医学界新聞

2007.11.19

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


末梢血管インターベンション
症例に学ぶベスト・テクニック

中村 正人 編

《評 者》山口 徹(虎の門病院長)

より安全で効果的なPPI普及のために

 末梢血管に対するインターベンション治療について,現時点でのテクニックを中心にまとめたモノグラフである。インターベンションの名前が示すように,末梢血管インターベンション(PPI)は冠動脈インターベンションの発展に引っ張られて進歩してきた分野である。しかし冠動脈インターベンションは,実は下肢動脈の閉塞性疾患へのカテーテル治療から始まったものである。

 1960年代にDotterにより硬性カテーテルによる動脈硬化性閉塞病変の拡張術が開発されたが,冠動脈インターベンションの創始者であるGruentzigはこれを改良してポリ塩化ビニール製バルーンにより下肢閉塞性動脈硬化症に対する経皮的血管形成術を1974年に成功させた。Gruentzigはバルーンカテーテルをさらに改良して,末梢動脈,さらに腎動脈の狭窄を拡張することに成功した後に冠動脈への応用を開始し,1977年に初めての冠動脈形成術を成功させたのである。それとは逆に今日のPPIは,冠動脈インターベンションに十分な経験を有する医師たちが冠動脈インターベンションでの洗練されたデバイス,テクニックを駆使して昔の領域へ再挑戦した賜であり,正に30年の歴史の妙である。

 本書は,鎖骨下動脈,上腕動脈,腎動脈,腸骨動脈,大腿動脈,膝窩動脈,さらに末梢動脈まで大動脈からのすべての分枝を網羅し,豊富な症例呈示を伴って具体的なテクニックが示されている。各章は総論,Basic Technique,Complication Techniqueで構成されている。総論は疾患概念に始まり,診断,評価,インターベンションの適応,治療効果などが要領よくまとめられている。Basic Techniqueの項では,穿刺法,シース,ガイドワイヤーのテクニックに始まり,ステント留置,末梢塞栓予防策,血管内エコーや体表面エコーのガイド法などすべてのインターベンションテクニックがまとめられている。Complication Techniqueの項では,生じうる合併症とその予防策,対応策が示されている。テクニックは,症例を中心に具体的な方法をアプローチ,テクニカルポイントの順でまとめられており,冠動脈インターベンションに習熟した読者にはこの症例のみを拾い読みしても十分にエッセンスを理解し習得することができるであろう。本書のタイトル通り症例に学ぶスタイルで,多くの読者が冠動脈インターベンションの術者でもある点を考えると無駄のない構成である。

 本書は冠動脈インターベンションの経験がある循環器医がPPIを始めようとする際の絶好のテクニック指南書である。冠動脈インターベンション経験者がしばしば陥りやすい,PPIは簡単だという錯覚をしないためにも,本書を一読することをお勧めする。より安全で効果的なPPIが普及することに本書が大きく貢献することを期待する。

B5・頁288 定価7,875円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00489-3


認知行動療法トレーニングブック DVD付

大野 裕 訳

《評 者》伴 信太郎(名大教授・附属病院総合診療部)

対患者アドバイスにも活きるCBTを深く理解する

 「認知行動療法セミナー」という,何回かのシリーズのセミナーに参加したかのような思いにさせてくれる本である。決して安価な本ではない(定価12,600円)が,その何倍もの価値がある。

 認知行動療法(cognitive-behavior therapy, CBT)はコモンセンス(常識)に基づくアプローチであり,以下の二つの中心的な教えに基盤を置いている。(1)認知は情動と行動に対して支配的影響力をもつ,(2)活動や行動の仕方が思考パターンや情動に強い影響を及ぼす可能性がある。

 例えて言えば「コップの水が半分に減ってしまった」と心配するのではなく,「未だ半分残っている」と安心するような考え方の切り替えや,「眠れない時は,時間を決めて早起きをしましょう。」といった行動へのアドバイスを,体系的な治療法に組み上げたものと言える。

 CBTでは自動思考の同定と修正に焦点を当てる(ここで言う自動思考とは,私たちがある状況に置かれた場合に,心のなかをすばやく通過する認知のこと)。治療者はこうして内々に放置されがちな認知の流れについて患者を教育し,患者が自己内対話できるように支援するのであるが,その支援のための種々のスキルが懇切ていねいに解説される。

 非専門家がCBTを精神療法として使おうとすると「生兵法は大怪我のもと」ということになるかもしれないが,「CBTの基本的技法を患者・家族へのアドバイスに生かす」という観点からの活用は,非常に広い適応範囲を有すると思う。CBTにおける治療関係の基本とされる“協同的経験主義collaborative empiricism”という治療者と患者がともに問題点を明らかにし,解決法を探索していく協同作業は,医療者-患者関係の築き方にもきわめて有用な示唆を与えてくれる。その意味で,本書はメンタルヘルスの専門家以外の医療従事者に広く読んでいただきたい。CBTという精神療法に対する理解が深まるとともに,日常の対患者アドバイスに活かすこともできると思う。

