MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.01.21
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
コミュニケーションスキル・トレーニング
患者満足度の向上と効果的な診療のために
松村 真司,箕輪 良行 編
《評 者》有賀 徹(昭和大教授・救急医学)
患者満足の側面からも医療従事者に読んでほしい書
このたび松村,箕輪両氏の編集による『コミュニケーションスキル・トレーニング――患者満足度の向上と効果的な診療のために』が出版された。その帯には「ベテラン医師を対象とした云々」とある。患者面接などに関する実践的な手法については,最近の医学部での教育や臨床研修医の採用において用いられていて,自らもおおよそのことを知ってはいたが,「ベテラン医師」から見ても確かに一読するとうなずくところが多々ある。さて,日本語はもともと敬語が発達していて,対話する相手との距離などを測りながらそれを巧みに使うことになっていて,そこにこそ言わば教養のなせるわざがある。したがって,医師はこの面でも研鑽すべきだろうと自らは漠然と考えていた。本書にはさすがにそのような言及はないが,それよりもっと基本的な面接などに関する体系的な仕組みについて解説されている。コミュニケーションスキル・トレーニングなどという教育が微塵もなかったわれわれでも,本書にある標準的な仕組みを頭に入れて医療を展開するなら,内科診断学やSings & Symptomsの基本である患者情報をまずは効果的に得ることに役立つ。引き続く治療についても患者に大いにその気になってもらううえで,この体系的な仕組みを実践する意義は大いにあると言うべきであろう。
そして,それらに加えて,患者の満足という側面で本書がわれわれに教えてくれるものは大きい。まずはサイエンスになりにくいと思われた患者満足というテーマが,コミュニケーションスキルとの関連で解説されている。それが訴訟などの事象にも,十分に関係していることも理解できる。端的に言うなら,評判の悪い医師について何がどのように困った点なのかを分析的に評価することもできるということである。
以上により,若手の医師らが本書を紐解くことは,自らが受けた教育について体系的な整理を行い,もう一度自らに磨きをかけることに役立つであろう。そのような教育と無縁であった医師やその他の医療職には,患者とのコミュニケーションについてここに示された体系立った標準的な方法論があって,数多くの例示にならいながら,その仕組みを自らの日常に取り入れることが,上記の諸々の側面で有用であろうと考える。このことに加えて,美しい日本語をきちんと使用できているなら,そのような医師,または医療チームは,コミュニケーションスキルにおける“匠の域”に達するように思われる。というわけで,医療に携わる方々にはぜひともお読みいただくことをここに望みたい。
B5 頁184 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00450-3
伊藤 絵美,向谷地 生良 著
《評 者》松王 強(財団法人河田病院(岡山市)/医師)
形から入れ!中身は後からついてくる!!
認知行動療法が進化した姿浦河べてるの家に関心のある者にとって役に立つ新しい本が現れた。伊藤絵美+向谷地生良著『認知行動療法、べてる式。』である。この本はべてるの家で行われているさまざまなことを,心理療法の一つである認知行動療法の視点から解説する。ひとことで言うと,べてるで行われていることは認知行動療法が進化した姿であり,われわれは認知行動療法に関してべてるから多くのことが学べるというのだ。
伊藤氏は「長いまえがき」のなかでこう書いている。
《べてる的活動は,この浦河でなければ,向谷地さんでなければ,べてるの当事者でなければできないものではないはずだ。……しかしべてる的活動を,どういう考え方に基づき,どういうやり方でやったらいいか,それを示さなければ,「べてる的にやればよいのだ」と言われても,当事者や周囲の人は困ってしまうだろう。私たちの専門とする認知行動療法が役立つとしたら,この点においてなのではなかろうか》
「内面より形」のすがすがしさ
たしかにこのDVD付きの解説書を読めば,だれでも形だけは当事者研究やSSTを始めることができると思う。いま「形だけは」と書いたが,否定的な意味で言っているのではない。なぜなら向谷地氏は『精神看護』2007年3月号の「技法=以前」という連載でこう書いているからだ。「形から入れ」と。そして「中身はあとからついてくる」と。
そうか,形だけでいいんだ。なんだか希望がわいてくるなぁ。練習すればなんとかなりそうだし。精神科領域なのに,べてるは心の中に踏み込まないからいい。メンバーの松本寛くんも「頭のなかでいくら人を恨んだり,ぶっ飛ばしたりしても大丈夫。おこないさえしなければいいんだよ」と言っている。
この「内面より形」という一見逆説的な表現は,当事者だけでなく私たち専門家の心をも軽くしてくれる。いかにもべてるらしい不思議な言葉だと思う。
いつの間にか「べてる的な精神」が……
本書でも詳しく紹介されているSST(Social Skills Training)について向谷地氏は,「じつをいうと,学生時代から私はこの手の“アクション・メソッド”が大嫌いな人間である。こんな子どもだましのようなロールプレイが,人のかかえる人生課題の解消に役立つはずがない」と思っていたそうだ。
私も長い間,なんでSSTなんてものをするのか,いまひとつ理解できなかった。そして,「本やビデオを見たり研修に参加すれば,見よう見まねでべてる的な活動を始めることは可能かもしれないが,地域全体にべてる的な考えが浸透しなければ成功しないはずだ」と思い込んでいた。
しかし,『認知行動療法、べてる式。』を手にした今はこう思う。形だけを真似ることによって,「べてる的な精神」までがいつの間にか身についていることに驚くときがくるかもしれない,と。
四六変・頁240 価格5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00527-2
画像診断シークレット 第2版
大友 邦,南 学 監訳
《評 者》荒木 力(山梨大教授・放射線科)
好評の「旧版」をより充実させた中身の濃い一冊
「こんなことってあるの?」と目を疑いたくなるような「改訂版」である。すでにファンとなった読者の方もおられたと思う『画像診断シークレット』が改訂され,『画像診断シークレット第2版』として,前回と同様東京大学放射線科有志の翻訳によって出版された。ところが,これはどこにでもある「改訂版」ではない。確かに形式は「旧版」を踏襲しているが,驚くべきことに著者が全員入れ替わり,内容も一新されている。「旧版」はニューヨーク州立大学放射線科のスタッフによる執筆であるのに,「第2版」の執筆者は全員がペンシルベニア大学放射線科の所属である。「旧版」が北大放射線科で執筆されたのに,「第2版」は九大放射線科で執筆したのと同じで,その経緯を知りたいとつい思ってしまうのは私だけではないだろう。
「旧版」が2515問を扱っているのに対して,「第2版」は1927問に絞られているが,本文のページ数は659から675に増えており,必要なことをていねいに説明するという姿勢が貫かれている。好評の「旧版」をさらに充実させた内容である。
「第2版」に新たに加わったXIII章は「職業としての画像診断」で,米国の放射線科医を教育するシステムと画像診断における医療訴訟が取り上げられている。日本では関係ないなと思って読んでみると,これが実に面白いし教育的である。例えば,バリウム注腸検査の報告書に「脾弯曲に急峻な棚状の輪郭を有する造影欠損があり,悪性腫瘍を除外できない;臨床適応があれば結腸鏡が有用かもしれない」というような報告書を書かないように戒めている。どこがいけないのかって? 『画像診断シークレット 第2版』を見てください。
B5変・頁724 定価8,820円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/
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