医学界新聞


「連携-がんの着実な減少に向けて」

2007.10.29

 

「連携-がんの着実な減少に向けて」

第66回日本癌学会の話題から


 第66回日本癌学会が10月3-5日,鶴尾隆会長(癌研)のもとパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。本紙では当学会の機関紙「Cancer Science」の発刊100周年記念パネルディスカッション「がん研究の現在・未来」(座長=札幌医大・今井浩三氏,東大・宮園浩平氏)について報告する。


連携と国際化

 本年の総会テーマは「連携――がんの着実な減少に向けて」。このテーマを受けて,プログラムにもシンポジウム「医工連携」「産官学連携」のほか,医薬連携,学会間連携,また国際研究における連携など,あらゆる領域との連携をもとにがん研究の進歩をめざす企画が数多く見られた。

 加えて本年は,当学会の今後の国際的発展に向けての第一歩として,初の試みであるInternational Sessionsを開催。他にもJCA-AACR-SIC Joint Symposiumや,English Workshopなど英語での進行によるプログラムが行われた。また大会プログラム集や講演時の資料もすべて英語とするなど,国際化を意識した学会となった。今後,学会では特にアジアを中心に,欧米先進国の研究者とも研究連携を深める試みだという。

がん研究の現在・未来

 日本癌学会の機関誌「Cancer Science」は明治40年に「癌」という名前で発刊された世界で最も古いがん研究の専門誌のひとつ。ウサギの耳にコールタールを塗って人工がんを発生させることに成功した山極勝三郎氏が創刊した。

 「Cancer Science」の発刊100周年を記念したパネルディスカッション「がん研究の現在・未来」で,はじめに宮園氏は,第3次対がん10か年戦略から日本におけるがん研究の現状を紹介。佐谷秀行氏(慶大)は,「発がん研究の立場から」と題して口演。今後のがん基礎研究における重要なテーマとして「The cells origin for cancer」「Key molecular event for cancer」「Animal model v.s. human cancer」「Microenvironment」の4つを挙げた。

 浜島信之氏(名大)は,「Now and perspective in cancer epidemiology」と題して口演。疫学研究は感染症から慢性疾患,遺伝体質とその対象が発展してきている。特に近年は遺伝子的要因と環境要因の相互作用に焦点が当てられており,これらの研究が進められていくと,がんの予防に有効であると述べた。

 高橋隆氏(名大)は,がんの遺伝子・診断法について口演。多面的ながん診断について解説した。そのうえで,今後,ポストゲノム時代の診断学発展の助けとなるのは(1)方法論,技術,道具,分析ツールなどのテクノロジーの進歩,(2)データベースや試薬,組織・血液・体液の保管所などであると述べた。前原喜彦氏(九大)「みる」という言葉から,医師ががん患者に対応する場合の重要なタスクとして瞰る(Overview)→視る(Inspect)→診る(Examine)→観る(Observe)→看る(Care)→察る(Investigate)→省る(Review)というサイクルを紹介した。

若手研究者育成のために

 石川冬木氏(京大)は,若手研究者の育成について口演。患者に対する研究者の数の減少に加え,専門領域の細分化によるたこつぼ現象,キャリアパスの多様化などを挙げ,今後,高校生・大学生に対する情報発信や,大学院生と若手研究者の交流促進,多様なキャリアパスの支援などが必要となると述べた。実際に行われている試みとして,文部科学省がん特定領域研究による,青少年・市民公開講座を紹介。一般市民にがん研究をわかりやすく情報発信するほか,高校への「出前授業」を通して次世代のがん研究者たる高校生にがん研究に興味を持ってもらう取り組みなどを行っている。また,がん若手ワークショップなど若手研究者同士の交流も促進している。今後の課題として国際的な交流,キャリアパスの構築や異分野融合,ポジションの整備を挙げた。

 国際戦略については谷口維紹氏(東大)が登壇。谷口氏は,「Cancer no border」と述べ,Joint meetingの開催や,技術開発,発展途上国への支援などのグローバルプロジェクトの検討や多国籍形共同研究および人材育成など,がんに関することがらはグローバルに議論されるべきとの見解を示した。

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