 訳文はよくこなれていて,翻訳本の読み難さはほとんどない。同じ原語に対して時に異なった訳語が当てられていて(【例】認知,思考)評者には少し読みづらかったが,訳者の意図があったのかもしれない。ところで,「良好な治療同盟はきわめて重要な治療の要素である。(中略)認知療法家も有能な治療者に共通の資質である誠実さ,温かさ,肯定的配慮,及び的確な配慮を治療環境で生かそうとする。」とされている。こうなると,どれほどがCBT独特の認知的/行動的アプローチの効果で,どれほどがこの治療同盟の築き方の効果なのだろうかというところが興味深い疑問として残った。

 ちなみに,本書付属のDVDは海外で臨床をしてみたいという希望を持つ人にとっては,英語での医療面接と,心理的臨床技法を一度に学ぶことができる「一粒で二度美味しい」教材であることを付記しておきたい。セミナーに参加して大野裕先生からていねいな指導をしていただいたような大変幸福な読後感が残ったすばらしい本であった。

A5・頁360 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00426-8


解剖学カラーアトラス
第6版

J. W. Rohen,横地 千仭,E. Lutjen-Drecoll 著

《評 者》小林 直人(愛媛大教授・総合医学教育センター)

解剖実習室の書見台でご遺体に臨むすべての人に

 2007年春,医学書院から3冊の解剖学アトラスがほぼ同時にリリースされた。『プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論/運動器系』(坂井建雄・松村讓兒監訳,続刊あり),『グラント解剖学図譜(第5版)』(坂井建雄監訳),そしてこの『解剖学カラーアトラス 第6版』である。

 初版の発行から言われ続けてきたことではあるが,着色された細密画を中心として人体の構造を示そうとしている他のアトラスとは異なり,本書は,解剖されてゆくご遺体そのものの鮮明な写真を用いて人体の構造の真実を伝えようとしている点が特色である。また,本書の著者として日本人の名が連なっていることにも,後輩として誇りを覚える。実際,眼底の血管の写真(134頁)などに日本の医学研究者が提供したデータが使われていることには注目したい。また,脳の各葉を色分けして着色する手法は広く用いられているが,肺に実際に種々の色の色素を注入して肺区域を鮮明に示しているのには驚かされた。その対向ページには肺区域の模式図が着色された実物に近い色使いで掲載されており,著者らのアイデアには脱帽せざるを得ない。

 実際にご遺体を解剖させていただいている実習室において,次々に明らかになってくる構造を同定するために,本書はその威力を発揮するだろう。写真撮影のために一部着色されているが,血管や神経がきれいに剖出されている様子は,実習を行う者のお手本ともなる。特に最近は医学・歯学の学生にとどまらず,いわゆるコメディカルの学生が解剖体を見学させていただく機会が増えている。その際,自らの手で剖出した場合とは異なり,立体的な位置関係も含めて種々の構造の同定がかえって難しくなると思われ,貴重な見学の機会を無為に過ごしてしまう危険性がある。そこでは,本書のような実際の解剖体の写真を解説したアトラスの存在が意義深く心強いものとなるだろう。

 また,本書には解剖体では観察しにくい構造について,病理解剖と思われる無固定のご遺体の写真が用いられている。例えば,中脳の断面(117頁)や心臓の房室弁(259頁),女性の内部生殖器(355頁)の写真などは,評者にとって新鮮なインパクトを持つものであった。日頃の解剖実習では中脳の赤核を学生に示すのに苦労しているが,本書の写真を示せば一目瞭然である。最近は体表解剖の写真を掲載したアトラスや教科書が多数見受けられるが,今後は病理学者らとの共同作業で無固定の状態の内臓や関節などの写真を記録・保存する必要があるのかもしれない。

 ご遺体の写真を補完するものとして,MRI等の写真が掲載されているが,それらの画像は必ずしも鮮明とは言えない。画像診断の技術の進歩には目を見張るものがあり,ぜひ今後の改訂で最新のデータを掲載していただきたい。もちろん,画像を読み解く力には解剖学の知識の裏付けが必要であることを,医学生や研修医の諸氏にはあらためて強調しておきたい。

A4・頁568 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00385-8


医療者のための喘息とCOPDの知識

泉 孝英,中山 昌彦,西村 浩一 編

《評 者》久保田 公宣(千藤了会理事長・院長)

喘息・COPDの治療における『コツのコツ』が詰まった一冊

 まずもって序から読んでほしい。喘息とCODPの歴史,特にここ20年来の診断,治療の目覚ましい進歩が泉先生の自説とともに実に明快に書かれている。また歴史的発掘に記述されていることは,専門家にとっては知識の整理,呼吸器科以外の先生,コメディカルにとっても,現在の治療に関わるうえで大変役立つと思う。

