働に活用できる充実した内容である。

 また本書のメインである救急医療で遭遇する精神障害については,「救急外来編」「救急病棟編」で解説される。いずれも,「診断のポイント」「対応のポイント」「治療のフローチャート」「精神科医への申し送りのポイント」という一定の枠組みの中で,著者自身の豊富な臨床経験に基づく実践的で具体的な知識に研究文献からのエビデンスを交えながら理論立ててわかりやすく記されている。前者の「救急外来編」では,幻覚妄想・昏迷などの精神症状,急性薬物中毒や過飲水による電解質異常などに起因する中枢神経症状,その他腹部症状,呼吸・循環器症状など30症例が示されており,後者の「救急病棟編」では,統合失調症・うつ病,せん妄や脳外傷後の精神障害,抗精神病薬の副作用など10症例が挙げられている。

 特筆すべきは,「自殺企図患者を救命するべきか」「精神障害者の身体合併症はなぜ重症化するのか」などの疑問に「心も身体も救う」医療者として著者が答える「救急医療における精神障害Q&A」である。精神障害のある患者は,対応の困難さや疾患そのものに対する偏見から救急医療の場では敬遠されがちであったが,このような旧弊を戒め,医療スタッフの理解や認識を転換する必要性を述べた部分に,意を同じくする読者も多いのではないかと考える。

 本書は救急医療の現場で働く医療スタッフのみならず,単科精神病院で働く者やリエゾン精神医学の分野で働く者など,初学者からベテランまで精神障害を有する患者に関わる医療スタッフに幅広くお薦めしたい良書である。

B6変・頁312 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00496-1


一目でわかる薬理学 第5版

佐藤 俊明 訳

《評 者》川村 将弘(慈恵医大教授・薬理学)

多くの情報を図に盛り込み開けば一目で理解できる

 “薬”は病気の治療になくてはならない化学物質であると同時に,生体の機能調節機序を研究するうえで重要な役割を果たしています。したがって,薬理作用の基本,体内動態,複数の薬物を服用した場合の相互作用,また個々の薬の薬理作用,作用機序,副作用を知るために薬理学を勉強する必要が出てきます。そこで,薬理学の教科書を読むことになるのですが,薬理学の網羅する領域は膨大で,臨床医学はもとより,解剖学,生理学,生化学を含んでいます。そのうえ,薬に関する情報量は増加の一途をたどっていますので,薬理学教科書は年々分厚くなっていき,日進月歩の薬理学の知識を十分に自分のものにすることは非常に難しくなっています。

 そこで,膨大な情報の中から,薬について学ぶ人にとって最小限知っておくべきものを選択記載した教科書が幾つか出版されています。その中でも『一目でわかる薬理学』はこれまでの教科書と異なり,45章のそれぞれを見開きの2頁にまとめ,左側1頁のほとんどは,その章に関連した薬物の名前と作用点を盛り込んだ図に費やされています。そして説明文は思い切って簡略化されていますが,図に多くの情報が盛りこまれており,まさに図を“一目みれば”目的の薬の作用点や作用機序の要点が理解できるようになっています。

 薬理学を学ぼうとする人は,講義を受けたり,分厚い教科書を読む前に本書に目を通し,全体像を把握したうえで,学習する項目の概要を頭に入れて臨むと理解度が深まると思いますし,一通り薬理学を学んだ人にとっては,薬の知識を整理するために役立つと思います。

 近年,薬に対する世間の関心が高まってきており,病気治療に大なり小なり関与していると,否応なしに患者さんから自分が服用している薬についての説明を求められる機会が多くなっています。したがって,比較的簡単に当該薬物について調べるうえで,本書のように時間をかけずに個々の薬物に関しての情報が得られる教科書は存在価値があると思います。いまや薬の情報収集は医歯薬学生のみならず,看護学生を含めたコメディカルの学生にとっても必要な時代に入っておりますので,今回出版された第5版は,訳者を替え,専門的用語や文章をよりやさしい言葉で表現しています。したがって,読者は第4版より一層“薬理学”を身近に感じると思います。まず,本書から“薬”の世界に入っていってください。

A4変・頁112 定価2,520円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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