医学界新聞


重症心不全治療の明日を探る

2007.10.15

 

重症心不全治療の明日を探る

第55回日本心臓病学会開催


 さる9月10-12日,第55回日本心臓病学会が齋藤穎会長(日大)のもと,シェラトン・グランデ・トウキョウベイ・ホテル(浦安市)ほかにて開催された。「臨床心臓病学のNew Paradigm――未来医療へのチャレンジと社会への貢献」を大会テーマに掲げ,再生医療の臨床応用と重症心不全――本邦における心臓移植の問題点と展望が大きなテーマとして取り上げられた。


低迷する心臓移植の克服に向けて

 臓器移植法が制定されてから10年が経過したが,いまだ深刻なドナー不足のため,多くの心臓移植適応患者が待機中に死亡している。日本の心臓移植は移植医療が盛んな欧米のみならず,アジア諸国の中でも遅れている。

 シンポジウム「日本における心臓移植の現状と将来展望」(座長=大阪警察病院・児玉和久氏,日大・南和友氏)では,現状を克服するための議論が行われた。

 はじめに児玉氏が,日本におけるドナー不足の要因として,1968年の和田移植を契機とした医学界・医師に対する国民の不信が存在することを指摘し,「医療関係者は謙虚に反省し,今後の移植医療の定着や拡大のために,情報提供や啓発活動を通し社会的合意を得る努力が必要」と述べた。また,移植医療の認定施設が数施設に制限されている現状にも疑問を呈し,認定基準など行政からの改善・支援策が必要と言及した。

 続いて南氏は,海外渡航移植について心臓移植適応患者の3分の1が手術待機中に死亡し,15歳未満の症例では,海外での移植が40%を超え渡航移植に依存している現状を紹介。海外でもドナー不足は深刻化しており,こうした状況を克服し,日本で心臓移植が行われるためには,ドナーカード所持と家族の同意の二重制約と15歳未満の心臓移植を禁止している臓器移植法の速やかな改正が必要と述べた。

 一般市民の立場からは医療問題に取り組んできた田辺功氏(朝日新聞社)が登壇した。骨髄移植に比べ,臓器移植は国民の側からは見えないベールに包まれている状況を指摘。骨髄移植のように,「患者を幸せにする移植医療をより身近なものにしていく啓蒙活動が十分行われていない」と強調。そして,こうした国民意識を認識せずに,ドナーカード所持・家族の承諾のみで移植医療を可能にするなど,症例数を増やす方策では大きな効果は得られないのではないかと指摘した。

 布田伸一氏(東女医大)は,海外渡航心臓移植例管理について所属施設の患者管理成績を紹介し,「日本の移植後管理成績は欧米のものと比べても遜色なく,移植後管理体制に問題はない」と報告。海外渡航移植に頼らざるを得ない国内のドナー不足対策について,臓器移植法の改正の他に,「臓器提供時の負担をドナーだけではなく,臓器提供病院においても少なくするためにも移植臓器提供病院数を増やす必要がある」と述べた。

 続いて「心臓移植治療の現状:移植待機例の経過と予後から」と題し,松宮護郎氏(阪大)が登壇。阪大において心臓移植までの移植待機期間が平均2年以上にわたり,機械的補助循環が必要な場合が多いことを説明。心臓移植への橋渡しに加え,destination therapy(DT)を含めた長期間補助を可能にするため,「軸流ポンプをはじめとする小型VAS(補助人工心臓)の普及,VAS治療中に積極的に自己心の回復を図る取り組みが重要」と述べた。

 許俊鋭氏(埼玉医大)は,心臓移植低迷の中,移植待機期間が長期に及ぶため,VAS装着症例のQOL向上も大きな課題と指摘するとともに,植え込み型VAS治療の可能性について言及した。植え込み型VASによる長期在宅療養をめざす中で,(1)心臓移植,(2)心臓再生医療,心臓再同期療法,薬物治療による自己心機能の回復,(3)VASの半永久的使用,などの可能性を探るとともに,社会復帰促進を目標に位置づけDTに対する社会的コンセンサスを形成することが必要と語った。

再生医療の現状と核医学を用いた評価法

 心臓核医学会ジョイントセミナー「再生医療と核医学検査」(座長=日医大・汲田伸一郎氏,東邦大医療センター大森病院・山崎純一氏)では,はじめに安武正弘氏(日医大)が,99mTc-MAAを用いた血管新生を評価。99mTc-MAAは径20-60μmの粒子であり,冠動脈内直接投与により冠動脈血管床をイメージできるため,細胞移植のみならずサイトカイン治療などの血管新生の評価に役立つ可能性を示唆した。

 高瀬信弥氏(福島県立医大)は,心筋と末梢骨格筋への自己骨髄・末梢血単核球細胞移植(BMCT)の治療効果について,「BMCTは有害事象がなく,安全な治療であり,心筋症例では投与細胞数に依存した血流改善効果が認められた」と発言。一方で,下肢症例は改善効果が少ない結果となったが,「単位あたりの投与細胞数が心筋と比べ少なかったことが治療効果に影響を与えた可能性があり,細胞数増加などの工夫が必要」と述べるとともに,下肢における核医学の評価法は検討が必要とした。

 米田正始氏(京大大学院)は,副作用が少なく局所効果が得やすい非遺伝子使用・局所限定治療としての徐放化細胞増殖因子治療について口演。bFGF徐放化ゼラチンハイドロゲルは,簡便かつ時間的・空間的局所血管新生が可能と,bFGF徐放の下肢虚血における改善効果を報告。心臓血管外科領域においても,「bFGFなど各種幹細胞の徐放を再生治療や従来の治療と組み合わせることにより,一層の治療効果が期待できる」と述べた。

 現在,心臓再生には細胞移植と体内での再生促進の2つの方法が考えられている。小室一成氏(千葉大)は,造血性サイトカイン治療に用いられるG-CSFは後者の血管新生による改善と考えられていたが,「G-CSFの主な作用は心筋細胞保護であり,心筋細胞の増殖や新生は行っていない」と報告した。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook