医学界新聞

2007.10.29

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
上部消化管 第2版

芳野 純治,浜田 勉,川口 実 編

《評 者》上西 紀夫(東大大学院教授・消化管外科学)

内視鏡に携わるすべての人に教科書・辞書となる必携の書

 もう30年以上前になりますが,教室の前身である東大分院外科で研修していたとき,毎週木曜日に諸先輩や内視鏡診断に意欲のある先生方が症例を持ち寄って内視鏡の読影についての勉強会があり,わからないながらも参加していました。そしてあるとき,当時の順天堂大学教授でおられた城所仂先生から,「内視鏡でいちばん重要なのはGedankengangだ」と教えていただき,この考え方が内視鏡診断の原点となっています。

 つまり,内視鏡像を読み取って疾患を診断し,その病変の範囲や病態を頭に描き,そのうえで1枚1枚の内視鏡写真が見る人へのメッセージとなるよう,その疾患がわかりやすいように提示することが大事であるということです。その意味で,内視鏡写真はまさに芸術でありアートです。しかしながら,最近ではコンピュータ上で何枚でも撮影でき,また,消去できるためか,よく考えもせずにやみくもに写真を撮り,その後でゆっくりと見て診断しようという傾向があるように思えます。また,色素内視鏡や拡大内視鏡,NBI(Narrow Band Imaging)などさまざまな方法が開発され,より病変が見やすくなっていることもこの傾向を助長しているように思われます。すなわち内視鏡診断の基本であるGedankengangが少し疎かになっているのでは,と老婆心ながら危惧しています。

 さて,このGedankengangをしっかりとし,そして表現するために必要なことは,数多くの内視鏡像を見ること,また数多くの疾患を経験することです。しかしながら,実際に1人で経験できる症例やその数には限りがあります。その点において,本書は,305例の症例提示という数はもちろんのこと,通常よく経験する症例のみならず比較的少ないが鑑別診断として知っておくべき症例が数多く提示されており,大変参考になります。

 本書の構成としては6つの章から成っており,まず第1章から第3章までは,咽頭から十二指腸までの上部消化管内視鏡における基本的事項が書かれています。続いて第4章で咽頭・喉頭と食道,胃・十二指腸の疾患について,豊富な内視鏡像や病理組織像が提示されています。第5章では,内視鏡医にとって決して疎かにしてはならない生検組織診断についてわかりやすく解説がなされています。そして最後の第6章では,内視鏡診断や治療において知っておくべき各種の分類や規約,用語などが掲載されています。まさに内視鏡診断と治療に関する辞書と言えます。

 特に本書の中心となるのが第4章の「所見からみた診断へのアプローチ」です。その最大の特徴は疾患名,病名を列挙してそれに関する画像を提示しているよくあるパターンではなく,実際の内視鏡検査をしている立場から記載されていることです。すなわち病変が盛り上がっているのか,陥凹しているのか,また狭窄病変であるのか出血している病変であるのか,といった観点から豊富な症例が提示されています。そして何よりも,その所見の説明や解説においてGedankengangが簡潔に記載されており,内視鏡診断の原点が示されていることが特色です。

 もうひとつ本書の目玉としては,食道癌,胃癌の深達度診断について詳しく記載されていることです。この深達度診断はGedankengangが基礎であり,治療をするうえできわめて大事であることは言うまでもありませんが,最近ではEMRやESDが比較的容易,かつ安全にできるようになったこともあり,診断的治療としてやや安易に行われていることが問題です。その意味でも,深達度診断について内視鏡像のみならずX線造影写真,そして切除標本も示しながら解説されており,教科書としても価値の高い内容となっています。

 したがって,これまでに経験しなかったような内視鏡所見に遭遇した場合,内視鏡検査の合間に本書を手に取りページをめくっていくだけで大変勉強になり,また診断の向上にもつながります。このようなすばらしい内容にするためには,編集や執筆に当たられた先生方の大変なご努力があったものと思います。心より敬意を表します。

 以上より,本書は初心者から超ベテランまで,内視鏡に携わるすべての人にとって教科書であり,辞書でもあり,必携の書として強く推薦いたします。

B5・頁432 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00313-1


病院ファイナンス

福永 肇 著

《評 者》明石 純(流通科学大教授・経営学)

資金をひきつける病院経営の指南書

 一般的に経営の3大要素として,ヒト・モノ・カネが挙げられている。しかし,病院経営においては,ヒトやモノのマネジメントと比較して,お金のマネジメントにはあまり注目されてこなかったように見受けられる。お金に関係する業務には,大きく分けて,組織体の財政状態や経営成績を測定し記録する「会計(accounting)」と,資金そのものの調達や運用を行う「財務(finance)」があるが,本書は後者の中の資金調達について詳しく解説したものである。

 従来から民間病院の設備資金の主要な調達先であった福祉医療機構などの公的金融機関は縮小傾向にあり,医療費抑制政策によって病院の採算性が低下し,運転資金の必要性が増加している。つまり医療機関は,民間の金融機関からの資金調達に依存する傾向が今後さらに高まっていくことになる。また,このような資金需要をまかなうため,病院債や資産の証券化のような金融市場からの調達も一部始まろうとしている。

