医学界新聞

対談・座談会

2007.12.10

 

【対談】
つくる,育てる,後期研修
前野 哲博氏(筑波大学附属病院 病院教授/総合臨床教育センター・総合診療科)
堀之内 秀仁氏(聖路加国際病院 呼吸器内科専門研修医/前チーフレジデント)


 初期研修に定評ある市中病院であっても,「後期研修はまだまだこれから」と語る指導医は意外なほど多い。一方,専門研修では優位に立つはずの大学病院においても,医局単位の運営の限界や処遇面などの課題がある。

 後期研修医の育成やシステム整備において,重視すべき点は何だろうか。本紙では,初期・後期を通して6年一貫のレジデント制度をとる筑波大から前野哲博氏,専門研修の強化を図るべく変革する聖路加国際病院から堀之内秀仁氏をお招きし,対談を企画した。


前野 初期研修の研修病院として名を馳せてきた聖路加国際病院ですが,後期研修の現状はいかがでしょう。

堀之内 初期研修が必修化されて,むしろ後期研修のほうに目を開かされた感があり,一昨年くらいからやっと後期研修についてのまとまった話し合いが始まったところです。私を含めチーフレジデントを経験した専門(後期)研修医を中心に検討が始まり,昨年からは「内科専門研修管理委員会」が立ち上がっています。こうした動きが,指導医ではなく後期研修医から出てくるのは当院の特徴だと思います。

前野 先生ご自身はどうして後期も聖路加に残ろうと思われたのですか。

堀之内 後期まで残った最大の理由は,聖路加国際病院が生粋の教育病院だったからです。ただ,教育のスタンスは一貫したものがあっても,ベルトコンベアに乗っていけば後期研修が自然に進むような状況ではありません。いま自分の必要に駆られて,後期研修のシステムを考えています。

後期へのスムーズな移行を阻むギャップ

前野 堀之内先生が初期研修をされたのは,必修化の前ですね。

堀之内 必修化前の最後の学年です。

前野 現行のプログラムとの違いは何でしょう。

堀之内 すでにスーパーローテーションでしたが,内科以外にまわる診療科の数や期間が違います。当時の内科研修医は,2年間のうち内科研修がおよそ3分の2を占めていて,救急・麻酔・外科といったところが脇を固める形でした。3年目は病棟医長として内科に専念し,内科基礎研修を終えました。

 いま「初期と後期のギャップ」ということがよく言われます。しかし,ギャップがあるというよりは,「必修化前は初期でやっていたことの一部が後期に移った」という感覚で捉えています。

前野 必修化前であれば最初から将来専攻する分野を研修していますから,3年目になるとけっこう戦力になっていたと思います。でも必修化後は,例えば内科なら「半年+選択期間」程度しか研修していません。もちろん,そのぶん他科を経験しているので臨床医としての裾野は広がっているはずですが,内科病棟で求められるのはやはり内科医としての力ですよね。すると,指導医は「以前よりも能力が下がった」と受け取ってしまうわけです。

 多くの研修医が将来自分と同じ診療科を選ばないにもかかわらず,指導医は一生懸命に指導しています。つまり,初期研修の2年間,指導医は「耐えている」わけです。そしていよいよ後期研修医が自分の科に入ってくる。「やっとこれでマンパワーとして当てにできる。当直も任せられる」と思って,ついつい必修化前の3年目と同じレベルを要求してしまう。そして期待を裏切られてしまう,というわけです。

堀之内 後期研修医自身はギャップを感じることがなくても,指導医の感じるギャップが大きいということですね。だから一生懸命やっても,指導医からは「今の後期研修医は使えない」と愚痴をこぼされながら毎日を過ごさなければならない(笑)。

前野 そうです。そのギャップは考えればあたり前なわけで,新制度が始まる段階で当然予測されたことですが,指導医もなかなかそこまで具体的にイメージできなかったのですね。各科とも,必修化を経た3年目研修医をイメージして,後期研修プログラムを一からつくり直す必要があるのだと思います。

レジデント制とは何か

堀之内 筑波大学のプログラムを拝見しましたが,ひと言でいうと「大学らしからぬプログラムだな」と思いました。大学というバックグラウンドを活かしながら,市中病院のようにフレキシブルな研修スタイルができていますね。

前野 私自身はもともと地域医療に興味があって,実は初期研修は「大学病院では研修したくない」と思っていました(笑)。結局,市中病院で3年間の内科ストレート研修を受けて,自分が興味を持っていた在宅ケアも経験したのですが,そこで整形外科や皮膚科を含む幅広い知識も必要であることを痛感しました。それで後期研修は筑波大学の「総合医コース」に入って,“地域をまるごと診る医者”をイメージして必要な研修を受けてきました。

 後期研修を大学病院で受けて感じたのは,大学と市中病院はどちらかが良くてどちらかが悪いのではなくて,それぞれ長所・短所があるということです。私が筑波大に赴任したのが2000年,ちょうど新制度の法案が通った年でしたが,「大学病院と市中病院のよさを統合したプログラムをつくりたい」というコンセプトでプログラム作成を始めました。その趣旨は今も筑波大学の研修プログラムの大きな特徴になっています。

堀之内 後期をレジデント制にしているのがポイントではないでしょうか。初期研修を終えたら医局にストレートで入る大学もありますよね。

前野 そのほうが多いと思います。

堀之内 同じように市中病院も,後期研修医の採用は診療科ごとのほうが多いと思います。聖路加もそうです。市中病院も大学病院も,それぞれ昔からのやり方にこだわっていてはうまくいかないのではないかと感じています。

前野 私が筑波大に赴任した時にまず疑問に思ったのは,「レジデント制度の条件とは何だろう」ということです。レジデント制という言葉は少し拡大解釈されて使われているように感じるのですが,「こうでなければレジデント制とは呼べない」というミニマム・リクワイアメントは何だと思われますか。

堀之内 病院以外の誰にも仕えていない,ということでしょうか。個別の診療科や講座には属さず,病院と患者さんのためだけに動けるスタッフだと思います。

前野 なるほど。今の先生のご意見と共通しているかもしれませんが,レジデント制では,レジデントは単なる診療要員ではなく,traineeとして研修プログラムに所属して研修しているわけですよね。それならば,初期研修と同様に「定員」と「期限」,それから「修了認定」があるはずで,私はこれがレジデント制のミニマム・リクワイアメントだと思っています。

 これまでの多くの大学では,医局に入局するといつ専門研修が始まっていつ終わるのかも明確ではなく,時には臨床と研究の境界すらも不明確なことも多かったと思い

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