 本書は,疾患の一般的知識はもちろんであるが,医療経済学から功労者の紹介に至るまで実に多彩な内容で,読者を飽きさせない。泉先生の真骨頂である。私も『日本の研究者』で,20年来直接的間接的に関わってきた先生方を懐かしい思いで読んだ。

 本文はQ&A方式で,かつ一項目が1-3ページと短く簡潔に書かれているので,従来の本のように最初の病態生理あたりで挫折してしまう事は避けられる。診療している時,疑問に思った事をQ&Aの項目から探してそこだけ見るというような診療マニュアル,辞書的な活用方法もできるし,むろん教科書的に,最初から最後まで読破することは,望ましい事ではある。

 この本の特徴は,特に実際の診療,治療に即したマニュアルである点だ。例えばCOPDの診断方法では,「労作時息切れが存在し,十分な喫煙歴があれば,簡易肺機能検査を実施し,一秒量が低下(70%以下)していればCOPDと診断できる」と実に明快に書かれてあるし,喘息の長期管理の項目では,「症状悪化発作時の受診時は経口プレドニン20-40mg/日を3-5日間投与し……,吸入ステロイドの導入量は開始当初から比較的大量を用いたほうが効果的であり……,ガイドラインが示した吸入量は,治療を開始する場合の必要最小量を示していると考えるほうが理解しやすい」というように,専門家が実地医療で経験を重ねたうえでなくては言えない,『コツのコツ』が詰まっている。ステロイドの吸入療法の実際では吸入の仕方やスペーサーの使い方はもちろんであるが,剤形や噴霧器の構造まで詳しく記述され,薬剤師や看護師に大変参考になろう。

 蛇足ではあるが,この内容で本の値段が3800円と格安であるのは驚かされた。ここにも泉先生の喘息とCOPDの知識の普及に対する並々ならぬ意欲を感じた。お勧めの一冊である。

B5・頁288 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00391-9


ファーマシューティカルケア・ファーストステップ

高久 史麿,白神 誠,藤上 雅子 監修
北村 聖 編集協力

《評 者》佐川 賢一(東女医大病院薬剤部長)

チーム医療を担う一員として不可欠な医学・薬学の知識を収載

 本書では,薬剤師にとって医療新時代を迎え,チーム医療の担い手として活躍する際に不可欠な医学・薬学の知識および服薬コミュニケーション技能を総合的に修得できるように要点が簡潔に編集されている。薬剤師をめざす学生はもちろんのこと,新任薬剤師など,現在,医療現場で活躍中の薬剤師にぜひお勧めしたい。

 6年制薬学教育がスタートし,特に医療薬学分野のスキルアップが求められている。学生には,医療薬学系講座の拡大・充実と医療機関・医療提供施設における長期実務実習が義務化され,より一層の実践的専門的知識・技能の修得が要請されるようになった。一方,病院薬剤師・保険薬局薬剤師は,医薬品本来の有効性,安全性を熟知し薬物治療を主体として患者のケアに当たる必要があると同時に,学生の実務実習に向けた指導薬剤師として資質の向上が求められている。

 本書の特徴は,薬学6年制教育用コアカリキュラムで学ぶ36の主要な疾患を取り上げ,疾患ごとに専門医師による疾患の解説,薬剤師による治療薬の解説,次に医師からの代表的症例の解説,そして薬剤師から患者への服薬コミュニケーションという一連の流れで構成されている点である。読者にとって非常に理解しやすく工夫されており,表現も簡潔で,とてもわかりやすい。さらに,疾患と治療などへの理解を深める関連情報をアプローチとして記載している点も大いに参考になる。

 医師による疾患の解説では,病態,診断,治療の順に要点が記載されている。また,薬剤師による治療薬の解説では医薬品ごとに作用機序,適応,特徴,注意事項,副作用が箇条書きにわかりやすく書かれている。次に医師からの代表的症例の解説では患者背景,検査所見と診断,治療,処方意図,経過の順に記載されている。

 服薬コミュニケーションでは,まずモデルの処方せんが示され,薬剤師からの問いかけ,服薬の意義,副作用発現の確認,注意事項の説明,患者からの症状変化の説明,患者の疑問などがリアルな会話形式で表現され生きた知識として身に付くように工夫されている。そして,会話の段落ごとに,確認するべきポイントをゴシック体で表示し要点整理がなされている点も親切である。要点をしっかりと聞き出し,かつ患者へ伝えるという技術も学ぶことができる。また,参考文献,引用文献が各疾患ごとに紹介されており,エビデンスが求められる現在,必要に応じ元文献の検索が可能になっている点もありがたい。

 本書は疾患ごとのファーマシューティカルケアに必要な知識・技能が総合的に表現され,理解しやすい構成になっており,すぐに役立つ実践的教科書といえよう。

B5・頁352 定価4,500円(税5%込)発行:ライフメディコム,発売:医学書院
ISBN978-4-260-70057-3

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