 第1部の各章では,バブル経済崩壊後の銀行の変化,医療制度の変化と病院の設備投資,病院の借入の現状と課題など,病院の資金調達に伴う背景が述べられている。第2部の各章では,福祉医療機構など公的金融機関および銀行など民間金融機関からの資金調達について,実務的に詳しく説明されている。第3部の各章では,診療報酬債権や不動産の流動化,病院債などの新しい資金調達の手法についての現況がまとめられている。

 本書は,金融と医療経営の双方に造詣が深い著者によって,病院の資金調達のあらゆる側面についてていねいにまとめられた労作である。全体としての重点は民間銀行からの資金調達にあり,随所に銀行側の見方が散りばめられていることは,借入側である病院関係者にとって参考になるであろう。全30章にわたって,わかりやすく具体的に記述されており,全体を通読すれば病院の資金調達の全体像と詳細が把握できるだろう。

 1点だけ指摘するならば,今後の課題として「病院株」が提唱されているが,これについては疑問が残る。株式の本質は,「返す必要のない夢のような資金」ではなく,「返す必要がないゆえに高いリターンが要求される資金」であり,リターンとは主に経済的リターンである。経済的リターンがあるからこそ社会から資本が集まるのであって,非営利性を担保する(配当や値上がり益を期待しない)株式が仮に考案できたとしても,それは医療法人に対する現行の出資金や寄付金と変わりがないのではなかろうか。

 医師や看護師不足の昨今,よい人材を集める病院がマグネットホスピタルと呼ばれて久しいが,これからは資金もいかにマグネットのように集めるかが病院経営の必要条件になるであろう。そのためには資金調達の手法について熟知するとともに,融資する側の論理を理解して外部者にわかりにくい医療経営の特性について十分に説明する必要が出てくる。本書は,それに向けて具体的な行動を進めるための,病院の経営者や事務長,財務担当者などにとって必読の書といえよう。

A5・頁416 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00448-0


日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン準拠
CRCテキストブック 第2版

日本臨床薬理学会 編
中野 重行,安原 一,中野 眞汎,小林 真一 責任編集

《評 者》伊賀 立二((社)日本病院薬剤師会長)

広範かつ複雑な治験の内容を最新知見に基づき解説

 1998年,日米欧のハーモナイゼーションに基づいたわが国の臨床試験(治験)における新GCP(Good Clinical Practice)が完全実施された。CRC(Clinical Research Coordinator)はこの新GCPによって誕生した職種で,わが国では治験コーディネーターと呼ばれており,その守備範囲は治験の枠を超えて臨床試験を含む臨床研究全般に及んでいる。医薬品の臨床試験におけるCRCの役割は,臨床試験コーディネーターとして,(1)創薬ボランティアのケア,(2)治験担当医師の支援,(3)治験依頼者との対応(モニタリングと監査),(4)治験が円滑に進むように全体のコーディネーションを行うことと要約され,今では臨床試験になくてはならない重要な職種となっている。

 CRCの養成は,2000年以前は種々の団体が個別に実施してきたが,2001年に各団体が一堂に会して,「CRC連絡協議会」を結成し活動をともにすることとなり,その後2001年秋に第1回の「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」が開かれ,その後,毎年開催され,現在では参加者も2千数百名を超えている。

 日本臨床薬理学会ではCRCの認定を支援するために2000年末に「CRCの養成・認定に関する委員会」(委員長:中野重行先生)を発足させ,「CRCのための研修ガイドライン(項目)」を公表した。この研修ガイドラインに準拠した形で本書の初版が2002年10月に刊行され,CRC養成のテキストブックとして活用され,わが国の臨床試験の推進に貢献してきた。本書はその後5年間のわが国の臨床試験の進展を踏まえ改訂された第2版である。

 本書の構成は,「A.総論」「B.CRCの役割と業務」「C.臨床試験・治験の基盤整備と実施」「D.医薬品の開発と臨床試験」「E.薬物治療・臨床試験に必要な薬理作用と薬物動態のポイント」「F.臨床試験の留意点」の6つの章からなっている。内容の一部を紹介すれば,「A.総論」ではCRCの概念と定義,臨床試験の歴史と倫理性,臨床試験の実施基準(GCP)などが,「C.臨床試験・治験の基盤整備と実施」では,治験事務局,治験審査委員会(IRB)などの実施体制に加え,インフォームドコンセント,モニタリング,情報提供,有害事象への対応,賠償と補償などが,また,「F.臨床試験の留意点」では,腎障害,肝障害などの疾患別の解説もなされている。さらに,巻末には付録として日本臨床薬理学会の認定CRC試験の受験に役立つ試験の例題と評価のポイントや研修ガイドラインなどが付けられている。

 本書は,現時点での最新の知見に基づき,広範かつ複雑な臨床試験に関する内容がわかりやすく解説されており,これからCRCをめざす方々はもとより,現役のCRCとして活躍されている方々や臨床試験に関わるすべての医療従事者にとって必携のテキストとして推薦したい。

