もうひとつの生命のかたち(福岡伸一)
動的平衡とケア
インタビュー
2007.12.17
【interview】
福岡伸一氏(青山学院大学教授・分子生物学)に聞く
もうひとつの生命のかたち
動的平衡とケア
2008年の『看護学雑誌』新春スペシャル・インタビューは,福岡伸一氏(青学大)に聞く「もうひとつの生命のかたち-動的平衡とケア」。新たな年のはじまりにあたり,「生命とは何か」を問い直します。弊紙では一足早く,ダイジェストでお伝えします。全文は『看護学雑誌』1月号をご覧ください。
機械論的生命観,その起源
――ご著書『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書,2007)が35万部を超す大ヒット。本書では,「生命とは何か」というテーマが「動的平衡」(dynamic equilibrium)というキーワードのもと,わかりやすく,またスリリングな語り口で展開されていました。
福岡 本書の前半部分では,私たちが一般的に受け容れている生命観である「機械論的生命観」に触れました。それはつまり,「生命とは,ミクロなパーツの組み合わせからなるメカニズムである」という考え方ですね。
たとえば私たちは,「薬が効くメカニズム」「呼吸のメカニズム」といった言い方をする。メカニズムという言葉は機械論そのものなわけですが,こういう言い方を自然と採用してしまうくらい,われわれは機械論的な生命観を深く受け入れてしまっているわけです。
こうした機械論的な生命観の起源には,デカルトらをはじめとする西洋の思想家たちの系譜があります。呼吸なら鞴(ふいご),関節だったら滑車というふうに,その仕組みを機械に置き換えながら考えるという発想が昔からあったわけですが,分子生物学的な観点では,機械論的生命観が支配的なものとなるきっかけは,何といっても1953年,ワトソン&クリックによる,DNAの二重らせん構造の発見ということになります。
ワトソン&クリックの前後にもさまざまな研究者がこの分野で成果を挙げていますが,それらすべてを含めた「DNAとその機能の発見」が,機械論的な生命観の出発点となった。その理由は,DNAの構造にあったと私は考えています。DNAの二重らせん構造というのはご存じのとおり,2本の鎖が絡まった,フィルムのポジとネガが合わさったようなものですが,それらは2つに分かれたあと,それぞれポジをもとにネガを,ネガをもとにポジをつくることができます。
つまり,DNAが持つ自己複製という機能は,まさにこの「二重らせん構造」という構造そのものの中に内包されているのだということです。この発見が,機械論的生命観の出発点となった。ほかならぬDNAの構造が,機能と1対1に対応していたことのインパクトは非常に強く,これ以降,生物学の分野では,構造と機能の一対一対応を暗黙の前提,原則とする理解が定着しました。
自己複製=生命?
福岡 DNAの二重らせん構造の発見と,そこから支配的になった機械論的な枠組みで生命を定義づけるなら,「生命とは自己複製するものである」ということになります。生命の根幹であるDNAの構造自体が自己複製できる機能を持っていたわけですから,これは当然といえるでしょう。
ところが,私たちが日常的に「これは生...
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