医学界新聞


「21世紀の医療と医療システムを求めて」をテーマに

2007.12.10

 

第2回「医療の質・安全学会」開催

「21世紀の医療と医療システムを求めて」をテーマに


 一昨年,医療安全の学際的研究をめざし発足した「医療の質・安全学会」の第2回学術集会が,さる11月23-25日,上原鳴夫会長(東北大)のもと,東京国際フォーラムで開催された。研究や技術の進歩に支えられた医療やシステムの現状とその課題を検証し,よりよい明日に向かっていくために,多彩な演題が企画された。弊紙ではこの演題のなかから報告を行う。

 ワークショップ「医療安全の観点から見たヘルス・プロフェッショナルズの人材育成」(司会=東医大・松岡健氏,聖路加看護大・井部俊子氏)では,医歯学・看護学の卒前・卒後教育の第一人者により,順次性に基づいた今後の医療安全教育について考察がなされた。

 現在,医学の卒前・卒後の医療安全教育では,到達目標は示されているが,統一プログラムや標準的な教育ツールはなく,実践は各施設に任されているのが実情。施設ごとの教育内容についても,先ごろ文科省で情報収集が開始されたばかり。ゴールはできたが,実践と質の評価はこれから,という状況だ。

 このようななか,本学会と日本医学教育学会は合同ワーキンググループを立ち上げ,すべての医療従事者への卒前から生涯教育に至るまでの実践的で効率的な医療安全教育を導入するための具体的な方策の立案,教育モジュールの作成をめざしている。

 中島和江氏(阪大)は“誰に対して,いつ,何を,誰が教えるか”を吟味することが重要と指摘,「場当たり的でない,学生の教育カーブを踏まえたカリキュラム作成が求められる」と述べた。また医療安全に関しては,経験知に基づき実践的に教育できるスタッフが臨床現場に揃っているとし,「卒前-卒後の教育現場をつなぐ部門の立ち上げや,国内全体で行われているさまざまな教育的知見の集約を行うマネジメント体制の構築が求められる」と強調した。

 また,森本剛氏(京大)は「多職種での医療安全教育が求められるなか,隣の保健学部,薬学部の教育内容をお互いによく知らないのが実情」と指摘したうえで,「学部を超えて教育者同士が交わり,全体のデザインを行うことが必要」と今後の課題を提示した。

 看護基礎教育では,2009年度のカリキュラム改正で新設される統合分野に,チーム医療を前提とした医療安全教育が盛り込まれた。坂本すが氏(東京医療保健大)は「特に医療安全においては“看護だけが独自の言葉で”という考え方には限界がある」とし,医療者が共通言語をもつ必要性を確認。そのうえで「他職種とつながっていることを実感させる教育が必要」と述べ,研修医と看護師の協働研修とその効用について実例を挙げて紹介した。同時に坂本氏は「医療安全は,方法を教えたから実践ができるわけではないが,危機を予知できるためには,リアルなケーススタディの教育が必要」と指摘した。

 一方,医療安全教育を行う教育者不足が指摘されている。これに対し,北村聖氏(東大)は「生涯教育が必要な分野であり,医療安全教育指導者の育成が急務。指導者の認定制度も求められていくのではないか」と述べた。

 演題の締めくくりとして,井部氏は「医療に携わるすべての職種が対等に発言できることが重要」とし,また松岡氏も「医療安全教育には,相手の立場で考えること,教育全体を横断的に俯瞰するデザイン能力が求められる」とし,両氏そろって医療者や,各教育関連学会の協働の必要性を強調した。

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