B5・頁384 定価4,620円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00434-3


標準眼科学 第10版

大野 重昭,木下 茂 編
水流 忠彦 編集協力

《評 者》石橋 達朗(九大教授・眼科学)

綿密な吟味のもと改訂された「記念すべき第10版」

 本教科書は1981年に初版が出版された。私はこの年,ちょうど大学院を卒業した。臨床に戻る私にとって,最新の,しかも標準的な眼科学を改めてざっと復習するのに,本書は最適の教科書であった。

 それから現在までの26年もの間に,この書は9回も改訂を重ねている。より新しい眼科学の知見を常に取り入れていく,という姿勢には脱帽である。特に今回の第10版は編者が「記念すべき第10版」と記しているようにかなり綿密な吟味のもと,改訂がなされている。

 近年の診断機器の改良はめざましく,Heidelberg retina angiographによる網脈絡膜血管のより微細な観察が可能となり,OCT(optical coherence tomography)は網膜の10層構造を詳細に映し出し,今まで発見することが困難であった失明につながる網膜疾患の診断を飛躍的に向上させた。本書の中では,これらの診断機器の進歩に則した,より新しい画像,インパクトのある画像へと常に切り替えられてきている。

 また,緑内障の項では年齢別有病率のグラフ,ぶどう膜炎の項ではベーチェット病の発症地域の分布図を示すなど,より身近に疾患を感じながら勉強できるよう工夫されている。

 今回新しく神経眼科の項も加えられた。神経眼科は,普通の眼科医でも取り組みにくい分野である。しかしながら,疾患としては増加傾向にあり,日常の診療でも専門的な知識を要求されることが多くなってきている。本書で神経眼科に少しでも親しみがわくことによって,さらに高度な内容を理解する取り掛かりとなるであろう。

 本書は医学生の教科書としてのみ用いられるにはもったいない書である。研修医はもちろん,専門医の試験前に「豊富なカラー写真から,その病因を考えさせる,考えてわかる書」,として,十分,読みごたえがありそうである。

B5・頁384 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00380-3


認知行動療法トレーニングブック DVD付

大野 裕 訳

《評 者》坪井 康次(東邦大教授・心療内科)

理論や治療の全体像を理解しすぐに臨床応用できる実践書

 何事も技術を習得しようとするときには,多くの努力を必要とし,なにがしかの困難が伴うものである。時には,とてつもなく長い時間を必要とする場合もある。いろいろな技術をいかにわかりやすく効果的に,しかも確実に伝えていくかは非常に重要な課題である。いろいろな目的でトレーニングブックが考案されているが,実際に手に取ってみるとがっかりさせられるものも少なくない。

 その点,このトレーニングブックは,米国精神医学会からの出版であることもあり,種々の点で非常によく考えられている。理論や治療の実際の全体像が理解しやすくなっているばかりでなく実用的である。

 最初に,本書の使い方や認知行動療法の理論の背景が簡単に紹介されている。そして各章ごとに必要に応じてDVDによるVideo Illustrationが用意されている。これを見ると治療者のとるべき態度,治療的な雰囲気が手に取るようにわかる。

 また,各章に学習者が自ら行うLearning Exerciseが的確に挿入されていて,学習内容を確認しやすく工夫されている。巻末には,患者用に用いる各種ワークシートが載せられているが,そればかりでなくスーパービジョンのためのチェックリスト,治療者のコンピテンシー・チェックリストなどが用意されており,日々の臨床やロールプレイなどのトレーニングに活用できるようになっている。まさに学習者中心の構成である。

 さらに本書の特徴は,治療関係の構築についてかなりのページ数をさいて,Video Illustrationを2つ用意しているところである。治療関係をいかに構築するかという問題は,心理療法では,往々にして,あるいは常にといっていいほど重要な部分である。2章の「共感性,温かさ,そして誠実さ」,「協同的経験主義」の中で治療者の活動レベル,教師-コーチとしての治療者,ユーモアの活用,柔軟性と感受性などが取り上げられていて,しかもこの辺の様子が,ビデオによく反映されている。「転移」「逆転移」への対応の仕方についても触れられている。

 この本で取り上げられている認知行動療法は,うつ病性障害の治療方法としてBeckらにより開発された精神療法として有名であるが,無作為比較対照試験による豊富なエビデンスにより心理学や精神医学の領域に大きなインパクトを与えた。

 そして,いまやうつ病性障害の治療ばかりでなく,パニック障害や社会不安障害,強迫性障害,PTSDなどの不安障害の治療には欠かせない標準的な治療技法として評価されている。また,最近ではパーソナリティ障害や統合失調症の治療,あるいは生活習慣病の治療にまで適応範囲を広げている。こうした背景から,米国では,精神科レジデントがぜひ取り組まなければならない必須のコンピテンシーとなっているという。

 わが国においても精神科医,心療内科医はもちろんのこと,メンタルヘルスや行動面への介入に興味を持つ人には必読のテキストであるといえる。

A5・頁360 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00426-8

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