医学界新聞


米国疼痛緩和医療フェローシップ経験より

寄稿

2007.11.12

 

【寄稿】

米国疼痛緩和医療フェローシップ経験より
今後の日本の緩和医療教育への提言

関根龍一(亀田総合病院 緩和ケア科医長)


 2001年から5年半,米国で内科と疼痛緩和医療の臨床研修を受け,米国ホスピス緩和医療専門医資格を取得した。この経験より考える今後の日本の緩和医療のありかたについて私見を述べたい。

なぜ緩和ケア医を志したのか

 私の実家は仏教寺院で,3-4歳より経を読み,小学生の頃から葬式など寺の行事を手伝っていた。そのためごく自然に人間の死をどう扱うべきかという究極的問題について人生の課題として取り組みたい,と思うようになった。医学部を志した時点から,育った環境を生かせる分野として,緩和医療をライフワークにすると決めた。

米国で内科レジデントから疼痛緩和医療フェローに至るまで

 米国で緩和ケアフェローシップに応募するためには,内科,家庭医科,小児科,外科などの基礎診療科目のどれかのレジデント研修を修了していることが必須。私は内科レジデンシーを3年経験した後,フェローシップに応募した。

 通常,1施設でフェローシップ研修をし,専門医試験を受けて緩和医療専門医となるが,私は米国での貴重なトレーニング機会を帰国後に最大限に生かすため,プログラムディレクターの好意により例外的に計3施設で疼痛緩和医療フェローシップを行うことを許された。

 また米国で緩和医療専門医試験を受けるためには,これまでは一定水準以上の臨床能力を書類提出で許可されて受験する方法と,学会認可のフェローシップを修了する方法の2通りあった。しかし2006年,ホスピス緩和医療が正式に専門科として認可されたため,認可されたフェローシップ研修を受験者全員に必須とすることが検討中である。以下に私が経験した3つのフェローシップを紹介する。

ベスイスラエル病院(BIMC)疼痛緩和フェローシップ(1-2年)
 麻酔科傘下のペインマネジメントフェローシップと,末期患者対象の緩和ケアフェローシップを融合させたBIMC独自の非常にユニークなプログラム。フェローシップは3つの研修枠に分かれ(表),私は2)の枠で研修した。

 ベスイスラエル病院「疼痛緩和フェローシップ」のプログラム内容
1) Pain fellow(interventional track):pain procedure7か月,入院患者pain/palliativeコンサルト2か月,入院ホスピス1か月,特殊外来(註1)1か月,急性疼痛,術後疼痛管理1か月。年間を通じ,週1-2回外来で慢性疼痛患者の管理。
2) Pain fellow(medical track):入院患者pain/palliativeコンサルト3か月,pain procedure3か月,入院ホスピス2か月,在宅ホスピス2か月,急性疼痛,術後疼痛管理1か月,特殊外来1か月。年間を通じ,週1-2回外来で慢性疼痛患者,がん疼痛患者の管理。
3) Palliative fellow:入院ホスピス3か月,在宅ホスピス4か月,入院患者pain/palliativeコンサルト3か月,特殊外来2か月。年間を通じ,週1-2回外来でがん疼痛患者の管理。

 この科の対象は,急性,術後,癌性,非癌性の慢性など,すべての緩和医療が必要な疼痛患者である。当科の有名医師に診てもらうため,全米から集まるあらゆる難治性疼痛患者を経験できる。指導医の研修歴は神経内科,内科,麻酔科,リハビリテーション科などさまざま。疾患や疼痛症候群の多様性から多くを吸収できる反面,ややまとまりがない欠点もみられる。

メモリアルスローンケタリングがんセンター(MSKCC)疼痛緩和フェローシップ(1-2年)
 米国で最古の疼痛緩和フェローシップの1つ。1980年代にMSKCCの神経内科をベースにつくられた。オピオイドやその他の疼痛関連の基礎および臨床研究がさかん。疼痛緩和科としては積極的治療中の疼痛コントロールや症状マネジメントのコンサルトが業務の中心。病院の目標はがん撲滅なので,研修した3箇所の中で最もトータルケアとしての緩和ケア導入が難しい施設であった。疼痛緩和科と連携して,サイコオンコロジー部門があり,同分野を世界的にリードする。難治性がん性疼痛の症例が集まり,薬物療法,侵襲的治療法などあらゆる最先端の疼痛コントロールが行われる。

 基本的には,コンサルト業務のローテーション6か月,緩和ケア専門病床2-3か...

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