医学界新聞

2007.11.12

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


神経解剖集中講義

寺本 明,山下 俊一 監訳
秋野 公造,太組 一朗 訳

《評 者》松村 明(筑波大教授・脳神経外科学)

神経解剖がそのまま 神経臨床につながる良書

 このたび,寺本明先生・山下俊一先生・監訳,秋野公造先生・太組一朗先生・訳による『神経解剖集中講義(High-Yield Neuroanatomoy, 3rd edition, by James D. Fix, Ph.D.)』の訳本が出版された。本書の原題でまず目を引くのが“High-Yield”という言葉であるが,訳本では“集中講義”となっており,翻訳にあたっての工夫が感じられる。

 “High-Yield”とは,直訳すれば高収益,高利益,高収率といった意味があるが,本書はまさにそのような著者の哲学がふんだんに盛り込まれている。実際に内容を拝見すると単なる神経解剖書とは異なり,解剖図譜,MRI画像,CT画像などがふんだんに盛り込まれており,臨床に即した実用的な記載になっている。

 さらには疾患の画像や疾患の病態の説明が随所に盛り込まれており,基礎的な神経解剖と実際の疾患の結びつきが一気に学習できるように工夫されている,まさに“High-Yield”,もしくは“集中講義”といった表現がぴったりとあてはまる好書である。

 近年,日本でも趨勢をきわめている,臓器別統合型カリキュラム,PBLチュートリアルのためのよい教科書はなかなか見つからず,それぞれの解剖書,生理学,臨床症候学の教科書を並べて学習しなければならない場合も多い。本書は神経解剖から神経症候についてすべてが網羅されており,神経解剖講義・実習から臨床症候学までを一冊で網羅できることは教える側からも教わる側からしても非常にありがたい。

 学部の神経解剖実習においても,最近では基礎医学教官に臨床医学の教官も加わって神経解剖実習を行っているところもあると聞いている。神経解剖がそのまま神経臨床につながっていくことを実感することにより学習のモチベーションが高まったり,解剖の知識をその場で神経症候の理解に用いることができるといった学習の効率化という意味合いでも,本書は神経系のコースには最も適した著書といえよう。

 本書の最後の付録に脳神経の一覧,参照図,コア・カリキュラム対応内容,専門医のためのキーワードなどが追加されており,訳者らが本書をさらにグレードアップさせるための意気込みが感じられ,原著にも増して充実した内容にパワーアップしている。

 本書は医学部学生の神経系コースのテキストとしては必須の書であるが,看護師,理学療法士,作業療法士,その他神経解剖に関連する医療分野の学生にも推薦できる良書である。さらには,忙しい中で受験勉強を行わなければならない脳神経外科や神経内科専門医受験生の医師にも効率よく学習のできるテキストとしてぜひ活用いただきたい。

B5・頁228 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00349-0


《総合診療ブックス》
今日からできる思春期診療

原 朋邦,横田 俊一郎,関口 進一郎 編

《評 者》蜂谷 明子(蜂谷医院・小児科)

本とともに考え学ぶ 思春期診療のバイブル

 「ベツニ…」「ビミョー」などと言葉を発してくれるならまだしも,何と声をかけても俯いてオホーツクの海の如く冷たく「……」ばかり。私のかける声はポカリポカリと浮いている流氷のよう。診察している自分のほうがドギマギしてしまう……。

 思春期の子どもの診察は各年代の中でもっとも苦手としている。さりとて興味がないわけではなく,何とかしたいと切望している年代でもある。なぜなら彼らは無表情ではあるが,私の言葉がちゃんと耳に入っているし,聴診をすれば頻脈・動悸があったりするのである。この複雑怪奇で興味深く,愛らしい思春期患者の診察に頼もしい助っ人ができた。

 本著は見たところコンパクトだが,一気に読破してしまうという本ではない。とにかく1頁,1頁が凝縮されていて,じっくり味わい,アンダーラインを引き,付箋を貼っていく本である。

 本著は「思春期診療キーワード」から始まる。総論的に思春期の特徴を表す言葉のていねいな解説にまず引き込まれる。「思春期診療においては,身体面と心理社会面を総合的に評価して,併存症(Comorbidity)の有無とそれらの関係について的確に把握」し「優先度を考えて取り組む」というセンテンスは,自分がわかっているようでわかっていなかった診療への姿勢を正された気がした。

 「思春期のとらえ方・接し方」のうれしくなるような明快な説明に続き,いよいよ各論の「思春期に気になる症状・所見」の提示となる。私たちが診療所でよく出会う子どもたちである。「問診のポイント」「診察のポイント」「アセスメント」「マネジメント」とていねいに導いてくれるので,本とともに考えていく体験学習ができる。そして最後の「Caseの教訓」と「Q&A」でも大納得!!

 症例は多方面にわたるが,私の不得意な思春期の統合失調症(若年性統合失調症)は,しっかり理解していないと特異な不定愁訴として見逃してしまい,判断の遅れから患児の不利になる事態を導く恐れがあることを肝に銘じることができた。またさらに精神科を受診してもらうまでの“保護者の理解のための下準備の方法”はより具体的でありがたいアドバイスであった。

 共著にもかかわらず,本全体がきちんときめ細かく順序だっているので,読み進むとともに自分の中で理解が深まりスキルアップしていく実感を持つことができる。読み終えた今,私の頭の中はとても収納しやすい整理棚が用意され,順序よく引き出しのラベルまで貼ってい...

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